本能とのカットウ

Side:Dream heroine 3





「きゃああああ!!」
「みんな逃げて!! 吸血鬼が、吸血鬼が来たぞおおお!!」

「っ、……」

慣れてるはずなのに、何回言われても凄く耳を塞ぎたくなる気分だわ……。
その叫び声は遥か先のも聞こえ、ますますアタシは吸血鬼なのだと自覚をさせられる。

「あ…。アイツ、勝手に飲んだのね……」

1、2mくらい先で子供が血を吸われている。
多分、ラクスがとりあえずで追い掛けたけど血を吸いたい衝動の方が勝ってそのまま吸った…って所かな。

「全く、これから大事な任務があるっつーのに……」

そう、アタシ達は名古屋の貴族達に献上する家畜−−人間を集めている。
けど、どうやらこの町には子供しかいないみたい。
恐らく、大人達は8年前のウイルスによって皆死んだのね。

「……」

叫び声が止んだ。
集め終えた、ってことか……。

「こっちには誰もいないみたいだし、行く…ん?」

何か、後ろから足音がしたような……?

「…隠れても無駄よ」
「ひっ……!?」

子供、女の子か……。
出来るなら他の奴らと同じようなことはしたくないけれど、何か行動を起こさないと後々面倒なのよね……。

「大丈夫よ、大人しくしてれ……っ−−−!!?」

何、これ…。
体が、言うことを聞かない……。
理性よりも先に前に出ているのは、血を飲みたいという欲求心−−−。

「くっ…。エリザの、血……」

何とかそれを抑えようとポーチに沢山入っているエリザの血の入った瓶を一つ取り出し、一口飲んだけれど……

「た、りない…。もっと、もっと血がホシイッ……!!」

アタシはすぐに女の子の両手首を捕らえた。

「!? いやあああっ!!」

そうよ、この子の体にだって血は流れている。
喉が渇いた、苦しい。
モウ、抑エラレナイ−−−……。

「もうどうとでも…「いや、いやだぁっ…お姉ちゃあああんっ!!!」
「ッ……!!」

アタシ、何を考えていたの…。
何でこの子は泣いているの……?

「あ、あっ……」

やだっ、何で……。
こんなの、今まで一度もなかったのにっ……!!

「夏実!!」
「お姉ちゃんっ!!」
「っ、あ………」

この子の姉らしき少女に、かつてのアタシの面影が重なり合った。
そうか……。
アタシは"お姉ちゃん"って言葉で我に返ったんだ…。
もし、この子がそれを言わなかったらアタシは……。

「ご、めっ……。ごめん、ごめんねっ…」

せめて、まだ意識がある内に…と手を離すと、女の子は姉の所に走って行った。
そう、それで良いのよ……。

「お姉ちゃん…。あの吸血鬼、泣いてる……」
「っ、夏実。今の内に逃げるよ」
「え、でもっ…」
「早く、行ってっ……」

足音が遠くなっていく。
良かった、これであの子達を襲わなくて済む……。

「アタ、シッ…。血を、飲もうとしてた……。ッ、ううっ………」

絶対に完全な吸血鬼になりたくない。
でも、渇きが徐々に加速して止まらない。
どうしたらいいの、どうやったらこの葛藤に決着が着くの。
誰か、教えてよっ……。

「う、あっ…。うあぁあああっ−−−……!!!」

そんな現実から目を背けたくて、アタシはひたすら叫んで泣く。
まだ受け入れたくない、こんな自分を……。

「! 依音っ!」

今、ラクスの声がした……。

「ラク、スッ………」
「急に叫び声が聞こえ……? 依音…?」

ラクスの姿が見えた瞬間、気持ちが一気に込み上げ咄嗟に抱き付いた。

「ラ、クスッ…。アタ、シっ……!」
「…とりあえず、一旦戻るか?」
「う、んっ……」

ラクスに支えてもらいながら、アタシ達はヘリのある場所まで戻る………。





「落ち着いたか?」
「……」

そう聞かれ、頷く形で答える。
ヘリに沢山の子供が乗っているけど、本当に落ち着いたのかさっきみたいな感情が湧き上がらない。

「…アタシ……」
「……?」
「さっき、理性を失いかけてた。ただひたすら、血を求めてた。エリザの血だけじゃ足りない、もっと…もっとよこせって。我に返った時、酷く自己嫌悪したわよ。本能に勝てない自分に……」

さっきまでのことを思い出し、自然と眉間にしわが出来る。
でも、話さずにはいられないって思った。

「…そんなに、嫌なのか?」
「え…?」
「完全な吸血鬼になるのが」
「……っ」

その鋭い眼差しを見たら、次の言葉が出なくなった。
その通りよ、って答えれば簡単なのに……。

「なーんてな? 何真剣に苦い顔してんだよお前?」
「っ、あ……」

いつもなら怒るタイミングだ。でも……

「…んじゃ、名古屋に向かうとするか」
「……ええ」

この後にレーネとミカエラとも合流したのだけれど、ミカエラの顔色があまり良くないみたいだ。
もしかしたら、あの子も葛藤しているのかな。
…"理性"と"本能"の狭間で。





「ミカエラ」
「! 君か……」
「…あまり、気負いしない方がいいわよ」
「どうして、そんなことを言うんだ」
「救いたいんでしょ、優って子と…。シノンって子を」

その子達の名前を出した途端、ミカエラの目付きが変わった。

「…何が、言いたい?」
「アタシもアンタと似た理由だからよ。名古屋に行けば妹に、真音に会えるかもしれない。だから、死ぬわけにはいかない……」
「…邪魔したら、例え似た境遇であっても容赦しない」
「はいはい。全く、血気盛んな後輩ね……」

ようやく調子を取り戻したのか、ミカエラの表情がいつも通りになっていた。
何ていうのかな。
つい気にしてしまうのよね。
まるで弟を見守るみたいな、そんな気持ちになっている時が多くなっている。

「…真音。もうすぐだからね」

今度こそ貴女を救ってみせるから。
そう決意を固め、名古屋へ向かうべく足を一歩踏み出す……。

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