帝鬼軍のヤボウ 2






「あれ。一瀬君」

会議を終え、官舎から家に向かおうとしていた聖璃。
すると、偶然なのかグレンとばったり会った。

「聖璃か、どうかしたのか?」
「別に? 会議が終わったから一旦家に戻ろうとしてただけだけど。そういう一瀬君は? つか、アンタ会議出てなかったでしょ。何でなのか暮人様もいなかったし」
「…さぁな」

グレンは先程まで暮人といたことを思い出したが、はぐらかすような返答をする。

「まぁ別にアンタが何してようが何でも良いけど」

「全く、しょうもないわね」とわざとらしくため息をつくと「うっせぇ」と返ってくる。

「はいはい、しょうがないから特別に会議で出たことを話してあげるわ。…1ヶ月後に月鬼ノ組は名古屋へ行き、そこで一気に吸血鬼達を殲滅するそうよ」
「……」

既に上層部まで情報が行っていたのか…と、眉をピクッと動かす。

「しかも…。次の戦いは恐らく新宿のときより死者が出るだろうと」
「だろうな……」

何せ、名古屋といえば敵の本拠地から近い位置にある。
それを月鬼ノ組が請け負うということは、捨て駒として思われている証だろうと判断している。

「と、いうことらしいわよ。隊長さん?」
「ああ。分かった」
「って、お礼の言葉ぐらいないわけ?」
「恩着せがましいなおまえ」
「月鬼ノ組の頭領であるアンタが不在だったから仕方なく話を聞いてあげてたわよ! 本っ当、あの重っ苦しいのに耐えるのが辛かったわ」

胸糞が悪くなった聖璃は再びため息をつき、「じゃあね」とすれ違うように歩き出す。

「聖璃」
「ああ? まだ何かあるの?」
「月鬼ノ組、って事は…。お前が育てた隊も行く事になるぞ」
「…! っ、知ってるわよ……」
「そうか」

聖璃の反応を確認し、グレンも反対方向を向きそのまま去った。

「…マコ、利香、タロ、弥生。…………秀作……」

ぽつりと呟いたその名は、かつて聖璃が教育係として育てていた"鳴海隊"のメンバーの名前だ。

「…やれやれ、随分感慨深くなったわね。歳のせいかしら」

拳を強く握りしめ、睨むように空を見上げ…決意を胸に秘めた。

「…さて、今度こそ帰ろうかな」

その栗色の髪を揺らしながら、再び歩き出す。
一方、珍しく五士と特訓をしている知人は……





「うぉおおおおっ!!」
「っ……!?」
「隙ありだぜ典人兄ちゃ…、うぉっ!?」

五士だと思って斬りつけたのは五士の鬼呪装備《覚世》が生み出した幻影だった。
そして、その本体は、

「ツメが甘いんだよ。バカ弟が」
「いてっ」

知人は軽いチョップを受け、反射的に頭を押さえる。

「ちぇー、また負けちまったよ」
「当たり前だろ? 俺の方が実戦経験豊富なんだぞ?」

「お前とはここが違うんだよ」と力の差を見せ付けるように腕をポンポンと叩く。

「くっそー、典人兄ちゃんの鬼呪装備は攻撃向きじゃねーのになぁ」
「オイ知人、それは貶してんのか? おお?」
「べっつにー」
「このヤロー…」

知人の態度に我慢の限界が来たのか五士は速攻で知人の頭を掴み、ぐりぐり押し始める。
同時に、知人の悲鳴も部屋中に響き渡る。

「ってぇよ〜典人兄ちゃん!! 頭ぐりぐり嫌いなの知ってんだろ!?」
「じゃあアレか? 聖璃ちゃんにやってもらうか?」
「イヤだ」

幼少期に聖璃にやられてきた数々の事を思い出し、真顔で即答した。

「だろ? 俺も聖璃ちゃんには何度も殺されかけたからなぁ〜。すっげぇ美人だからいつも許してるけど」
「兄ちゃん強ぇ…」
「知人、もっと褒めても良いんだぞ?」

知人は「いんや」と首を横に振る。

「そうすると兄ちゃんはすっげぇ調子こいて面倒なことになるからやめろって言われてる」
「…誰に?」
「グレン兄ちゃん」
「グレンめ、俺の弟まで既に懐柔しやがってたか……」

ギリィッと歯を喰いしばる五士の行動を理解出来ず、首を傾げる。

「まっ、それは今度こそ別の形で返すとして…知人」
「んお?」
「どうして俺に特訓しようだなんて言ってきたんだ?」
「…………」

その問い掛けをされた知人は顔を俯かせ、

「……この前、すぐに助けに行けなかった」
「…? 誰を?」
「三葉を……」
「三葉って、確か三宮家の…。それはいい、どうしてそれが出来なかったんだ?」
「三葉達が先に行ってる間に俺の隊は吸血鬼と戦ってて、そのせいで足止めされて…っ」

新宿攻防戦を思い返し、憤りを表すように徐々に強張った表情を浮かべる。
それによって知人の思いをようやく理解した五士は、

「…お前の気持ちは十分分かった。ったく、どこまでも俺に似てねぇ青臭いガキだな」
「兄ちゃん……」

その言葉にほんの少しだけ気持ちが晴れた気がした。が……

「でもよ、おまえにはある問題点がある」
「問題点…?」
「ああ。おまえはまだ重大なものがここにある事を自覚してねぇ」

五士が指した所は何故か心臓部付近だった。

「ここ…? 心臓、ってことになんのか?」
「相変わらず鈍チンだなおまえ…。要は、"心"だよ。こーこーろ」
「"心"……。何でそれが関係してんだ?」
「お前は、誰を守りたいんだ?」
「えっ、そりゃあ…。皆本隊の皆に、三葉に……」
「…次、聞くぞ?」

その後、五士からの質問攻めに疑問を抱きながら答えるが、結局どうしてそんな質問をしてきたのか分かることは出来なかった。
すると、質問し続けていた五士は見限ったのか「もういい」と告げる。

「やっぱり、分かってねぇみたいだなぁ……」

はあぁっ…と分かりやすく大きなため息をつき、頭をかく。

「分かんねーよ! 教えてくれよ! オレに何が足んないのか……!」

そう強く訴えたが……

「自分でそれを探してみろよ、知人」
「! 自分で…」
「んじゃ、これからグレンのとこに行くから今日はここまでなー」
「兄ちゃっ……」

呼び止めも虚しく、五士はすぐに部屋から去って行った。

「…何なんだよ、"心"って…」

知人は五士が言った言葉の意味を見出せず、その日はずっとモヤモヤした気持ちのまま過ごした。
それから1ヶ月後、運命の名古屋決戦の日が訪れた……。

prev  On the other side of the fairy tale.">back  next