試すゲンカク 1
「ふぅ……」
手を洗っている最中、シノンは深いため息をつく。
「どうしたんですか、シノン?」
「シノア姉様…。何でもないですよ……」
「……」
その一瞬で理由を察したシノアはニヤリと笑い、
「いや〜、優さんの先程の仲間思い溢れる一面は罪深いですよねぇ。納得、納得」
「何の話をしているんですか!?」
「「…?」」
そんな双子の会話に手を洗い終えた真音と三葉は首を傾げた。
その後、シノンとシノアも手を洗い終えたところですぐに優一郎達の所へ戻ったとき、
「やあやあ、何してたんですか?」
「おまえらが遅すぎるせいで、いつのまにか俺ら年とってハタチになってた」
「はあ?」
「ハタチ、ですか…?」
唐突に"ハタチ"というワードが出てきた事を不思議に感じるシノン達。すると、
「んで、おまえら何やってたんだよ?」
「え?」
「あ〜」
「っ…!?」
優一郎の問い掛けにそれぞれ困惑し、それを見兼ねた与一と君月がフォローをするのだが、優一郎は全く察していない。
その時、与一がそっと小声で……
「トイレのことだよ」
「あ!?」
「だから「そこ!! 教えなくていい!!」
「うん、トイレ行ってた」
「真音様あぁああっ!! 言っちゃダメですうううっ!!!」
「んむぐっ」
ハッキリと言ってしまった真音にシノンは慌てて彼女の口を両手で塞ぐ。
その様子を見た優一郎は「何なんだ…?」と目を丸くさせる。
それから数分後……
「さて、指令書の確認をしますが〜。と言っても、書いてあることはうちとグレン中佐の隊と鳴海 真琴軍曹っていう人がリーダーの隊と、この前新宿で会った皆本 清吾特務少尉の隊で組んで吸血鬼の貴族を潰すっていうだけなんですけどね」
「なるほど…。つまり、グレン中佐直下という事で詳細を私達に話さなかったのですね」
「ご明察です、シノン」
ズバリと言い当てたシノンにシノアは軽く拍手を送る。
「へぇ、グレンと組むのか」
「清坊達も、一緒なんだ」
「……」
「? …あ♪」
そわそわとしている三葉を見て企むような笑みを浮かべたシノアは、
「良かったですね〜みっちゃん、愛しの知人君も一緒ですよ〜!」
「!? シノアッ!!!」
からかわれた事によってすっかり顔が真っ赤になった三葉はシノアを追い回す。
「ん? 知人も一緒なのか?」
「優様、この前知人様が仰って…っ!」
「シノン?」
突然シノンの様子が変わり、優一郎はどうしたのだろうと呼び掛ける。
「い、嫌な予感がっ…」
「嫌な予感? 何かあんのか?」
「あの、うあっ……」
「だ、大丈夫かよ…」
徐々に顔色が青くなったり汗の量が多くなっている事に驚き、その肩に触れようとした…そのとき、
「シノンちゃんっ!」
「ひぃっ…!?」
「え、知り合いか?」
後ろからシノンの名を呼ぶ少女が現れた。
「シノン、ちゃんだっ……!!」
「あ…愛紗さ、ごふっ」
「シノンッ!!?」
シノンが振り返る前に愛紗と呼ばれた少女は光の速さで勢い良く抱き付き、そのまま押し倒した。
「シノンちゃん久しぶりっ! 会いたかった……!」
「あ、うぅっ………」
明らかに互いの態度に温度差が出ている。
「シノン! 今起こしてやっ…「!!」
「なっ…!?」
ぐったりとしているシノンを起こそうと手を差し伸べたが、少女が先にシノンを起こしすぐさま後ずさりした。
「何なんだよおまえ!! つか、シノンが明らかに嫌がってんぞ!!」
「男は、嫌い…。私には、シノンちゃんだけいれば生きれるもん……」
「ワケ分かんねえよっ!?」
「シノンちゃんに、容易に近付かないで……」
「ああっ!?」
その一瞬、両者の間に火花が散った。
「あれ、あーしゃん。久しぶり」
「あ、真音ちゃん」
「真音!! アイツ一体何者なんだよ!? シノンが死にかけてるしっ!!」
「真音ちゃん、そこのマヌケ男何なの…? 軽々しくシノンちゃんと接していて凄くムカつく……」
「それはこっちのセリフだよ!!」
両者の言い分を交互に聞いた真音はどう説明すべきかと考えていると……
「愛ちゃ〜ん、シノンが心底嫌がっているので返してもらえませんかねぇ?」
「シノア…って、何か怒ってね……?」
笑ってはいるが、目だけ全く笑っていないシノアが前に出てきた。しかし、
「嫌」
「…ははぁ〜」
「シノア、落ち着いて」
怒りが限界を達したのか四鎌童子を出すが真音に止められる。
「お前ら、本当に仲が悪いな…」
「三葉、アイツ知ってんのか!」
「まぁ…。九鬼 聖璃大佐の妹であたし達の幼馴染の九鬼 愛紗だ。見ての通りアイツは極度の男性恐怖症で、何故かシノンに異様なまでに懐いている」
「シノンが分かりやすく嫌がってんのは?」
「過去に、アイツによって多大な被害を受けてきたからだとあたしは思う」
「なるほど……」
三葉の分かりやすい説明でようやく理解した優一郎。と、その時、
「おっ、三葉ー! 優ーっ!」
「!? 知人っ…!」
「ん? おっ、知人!」
「愛紗見かけなかったか?」
「あそこにいるのが見えてないのか、お前は……」
そう言いながら指を指すと、「お、いた」という知人の声が聞こえた。すると、
「愛紗!! 勝手に何処かに行くなと…やっぱりか」
「まっちゃんだ〜っ!」
「すずっち、清坊。久しぶり」
「! 真音ちゃん! …と」
「……!? ど、どうも…」
この前みたいに清吾に睨まれた与一は苦笑する。
「愛紗ちゃん見つかったー?」
「おう! あそこにいる!」
「何気にぞろぞろと集まってきてるな……」
君月の言う通り、いつの間にか皆本隊全員がシノア隊の元に来ていた。
「離してくださいな〜!」
「嫌なものは、嫌」
「う、うぅううっ……」
シノアと愛紗の間に挟まれていたが、何とか脱する事が出来たシノンはそのまま優一郎の所へほふく前進し、
「! シノン、大丈夫か!」
「ううぅっ……」
無事に合流でき、問い掛けに対し弱々しく首を横に振る。
そんな最中、建物の中から誰かが現れ……
「百夜 優一郎特別二等兵!!」
「……!」
声に聞き覚えがありすぐに顔を向けると、グレンの従者の1人である雪見 時雨がいた。
恐らく優一郎をグレンの元に来るよう呼び掛けてきたのだろう。
「優様…。やっぱり、私が……」
「いや、別にいいよ。俺、叱られ慣れてっから」
優一郎はポン、とシノンの頭に手を置いた後、時雨と共に中に入った。
「っ……」
シノンは唇を強く閉じ、両手を重ね合わせながら優一郎の帰りを待つ。
その頃、中では……。