貴族のルカル 1
〜名古屋、吸血鬼 ルカル・ウェスカーが治める街〜
「よっ、んっ、ほっ」
「ほいっしょっと」
名古屋に着いてすぐ、それぞれ割り振られた班に別れた月鬼ノ組。
第十五位始祖ルカル・ウェスカーを殺す役目を担った柊 シノア隊、鳴海 真琴隊、皆本 清吾隊はある建物の中で作戦開始を待っている。
そんなとき、優一郎と知人は準備運動らしき事をしていた。
「さて、あとどんぐらい待てばいい?」
「吸血鬼殲滅作戦まで、あと10分ほどです」
「ほへぇ、まだ10分もあんのかよ〜」
知人は「待ちくたびれてんだけどなぁー」と言いながら背伸びをする。
「知人、もうすぐ戦闘が始まるんだぞ!」
「分かってるよ〜、三葉」
そんな知人に注意しようと三葉は声をかけたのだが、流されてしまう。
一方、シノンは……
「……」
静かに息を吐き、見上げながら外を見る。
すると、名古屋テレビ塔がすぐ近くに見えた。
そこにはここにはいない与一と真音、深夜がいる。
「(真音様、大丈夫でしょうか……)」
今朝のことを思い出し、うわの空になりながら眺めていると……
「んで、なんつったっけ? 俺たちが殺す吸血鬼の貴族。確かルルル・ラララ〜とかいう…」
「いやいや、ル〜ル、ウララ〜だろ?」
「なんだそりゃ、歌かよ」
敵の名前を全く分かっていない優一郎・知人とそれに呆れる君月の会話が聞こえてきた。と、そのとき。
「ひどいな、任務5分前でも君たちはふざけるのか? ルカル・ウェスカーだ、第十五位貴族。ちゃんと資料読めよガキども」
「あ、鳴海か」
「そーそー、確かそんな名前だった!」
「(ああもうっ、優様も知人様も…!)」
2人の鳴海に対しての口の利き方にシノンは気が気ではなくなってきた。
「柊 シノア軍曹、いったい彼にどういう教育をしている? 一瀬中佐に怒られたばかりだろ」
「あの〜…すみません」
「皆本 清吾特務少尉もだ。彼は私よりも階級が上だが年下になる。何なんだ、あの態度は」
「申し訳ないです……」
シノアと清吾が2人の代わりに謝ると、鍵山と利香がそれでは納得行かないと述べてきた。
「任務直前なのに…まずいな」
「ば〜か、謝っとけって」
「いて」
「ホラ。言われてるよ知人君」
「おぅっふ」
それぞれ君月・綺里に頭を軽く叩かれ、ちゃんと謝ろうとしたがシノアと清吾は「自分の責任だ」と鳴海に言う。
すると、鳴海はそんな2人の肩にそっと触れ……
「謝るんじゃねぇよ、ガキでも最低限の仕事はちゃんとしろと言ってるだけだ。私はここで、信じてついてきてくれている仲間を失いたくない」
「鳴海軍曹……」
鳴海のその言葉に、シノンは彼の強い意志を感じる。
と、優一郎と知人が前に出てきて……
「なんだ、やるか?」
「いや、俺もおまえと同じ気持ちだ。仲間を失いたくない、だから謝る」
「オレも、上司としての責任感がまだ足りてなかった。本当にごめん」
それを聞いた鳴海が「信用できないね」と目を細めながら疑うと、
「本気だ、俺も仲間を失うのが嫌いだ。怖い。だからここで死人は一人も出したくない。おまえらが同じ任務の仲間なら、おまえらにだって死んでほしくない」
「優にセリフ取られちまったけど、同意見だぜ。グレン兄ちゃ…グレン中佐も言ってたろ? オレ達は勝って帰るって」
「………でも、敬語は使えよ」
「あんまそういうの習ってねーんだよ」
「国語が苦手だからさー」
良い言葉を言ったと思ったら…と呆れ果てた鳴海はシノアと清吾に「教育」と指摘する。
「(本当にそっくりですね、あの人達は……。でも、少しカッコ良かったですよ)」
同じく呆れていたのだが、とても頼もしい言葉だな…と微笑むシノン。
