反逆するカチク 2
「うっ、ぐ……」
捕らわれたシノンの首にルカルの剣の刃先が軽く触れる。
「私を愚弄した罪を後悔するがいい。まずはこの娘から殺す」
ルカルはそう言った後に刃先を離し、彼女の首筋に顔を近付ける。
シノンは俯いたまま何も反応を示さない。
「(どうしたんだよ、シノンッ……)」
優一郎は焦る。
もしかしたら怯えているのか、それとも……。
そう考えると一刻も早く彼女を救わねばならない。
だが、下手に動いたとしても…と思案を続けていた。その時、
「っ−−−…」
『!!!』
彼女の白く細い首に歯が突き立てられ、ギュルッ…と血を抜き取られる。
しかし、彼女はそれでも声を出さない。
「(アイ、ツ……!!!)」
優一郎はルカルに対する憎悪に限界を越え、我慢ならないとすぐに飛びつけるよう姿勢を低くした。が−−−
「!? なん、だ…。これはっ……!!?」
『!?』
突然ルカルが息苦しそうに喉元を押さえたことでシノンは拘束から解放された。
一体何が起きたのかと動揺する者がいれば、知っているのかホッと胸を撫で下ろす者もいる。
シノンの血を吸ったルカルの体の中では−−−彼女の血の中に潜んでいた猛毒とも言える"鬼呪"が駆け抜けるように蔓延し始めている。
それにより、まるで全身に火傷を負っているかのような激痛を感じ続けている。
「きさ、まっ…。まさか、"刹那姫"…かっ……」
「………」
鋭く、まるで氷のように冷たい目つきで睨むシノンはこう答える。
「お前に、私の名を語る権利はない。その名を口にしたことは、死をもって贖え……」
その言葉の後にルカルは彼女の遥か後方にいる深夜・与一・真音の姿を捉え、いつ攻撃が来るのかと気を逸らしていた…次の瞬間!
「っ!!!」
優一郎と知人の連携技によって体が二つに裂かれた。
「ぐ…あ…。傷が…、傷が修復しない…。喉、も……」
「鬼呪だ、おまえらは人間に殺される」
鳴海の言葉で状況を理解し周りを見渡すと先程まで捕らえていた少女…否、"刹那姫"は自分を斬った2人の内の黒髪の少年の腕の中にいた。
変わらず鋭く冷たい視線をこちらに向けている。
「わ…私が…。第十五位始祖である私が…人間ごときに殺されるはずが…」
「おまえはすげぇ強い、怖いくらいだ。でも逃げるべきだった。俺と違って、仲間がいないんだから」
「……」
無意識なのか、シノンより優一郎の傍に体を傾ける。
「……貴様ら……」
「終わりだ、死ね」
鳴海は《玄武針》をルカルの頭に突き刺し…ルカルは跡形も無く消えた。
「シノン…!? オイッ!!?」
シノンはフッと全身の力が抜け膝から落ちそうになったが、すぐに気付いた優一郎がしっかりと抱きかかえたお陰で何も起こらずに済んだ。
「すみま、せっ……。はぁ、はっ…」
「! お前……」
顔色が少し青ざめ、汗も出ている。
恐らく、今のは緊張状態が解けた事によるものなのだろう。
それに伴っているのか呼吸がとても浅く吐く回数も多く感じる。
「何であんな事したんだよ…?」
「っ、はぁ…嫌な予感、が、してっ……。それ、に…私、にはっ……。この、"呪われた血"が、ある…から……」
「……っ、ごめん。シノン…」
優一郎はそれ以上何も聞かず、強く抱きしめる。
「私、も…。勝手に、やって……。ごめ、ん…なさいっ……」
シノンも出来る限りの力を振り絞って抱き返すとシノア達が駆け寄って来た。
「シノン!! 首はっ…!」
「大丈夫、です……」
「心配、したんですよっ………」
「ごめん、なさいっ…。シノア、姉様……」
シノアの表情を見た瞬間、少しだけ瞳が潤んだ。
「あまり大きな怪我をせずに済んだから良かったものではあるが…」
「おまえらにも伝達しなかったのが一番の要因だ。すまない……」
「謝らな、いで…ください、君月様……。私が、勝手にしてしまった…、から……」
シノンは君月に深く頭を下げる。
鳴海隊と皆本隊はその様子を静かに見守っている。
「シノン、もうあんな無茶すんなよ?」
「はい…。分かり、ました……」
彼女の笑顔を見てホッとしたのか、鳴海隊と皆本隊の面々はそれぞれハイタッチを始めた。
その時、与一と真音が戻って来て、
「優くん! シノンさん大丈夫だった!?」
「シノノンッ…!!」
「与一!」
「真音、様…。私は、大丈夫ですよ……。少し、首を噛まれただけで…あうっ」
大丈夫だと言い切る前に何故か真音に軽くチョップをされてしまった。
「シノノンのアホッ、命知らずっ、親友泣かせっ……」
「……ごめん、なさい…」
一度言葉を見失ったのだが真音の両手を包み込むように握り締め、本当に申し訳ないという気持ちを込めて謝る。と、
「!? いや真音おまえっ…!?」
真音は持ち前の怪力でシノンを優一郎の腕の中から引き剥がし、ぎゅうっ…! と離さないと言わんばかりに抱きしめる。
「またやったら許さないから…」
「真音様っ………」
優一郎と与一はぽかん…と口を開ける。
「ゆ、友情には勝てないんだね……」
「まぁ、うん…。いやー! それにしてもラスト、絶妙のタイミングだったよ与一!!」
諦めた優一郎は自分達もそれを示そうと与一を褒めた。
「あっ、ありがとう…! 深夜さんがいろいろ教えてくれるんだ」
「ふむ」
優一郎はにこにこと手を振る深夜を確認する。
そんなとき、鳴海隊と皆本隊の様子を見たシノアが…
「あの…私たちもしてみます? ハイタッチ」
『(いやー、それはどうかな…)』
シノア以外の全員がそう思っていると。
「三葉ー!」
「! 知人…「どっちかの手、上げてくんねーか!」
「えっ? こ、こうか……?」
「お疲れ、さんっ!」
言われたままに左手を上げた瞬間、勢いの良いハイタッチが来た。
だが、三葉だけに留まらず……
「お前らも! 手を上げてくれーっ!」
『えっ?』
「皆も、お疲れさんっと!」
シノン達も三葉と同じように手を上げると知人は次々とハイタッチをする。
「知人、今のって……」
「んじゃ、後は鳴海隊の皆だけだから!」
「えっ、あの、知人さ…」
呼び止めようとしたが、彼は既に鳴海隊の所に行っていた。
すると、三葉はムッと頬を膨らました。
「残念でしたね〜みっちゃん、愛しの知君に声を掛けられなくて」
「シノア!!!」
「まーた始まったよアイツら」
「あ、あわわ……」
皆がシノアと三葉に気を向けているとき、真音は……
「…与一」
「? あ、真音ちゃん……」
与一は呼び掛けに気付き、顔を向けると真音の真っ直ぐな眼差しが与一の姿をハッキリと映していた。