呪術のモウシゴ 2
「シノン、もう平気か?」
「……。はい…」
シノンは優一郎の問い掛けにこくりと頷く。
2人は今、木の下にいる。
「すみません、ここ最近ずっと…。ご迷惑ばかり、お掛けして……」
「いや、別にどうって事はねぇけど…」
『……』
沈黙が続く。
「(新宿病院での時以来、ずっと優様に甘えてしまっているな……)」
どうして優一郎にばかり本来の自分を見せているのか考える。
「(もう、誰にも甘えないって決意したのに……。優様といると、自然と本当の心が、出てしまう…)」
ギュッと強く目を閉じても、モヤモヤとした感覚は抜けない。
「(私は、優様のことをどう思っているのだろう……)」
ふと優一郎の顔を見つめる。が、
「ん…? どうしたんだ?」
「!? い、いえっ……」
すぐに気付かれてしまい、思わず顔を逸らした。
「(このまま、この感覚を持ったまま名古屋に向かうのでしょうか……)」
そう思うと段々と不安が募っていく。と、そのとき……
「そういや」
「…?」
「さっきやってたのなんだけどさ」
「え? あ…呪術の事ですか?」
優一郎は「そう、それ!」と指をビシッと突く。
「アレってどうやってやったんだ?」
「どうやって…。う〜ん、出来る限り砕いて説明しますが……」
成り行きでグレン隊との模擬戦で発動した呪術の説明をするが、その途中途中で優一郎の態度が興味津々からえ? という疑問に変わっていき……
「と、いう感じに…。すみません、難し過ぎてましたね……」
図星を突かれ、うんうんと首を縦に振ることしか出来ない。
「あはは…。幼少期から柊の子女として呪術の英才教育を受けていたので、自然と全部覚えたというか……」
次の言葉が出てこない。
当時の記憶を思い出していたのだがどのときでもとても辛く、そして悲しいものばかりだった。
「……っ」
「シノン…?」
咄嗟に自分の身体を抱きしめた。
嫌だ、怖い……。
その感情は徐々に思考を支配する。
「やだ、やだっ…」
「……」
「! あっ…」
優一郎に抱きしめられたことによってようやく我に返り、すぐに見上げる。
「ごめんな、嫌なことを思い出させちまって……」
「い、えっ…。私の方こそ、取り乱してばかりで本当にごめんなさい……っ」
「んなの気にすんなよ。"家族"だろ、俺ら?」
「"家族"…」
その一言は心の奥深くまで沁み入っていく。
「この言葉使うのはちょっと恥ずかしいけどな…」
「そんなこと、ないですよ。私は凄く大好きです、"家族"って言葉……」
幼い頃からずっと憧れていた言葉でもあったが、今になってようやくその温もりを知ることが出来た。
「そっか…。まぁアレだ、遠慮なんていらねぇからな!! いいな?」
「…ぷっ! ふふっ……!」
「なっ、何だよ!? 突然笑って!?」
「だっ、て……! 何だか、おかしくて…!」
考えるのがバカバカしくなったのか、シノンは口を押さえながら笑う。
「おかしいなぁ〜? 変な事は言ってねえはずだけど…?」
「君月様がこの場にいたら、「お前は本当に根っからの単純馬鹿だな」って言うと思います」
「シノン、妙にマネが上手過ぎて若干イラつきそうになったぞ……」
「はうあっ…」
今度は2人揃って吹き出した。
「私、優様みたいなお兄様が欲しかったです」
「えっ、俺?」
「はい。…あっ! やっと分かりました!」
「な、何が…?」
にっこりと微笑みかけ、こう答えた。
「私、無意識に優様を本当の兄のように思っていたんですよ! スッキリしました…!」
「…そ、そーなんだな?」
優一郎にとって複雑な気持ちを抱くような答えであった。
シノンは「はい!」と微笑みながら返す。
「あーっ。まぁ、良かったな……」
「優様…?」
そう思われるのが嬉しくないわけではないが、やはりモヤモヤしてしまう。
どうせならもう少し…と思い始めたそのとき、
「! シノン、あれ…!」
「? …! 真音、様っ……!?」
真音が少し離れた所から走っているのが見えた。
「何があったんだ…?」
「私、聞いてきますね!」
優一郎に一言かけてから真音を追いかけ、
「真音様! どうされて…っ!?」
やっと手首を掴みどうしたのか訊ねようとしたが、振り返ってきた彼女の目元は赤く腫れていた。
「シノノンっ、僕…。与一と、しちゃったっ……」
「した、とは…」
「…キ、スッ……」
「えっ…!?」
その頃、優一郎もある人物に何があったのか訊ねていた。その人物とは……
「与一、真音とケンカでもしたのか?」
「……」
答えが返ってこない。
それどころか、より落ち込む一方だ。
「? 与一…「優くん…。このままだと、真音ちゃんと……」
「と…?」
「……仲直り、出来ないのかなっ…」
「え…?」
与一は深呼吸をした後、当時の状況を語り始める。