月鬼のゴウレイ 4
「おっおー、やべぇ。完全遅刻だろこれ」
「もぉー、優さんの運転が下手だからぁ〜」
「シノア姉様」
「あはっ」
シノンは釘をさすように声のトーンを低くさせ、それを察したシノアは誤魔化すように笑う。
「お…怒られるかな?」
「怒られたら断然俺はシノアと三葉を売るね。俺らのせいじゃねぇし」
「仲間を売るとは何事だ!!」
「君玉子の言う通りだと思う」
珍しく真音が君月の言葉に同意している。その理由は……
「与一に責任を押し付けようとした。だから罰を受けた方が良い」
「真音ちゃん、僕は大丈夫だから…」
「ダメ」
与一に宥められるが、今回はかなり頑固になっておりむぅっ…と頬を膨らませる。
その姿を見た与一は、
「(あ、可愛い……)」
とても癒された。
「ってか、どこ停めたらいい? 後ろの方に停めてコソコソいくか?」
「堂々といきましょう。その方がむしろバレません!」
「バレるよ!!!」
「いい加減にしてくださいシノア姉様!!!」
そんな感じで揉め始め、結局後ろからこっそりと入る事にしたのだが…グレンに気付かれてしまった。
そして、シノアが咄嗟に浮かんだボケを言おうとしたが、
「黙れガキがっ!!!」
「っ…!」
グレンの怒鳴り声にシノンは思わず怯み、優一郎の腕にしがみ付く。すると、
「…すみませんでした中佐。今回は俺…いえ、自分の責任です」
「えっ、優様……」
優一郎が前に出て、自分のせいだとグレンに告げる。
「じゃあ、おまえが帰るか?」
「いえ!! 行かせてください!! 今回の任務の役に立つよう頑張ります!! 吸血鬼を倒す役に立ちたいです!!」
「……!」
話を聞き終えたグレンが彼にだけ罰を与えるという判断を下そうとしたとき、
「…っ、待ってください中佐! 優一郎様だけの責任ではありません!!」
「! シノン……!」
「どういうことだ、シノン?」
グレンの鋭い視線にまた怯みそうになったが、グッと堪える。
「…部下の責任は、上司である私の責任でもあります。いえ、元を辿ると私自身が時間管理を疎かにし、かつ皆様の行動を制御し切れなかったことが起因となります。罰を受けるべきなのは私が妥当かと思っております」
「ほう…」
「……」
シノンは真剣に言葉を並べる。
優一郎に、シノアに罰が下らないように。すると、
「! 優様…?」
強く握りしめていた右手が優一郎の左手に触れ、そのまま包み込まれた。そして、
「中佐、シノン軍曹は何も悪くありません」
「!? 待ってく…「自分が独断専行をしてしまったせいでシノン軍曹に多大な迷惑を掛けました。なので、罰は自分が受けます」
「そんなっ……」
最終的に優一郎が罰を受ける事が決まり、グレンはその場にいる全員に語り始め……
「いいかおまえら、生きて帰るんじゃない!! 俺たちは勝って帰る!! わかったか!!」
『おおおおおおお!!』
「…っ」
月鬼ノ組全員がグレンの言葉により士気を高める中、シノンだけは眉を寄せ視線を下に向けた。
その後、すぐに点呼になり……
「シノノン、大丈夫?」
「……」
真音の呼びかけに頷くことでしか答えられずにいる。
自分の不甲斐なさや、優一郎を庇うはずが逆に庇われてしまった申し訳なさが心の中でどんどん募っているのだ。
自然と顔が俯いていく。
「優二、シノノンを助けたかったんだよ」
「分かって、ます…。でも……」
「…あ。シノノン」
「? どうしましたか…?」
「後ろ、向いて」
「え……。こう、ですか…?」
「ん。…えい」
「っ!? わっ、わ……!?」
突然背中を押された事によりバランスを崩し、誰かの背中に顔を埋めてしまった。
その背中の主は……
「うぉっ…!? って、シノン!?」
「ふぇっ!? すっ、すみません優様!! お怪我はありませんでしたか!?」
「いや、別にねーけど…。どうして背中にぶつかってきたんだ?」
「あの、突然真音様に…あれ?」
真音のいる方に視線を向けるが、既に与一の元に行っていた。
「……あ、あははっ…」
次に言う言葉が迷子になり、目を引きつらせながら出来る限りの笑顔をするしかなかった。
「本当に、今朝からすみません……」
「き、気にしなくてもいいぞ…」
「ありがとうございます……」
今朝から何かとツイていないな…と落ち込んでいると、
「あーっ…。シノン」
「はい……」
「さっきは、ありがとな」
「…えっ?」
優一郎が言った一言に両眉が上がり、目を合わせる。
「俺を庇おうとしてくれたんだよな?」
「! 勿論ですよ!私にも…いえ。寧ろ私の方が叱られるべきなのに……」
「んなことねぇよ。さっきも言ったけど、巻き込んじまった俺のせいだからな」
そう言いながらシノンの頭に手を置き、ふわっと撫でる。
「っ…。ずるい、です……」
「えっ?」
「そうやって、いつも…」
撫でられている手にそっと触れた瞬間、瞳が潤む。が、
「シノン…?」
「…いえ、気にしないでください……」
「お、おう…?」
シノア隊が呼ばれる直前になる頃にはやっとそれが落ち着いた。
一体、シノンの心の中で何があったのだろうか……?