そのとき、秀作が後4分で始まると告げた。
「お遊びの時間は終わりだ。君たちがクソほどの役に立てなくても、私たちの部隊で任務は必ず達成する」
それに対して2人は口答えしようとしたが、三葉達に足蹴にされたことによって阻まれた。
「あの、鳴海軍曹…」
「? どうかされたのか、柊 シノン軍曹」
「シノン……」
「…私達も、真剣に戦場に臨んでいます」
シノンは凛とした佇まいで、続けて話す。
「確かに、私達はまだ戦場経験をあまり積んではいません。ですが、鳴海真琴隊の皆様のご迷惑を掛けぬよう全力を尽くさせて頂きます。何卒、指導鞭撻の程願い致します」
「…随分と長い能書きだな」
「これが私の心の内です」
そう言ってからにこりと微笑む。
「…良いだろう、君のその言葉に免じて今回は許してやろう」
「ありがとうございます」
鳴海を何とか納得させられたと安心し切った表情を浮かばせながら彼にお辞儀をした。そのとき、
「!? こ、この痛い程の視線は……」
「シノンちゃん…」
「あ、愛紗様っ………」
振り返ったときに見えてしまった愛紗のうっとりとした視線に口の引きつりが止まらない。
「(そうか、彼女は愛紗ちゃんのことが……)真琴、作戦の最終確認を言っても良いかな?」
「秀作、分かった。頼むよ」
「(あれ? あの方、愛紗様の前に立っていらしてるけど…。もしかして、察してくださったのでしょうか……?)」
そう思いながら秀作を一瞥すると目が合ったので、慌てて頭を下げた。
秀作はすぐに気付いたのか気にしなくて良いと言っているように小さく手を振ってから最終確認の詳細を話す。
「貴族を殺しそこなって合流されたら終わりだ、我々は壊滅する」
「ああ、一人の失敗は…」
「《月鬼ノ組》100人の命運に関わる」
「っ……」
全員息を呑む。
「抹殺対象の名前も覚えてないような怠け者がいたら、全滅の可能性があるということだ」
「殺す相手の名前覚える必要ないだろ。でも、絶対に守らなくちゃいけない仲間の名前はもう覚えてる」
優一郎はまずシノア隊の面々に目を向け、
「シノア、君月、三葉、与一、真音、シノン」
シノンのときだけほんの少し長く彼女を見つめる。
それに気付いたシノンが口パクで「はい」と答えたのを確認してから、今度は鳴海隊と皆本隊の面々に目を向け……
「…鳴海 真琴、円藤 弥生、井上 利香、鍵山 太郎、岩崎 秀作、皆本 清吾、五士 知人、皆本 鈴花、春野 綺里、九鬼 愛紗。ここで仲間は絶対に死なせない」
「全員の名前を……」
シノンは優一郎の真剣さをより深く知った気がした。
「あと2分だぞ」
「《鬼呪》促進薬を飲む準備をしよう」
「えっと、薬が効くのに10秒。効果時間は15分…でしたよね?」
「ああ、そうだ」
鈴花の質問に三葉は首を縦に振る。
「秒針を見て14時きっかりに飛び出せるようにする。敵は−−−」
「も…もういるはずです。情報では外の緑道広場のベンチに、毎日このくらいの時間に現れるとのことです!」
「いよいよ、なのですね……」
気持ちを切り替え始めているシノンはスッと《雪浅鬼》に触れる。
「ここで死人は出ない。少なくとも鳴海 真琴隊と」
「皆本 清吾隊と−−−」
「柊 シノア隊は、冷静に犠牲を出さずに任務を遂行します」
そのとき、秀作が「残り1分」と全員に伝え……
「薬を出して、ラスト10秒で薬を飲みます」
「僕達も同じタイミングで」
カシャ…と促進薬を取り出す音が沢山響く中、優一郎は外を見ていた。
「…与一様と真音様のことですよね」
「シノン、ああ…。アイツら、大丈夫かな?」
「だと、思いたいです……」
その頃、テレビ塔にいる真音達は……。