貴族のルカル 2

Side:Dream heroine 2





「………」

僕は息を殺しながらターゲットを探す。
この作戦は絶対に失敗出来ない。
大将がそう言っていた。
一体、敵はどこにいるんだ…?

「っ、落ち着けっ……」

やっぱり、上手く集中することが出来ない。
ここにいるのは僕と深夜師匠と、…与一の遠距離型の鬼呪装備持ちの3人だけだ。
師匠は大将から狙撃に慣れていない与一の指導を頼まれたらしい。
師匠がいれば百人力みたいなものだから大丈夫だと思ってる。
そして…僕はまだ、海老名でのことを気にしている。

「狙撃に無駄な考えは禁物……」

師匠の教えを唱えながら無心になろうと試みるけど、それでも頭から離れられない。
本当に赤ちゃんが出来てしまったら、このまま与一と仲直り出来ないままになってしまうのか……。

「ふー、ふー、ふーっ…」
「! 与一、っ……」

与一の方を向こうとしたけれど、どんな言葉を掛ければ良いのか分からなくなった。

「はい与一君落ち着いて〜、緊張しない。任務開始まであと2分だよ」
「師匠…」

僕がその言葉を言えれば良かったのに。
僕の方が、与一といる時間が長かったはずなのに……。
師匠と与一の会話を聞きながら抱いていた火縄銃を持ち直し、ターゲットに向き直す。

「…僕の、馬鹿……」

キスをしてしまっただけで、与一の手を強く払い除けてしまった。
心配してくれたのに、無下にするようなことを僕はしたんだ。
だから、本当ならなるべく与一と別行動を取りたかったのに……。

「真音ちゃん」
「! どうしたの、師匠?」
「…与一君と、何かあった?」
「!? 何でも、ないっ…」

師匠、もしかして気付いているのかな。

「本当? なら、与一君にも聞くけど」
「それはダメっ!!!」
「……!」

与一は、何も悪くないっ…!

「っと…。真音ちゃん、そんなに大声を出したらバレちゃうよ?」
「っ…」

僕、やっぱり取り乱してるんだ。
どうしてここにいるんだろう−−−。

「真音ちゃん…」
「…すみません、師匠……。気を、引き締めます」

いつもなら、こういうときに取り乱す事なんて有り得ないことだ。
…忘れかけていた。
僕は今、死と隣合わせでいる。
周りをよく見ろ、あのときを…与一達と出会う前を思い出せ。
本来の僕は狙撃手だ。
誰よりも冷静に敵を殺し、仲間を援護し、…逃げ遅れた仲間を捕らわれる前に始末する。

「来い、《蜻蛉》……」

そう呼び掛けると、声が聞こえた。

「(あはは♪真音、すっごい動揺してたねぇ〜っ♪)」
「(っ、うるさい……)」
「(あれれ、そんな事言っていーんだ? せっかく久々にキミと話せたっていうのになー)」

脳内で飄々と話し掛けてくるのは、普段は僕の心の中にいる《蜻蛉》だ。
今ではこうやって話をする程度で済んでいるけど、契約するときは調伏するのに凄く時間が掛かった。

「(ところでさー、与一とチューしたんでしょ? チューって)」
「(…それ以上言ったら喋れなくしてやるぞ)」
「(うっわぁ、コワ〜イッ…。そんなにキレなくても良いのに〜っ)」
「(はぁ…。これから敵を撃つから、とりあえず喋らないで)」
「(しょーがないなぁ、じゃあ一つだけ言わせて)」
「……?」
「(キミ、今凄く恋慕の感情でグラッグラに精神が揺れてるから早く何とかした方が良いよ。ボクはいつでもキミを乗っ取る気満々だから)」
「…………」

それは誰よりも分かっている。
今は敵を撃つ事に集中しよう。
そうすれば……

「! 見えた……」

あれが、ターゲットの"ルカル・ウェスカー"か……。
本当にベンチに来るんだ。
よくもまぁ、何も知らないでのうのうとしていられるもんだな……。

「真音ちゃん、見えた?」
「はい、師匠」

師匠に「こっちにおいで」と手招きされ、師匠の隣に移動する。

「よし、与一君も準備は良いね?」
「は、はいっ…」
「与一……。っ、気を逸らすな…」

師匠の掛け声で少しずつ引き金を引き−−−同時に撃った。
何とか当たったと思っていたら……

「うわわ、失敗し…「よけろ!!」
「え…!?」

剣撃がこちらに高速で向かってきて、与一と師匠の声でそれに気付いたと同時に塔の上に直撃した。

「失敗だ!!」
「よい、っ…!?」

与一の元へ向かおうと足を動かしたら、振動に耐え切れなくなり体が浮いた。
僕は、死ぬの……?

「与、一っ……」

嫌だ、死にたくない。
まだ与一に謝ってない。
仲直りしてないっ……。

「!? 真音ちゃ…「真音ちゃん!!!」「…与一っ!!」

伸ばしてくれている与一の手を握り、与一の胸に飛び込むようにそのまま引き上げられた。
今、与一の腕の中にいるんだ……。

「与一。…」
「…良かった、真音ちゃん」
「……!」

その笑顔を見た瞬間、思わず泣きそうになった。
酷いことをしたのに、それでも心配してくれた……。

「あ、のっ……」
「真音ちゃん、伝えたい事が沢山あるけど…。今は、戦いに集中しよう」
「う、んっ……」
「…よし、2人共! できる限りたくさん一般吸血鬼を排除してから場所を移動する!!」
「「はいっ!!」」
「撃て!!」

僕達はひたすら撃ちながら塔を駆け降りる。
シノノン達の負担が大きくならないように。
そして…もう、これ以上与一達に迷惑を掛けない為に。

「撃ち抜けっ−−−!!!」

僕は、無我夢中で撃ち続ける……。

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