初めてのスレチガイ
Side:与一
「与一。僕達…負けちゃった、ね……」
「うん、そうだね……」
海老名サービスエリアに着いた僕達は遅刻をしたせいでグレン中佐を怒らせてしまい、それがきっかけでグレン中佐、十条 美十大佐、柊 深夜少将、九鬼 聖璃大佐と模擬戦をすることになった。
…けど、圧倒的な差で敗れてしまった。
「あの時、銃を撃つタイミングをもう少し早ければ良かったのかな……」
そう言いながらうずくまる真音ちゃん。
それは僕も同じだよ……。
僕ももう少し気配を消すことが出来ていたらきっと…。
いや、それでもグレン中佐に勝てるなんて到底思えない。
グレン中佐の強さは研修教室の頃から知っているなら尚更だ。
「真音ちゃんだけのせいじゃないよ。大丈夫……」
「与一…」
今の僕には彼女を慰める事しか出来ない。
他にやれる事はあるはずだけど、中々思い浮かばない……。
「…師匠は、遠距離は誰にも負けないから……」
真音ちゃんの言う師匠は柊少将だ。
真音ちゃんと同じように銃を武器としていて、僕にとっても遠距離型の先輩に当たるのかな。
真音ちゃんは、そんな凄い人の元で修行をしていたんだ……。
「でも、真音ちゃんだって凄かったよ! 柊少将と対等に近い銃撃戦が出来ていたし…!」
そう言ったら真音ちゃんは更に浮かない顔をして……
「ううん、全然対等なんかじゃない…。師匠、手加減してたんだよ」
「えっ!?」
手加減、って……。
「師匠が本気を出したら、僕はきっと…殺されてた」
「っ…!?」
確かに、実戦では僕達よりも遥かにあちらの方が実力は上だ。
でも、だからって……。
「…ごめん、与一。すずっちの所に行ってくる」
「え、真音ちゃっ…」
突然立ち上がり、そのまま去ろうとする真音ちゃんを呼び止めようと勢い良く立ち上がった。
「わっ…!?」
「え……っ!?」
急だったからか、ずっと座ってた足が少し痺れ真音ちゃんを押し倒す形で倒れ込んでしまった。
そして、"ある問題"が起きてしまった。それは……
「っ…!!?」
真音ちゃんと、確かに唇が重なり合っていた。
ビックリした反面、初めて触れる柔らかいそれに鼓動が早くなっていくのがすぐに分かった。
でも、それ以上にこんなタイミングで初めてのキスをしてしまい、徐々に申し訳なさと罪悪感が芽生える。
一方の真音ちゃんの表情はというと……
「ん…っ!!?」
とても涼しげな藍色の瞳を大きく開かせて固まっている。
それに気付いた僕は慌てて口を離し、真音ちゃんの腕を引っ張って起き上がらせる。
「よ、与一っ…」
「ごっごめんね真音ちゃん! ワザとじゃ……」
「…ど、しよ……」
「え…?」
とにかく謝ろうと必死に言葉を考えていたら、真音ちゃんの口からあり得ないはずの衝撃発言が出た。
「……赤ちゃん、出来ちゃうのかなっ…」
「…えぇっ!?」
そう言いながら不安そうに眉をひそめる真音ちゃんに僕は混乱していた。
え、赤ちゃん…?
キスすると出来る……?
そのことばかり考えると余計に頭がこんがらがってしまう。
「真音ちゃん、あの…」
それは違うよ、と伝える為に肩に触れようとして……
「! やっ…!!」
「っ……!?」
すぐにその手は払い除けられた。
初めて、真音ちゃんに拒絶された。
それを理解するのに、少し時間が掛かった。
「あ……。ごめんっ、与一…っ!」
「! 真音ちゃんっ!?」
ハッとなってすぐに呼び止めたけれど、真音ちゃんの姿は既に遠くなっていた。
「どう、しよう……」
払われた右手が少しずつ痛み始めてきた。
それからすぐに心配してくれた優くんが走って来て、1度落ち着いてからさっきまでのことを全部話した。
「そんな事があったんだな…」
「うん……」
少しだけ不安な気持ちが和らいだ気がする。
だけど……。
「どうしよう…。こういうの、初めてだから……」
考えるだけで手が小刻みに震える。
これから戦場になる名古屋へ向かうのに、真音ちゃんと仲直り出来ないまま行くなんて……。
「ん〜っ…。そういうのはよく分かんねえけど、その内何とかなると思う。アイツがそんなんでお前を嫌いになるなんてねぇと思うけどなぁ」
優くんの励ましの言葉に涙が出そうになった。
そう、だよね。
今はやるべき事をやらなくちゃだよね……。
「ありがとう、優くん…。何とか、頑張ってみるね……」
優くんに励ましてもらってから数分後、僕らは名古屋へ向かった。
…真音ちゃんと何も話せないまま。