月鬼のゴウレイ 2






「へい彼女〜、乗ってかない?」
「殺すよおまえ」
「むーっ…」

シノアの言葉に優一郎は若干怒り、シノンはムッとした表情を浮かべる。

「いやしかし、いまの判断はシノアが正しいぞ優、シノン」

三葉がスッと立ち上がり、シノアの代わりにシノンと優一郎に注意する。

「はいはいわかった。じゃあ俺が独断専行して車飛び出した事に加えて、シノンまで巻き込んじまったから罰を与えたの?」
「そんな事ないですよ優様! 私が勝手に…「いえ、違いますね。いまのは純粋に…」
「置いてった方がおもしろいと思っただけだ」
「絶対だめだろ!!」
「……」

「フフフッ」と揃えて笑うシノアと三葉にシノンは瞳孔を大きく開かせながら口を三角形にさせ……

「…私、もう優様しか信じません」

そのまま優一郎の腕に抱き付く。

「! シノンッ!?(っ、いやいやいや…!!)」

優一郎は突然の事に思わず動揺するが、それ以上の嬉しい気持ちが込み上げ心の中で葛藤が始まった。

「あら、本当にそう思っているのですか?」
「……」

シノアの問い掛けに全力で首を縦に振る。
そんなシノンを見て本気なんだとようやく理解したシノアは、

「あはは〜っ…。今度、一緒に美味しいケーキを食べに行きましょう」
「……」
「(すげぇ、あのシノアを謝らせるなんて…)」

優一郎は怒っているシノンの凄さを改めて感じた。
そんなとき、君月が「集合時間まで間がないから早く行くぞ」とシノアに言ってきた。

「あ…ほんとだ。優さんの足が遅いから〜」
「俺のせいじゃねぇだろ!!」
「ふ〜ん……」
「…シノンには言ってませんよ」
「………」

シノンがプイッ、とそっぽを向くと、シノアは分かりやすくショックを受ける。

「オイ、双子妹が完全に拗ねてるぞ」
「シノア、シノノンが一度拗ねると後が大変になるのを分かっていじめっ子したの?」
「いや〜、そんなつもりはなかったのですがねぇ…」

「あはは〜」といつも通りに笑うが、少し冷や汗をかいている。

「つか、俺にも謝れよおまえら……」
「…優様にちゃんと謝るのなら許します……」
「優さんすみませんでした」

そうシノンが呟いたと同時にシノアは優一郎に謝った。

「シノンさん、凄いね……」
「シノアは、ああいうときのシノノンに凄く弱い」
「そうなんだ…」

真音は、「ん、そうだよ」と頷く。と、そのとき。

「はぁ、終わったみたいだな…優」
「?」

君月が優一郎に向けて何かを投げた。それは、

「? 車の鍵、ということは……」
「おまえ、運転しろ」
「え!? いいの!!?」

「やっと車の運転が出来る!」と歓喜する優一郎にシノンは「良かったですね…!」と拍手を送り、優一郎は「おう!」とニカッと微笑む。
その後に君月と優一郎が席を交代した。次の瞬間、

「優さん!! 急いでエンジンかけてください!!」
「え?」
「敵だ!! 敵から逃げるんだ!!」
「え、まさか…」

シノンが気付いたときには既に発車し、今度は君月が置き去りにされた。

「懲りないにも程がありますよ。お二人共……」

「はぁ…」と深くため息をついた瞬間に鬼呪装備の力で車に追い付いた君月はシノアと三葉に刃を向ける。
しかし、シノアと三葉は反省するどころか「与一がやった」と責任を押し付ける。すると、

「ふざけんなおまえら。根っからの優しさを持っている与一がそんなことするはずない」
「真音ちゃん! 落ち着いてっ…!?」

真音も怒りを露わにし、2人の後頭部に火縄銃を突き付ける。
与一はそんな真音を必死に説得しようと立ち上がろうとした…そのとき、

「っわ…!」
「……っ!」

振動でバランスを崩し、後ろから抱き付いてしまった。
それによって怒りよりも驚きの方が勝った真音は咄嗟に火縄銃をしまう。

「ごっ、ごめんね真音ちゃん! 大丈夫だった…?」
「……」
「真音ちゃん……?」

後ろからなので真音の表情がよく見えない与一はどうしたのだろうか…? と首を傾げる。
しかし、運転している優一郎以外は真音の顔がハッキリと見えていた。
今の真音の表情は、完全に顔が紅くなっている。

「(はっは〜、リア充全開ですねぇ……)」
「(ぐぅううっ!! 悔しくなんてっ…!!!)」
「(はぁ、心底どうでもいい……)」
「(真音様、大丈夫なのでしょうか…)」
「何があったんだ〜?」

それぞれ、色々な考えを思っていた。
それから数分後にやっと全員揃い……





「さて、もうすぐ集合場所に着きますが…なぜ渋谷を遠く離れて海老名のサービスエリアに向かっているか、私言いましたっけ?」
「いや、おまえは大切なことはなんにも言わないからな」
「じゃあいま説明しまーす」

シノアの話によると、グレンが率いており、シノア達も所属している《月鬼ノ組》に吸血鬼の貴族襲撃命令が出た。
更に、現在その貴族達が関西から名古屋に向けて部隊を率いて集合しようとしているらしい。
つまり、その関西の貴族達が名古屋で戦力を増強し、東京を襲う前に名古屋にいる貴族10人を潰す、ということだ。

「名古屋か…ミカ、いるかな」
「! ミカ様……あ」

優一郎の言葉を聞き取ったシノンもミカエラを想う。
もし、彼も名古屋に来たら……。
そう考えていると、胸に小さな針が刺さったような感覚がする。
と、そんなとき…海老名の標識が見えた。

「まぁ、詳しい指令はグレン中佐から直接もらえると思いますが」
「じゃあグレン中佐も海老名のサービスエリアにいるの?」
「いえ、グレン中佐だけではなく…《月鬼ノ組》100人が全員が海老名にいます」

与一の問い掛けに対しシノンが答える。

「へぇ〜、やっぱ俺らよりもつぇー奴ばっかなのかな?」
「う〜ん、優さんたちはけっこう強いですからねぇ…でも、チームプレイされたら確実に負けるでしょうね」
「他の皆様はそれぞれ協調性がとてもありますし、チームとしての訓練も沢山されていますものね」

シノンの補足に「そうそう」と微笑みかけるシノア。
すると、君月と優一郎が……

「ああ、なるほどな。いじめで仲間を置いていったりする馬鹿もいないだろうしな」
「え」
「あ、そだな。みんな大人だろうしな」
「「…………」」

彼らの言葉にシノアと三葉はムッと口を強く閉じ、与一は顔を逸らし、シノンと真音は同意の頷きをしたのだった。
一方、到着地である海老名サービスエリアでは……。

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