試すゲンカク 2
「随分と外が騒がしいな」
「そうだね〜」
「……」
聖璃はグレンと、彼の親友でありシノンの兄である柊 深夜少将の会話に耳を傾けながら冷や汗をかく。
何故なら、一瞬だけシノンと自分の妹である愛紗の声が聞こえたからだ。
「聖璃ちゃん、さっき聞こえた声ってもしかしてシノン様と聖璃ちゃんの妹じゃね?」
「………」
そう問い掛けてくる五士を黙らせようと彼の鳩尾に強いパンチを入れると「ごふっ!?」と見事にクリーンヒットした。
「聖璃ちゃん、誤魔化しても遅いと思うよ? もう皆分かっちゃってるから」
「…申し訳ございません深夜様あああっ!!!」
聖璃は即座に深夜の前に滑り込み、勢い良く土下座する。
「妹には後でキツく言いつけます故、どうか御許しを!!!」
「別に気にしなくても大丈夫だから、とりあえず頭上げよっか?」
「ありがたきお言葉ですっ…!!」
深夜の許しを得た聖璃はサッと頭を上げる。
「おまえどんだけ深夜にビビってんだよ」
「あのね、深夜様はシノンお嬢様の兄なのよ? しかも、シノンお嬢様は深夜様にとても懐いているのよ? 分かる、これ?」
「あーはいはい」
何を言いたいのか大体理解したグレンはもう黙れと言わんばかりに流す。
「はぁ、だからあの馬鹿妹を軍に入れさせるのは反対だって拒否したのに…」
額に手を置きながらため息をこぼすと、
「私からしたら、愛紗は貴女よりも遥かに礼儀がなっていると思いますけれどね」
「…あ"ぁっ?」
同じ分家の人間で腐れ縁である十条 美十の一言に聖璃は声のトーンを低くさせ、キッと睨み付ける。
「オイクソ美十、今何つった……?」
「もう耳が遠くなったのですか?歳を取るのが随分と早いですわね」
「…もっぺん言ってみろゴラアァアアッ!!」
とうとうキレた聖璃は美十に罵詈雑言を投げ、それにカッとなった美十も同じように言い、最終的にいがみ合っている。
しかし、2人の間柄をよく知っているグレン達は止めるどころか呆れていた。
「そういえば、時雨ちゃんは?」
「あ? 優を呼びに行ったよ。多分もうすぐ来るはずだ」
すると、噂をすれば何とやらと言うように時雨が現れ……
「グレン様、連れてきました」
「ん、来たか」
「「なっ…!?」」
時雨と優一郎の姿が見えた瞬間、聖璃と美十は何事も無かったように凛とする。
そんな2人を見たグレンはやれやれ…と頭をかいた。
「? 何かあったのか、グレン?」
「いや、こっちの話だから気にしなくていい」
「……?」
優一郎の視線が向いてきた時、2人はゴホンッ! と強く咳き込む。
とりあえず2人を気にするのをやめたグレンは優一郎に最近の様子を問い掛け、
「仲間と家族になってきたか?」
「あ〜、んー。それ口に出して言わなきゃいけないの? 恥ずかしいんだけど」
「ならいい、復讐しか考えてなかった時よりはだいぶいい顔になってきた」
「(復讐? ん、優…?)」
彼らの会話を静かに聞いていた聖璃はグレンをからかったことによって小百合に飛ばされた五士が横をすり抜けてくるのをガン無視し、優という名前に聞き覚えがあるなと思い返す。
「…あーっ!!」
「んだよ聖璃、急に叫び出して」
「アンタ!!」
「へっ? 俺…?」
聖璃に指された優一郎は目を丸くさせながら自らを指差す。
「そう! アンタ! シノンお嬢様がいつも名前を出してくる"優様"でしょ!!」
「え、シノン? って事はシノンの知り合いなのかアンタ? つか、"お嬢様"って……」
「いや、いっぺんに質問するなっつの…。はいはい、面倒いけど1から説明すっから」
そう言った後に聖璃は問い掛けられた内容を脳内でまとめ、彼に話す。
「あたしは九鬼 聖璃。一瀬君の隊の一員で…柊 シノンの従者よ」
「シノンの従者!?」
「その様子だと、シノンお嬢様は何にも話してないみたいね……」
優一郎の驚いた表情で察し、顔をしかめるが……
「ところで、従者って何だ?」
思わずガクッと膝から落ちた。
「ねぇ一瀬君…。すっごい知人に似てる気がするんだけどあたしの気のせいなの? これ」
問い掛けられたグレンは「知らん」と真顔で答える。
「ん? 知人も知ってんのか?」
「えぇ…。そこのスケベ野郎の弟だからね」
聖璃は親指でまだ伸びている五士を示す。
「へぇ〜。アイツ兄ちゃんがいたんだ」
「知人とも仲良くしてるのね、アンタ」
「まぁ、シノンがきっかけで」
「なるほどね…って、つい話を逸らしちゃってたわ……。ま、要は世話役ってことよ」
「おおっ」
理解したのか、優一郎は手をポンと叩く。
「…知人よりは理解力があるわね」
「さっきから何やってんだおまえら?」
「何って、見定めてたのよ。コイツを」
「ん……?」
「ごめんねー優ちゃん。聖璃ちゃん、こう見えて心配性だから」
「何の話だ…?」
全く話が見えず、首を傾げる優一郎。
「つまり…シノンちゃんに相応しいかどうか審査してたって事だよ」
「はああっ!?」
深夜が告げた答えに顔を真っ赤にさせ、
「因みに、シノンちゃんの兄でーす」
「えっ!?」
しれっとした表情のままで告げられたその衝撃事実に目玉が飛び出しそうなくらい大げさに驚く。
「また会うことが出来たら是非聞いてみたかったんだよね。シノンちゃんのことが好きかどうか」
「んなああぁあっ!!?」
「で、どうなの? シノンちゃんのこと。正直に話して良いよ?」
思い切り動揺している優一郎は目を泳がせながら後ずさりする。が、
「逃がさないわよっ!!」
「げっ!?」
いつの間にか背後にいた聖璃がガシッと肩を掴んできた。
「男ならハッキリしろ! シノンお嬢様とはどういう関係!?」
「確か、この前女にしたって言ってたぞ」
「何言ってんだよグレン!!?」
「へぇ〜、だからなのか。シノンちゃんが君のことを話してる時に凄く乙女の表情になってたのって」
「何ですってええぇっ!?」
「だあぁああっ!!?」
あからさまにからかっているグレンと深夜の言葉を真に受けた聖璃は優一郎の肩を強く揺さぶるが、優一郎はそれでも頑なに話そうとしなかった。
それから少し経ち、聖璃を落ち着かせたところでようやく本題に入った。
そもそも、本来の目的はシノアにどちらの方が序列が上か教える為のお仕置きをする事である。
「じゃあ五士、幻術を展開しろ」
「ほいほい」
五士は鬼呪装備・《覚世》を出し、すぐに幻術を施した。その幻覚とは……
「ぎゃああああああ!! たすけてぇええええ!! 許してぇええええええええええ!!」
「うわっ、アレは精神的にくるわ……」
幻覚とはいえ、辱めを受けているような感覚になっている優一郎に同情の気持ちが芽生えた聖璃。
すると、バタバタという足音が聞こえ……
「優さ……きゃっ!!?」
「…俺、生きれない」
「……ドンマイ」
見られたくないものを見られてしまい、更に青ざめる優一郎の肩を軽く叩いた。
シノアによって幻術を見破られたのだが、幻術を解いた先にはグレンの刀が優一郎の首付近にあった……。