反逆するカチク 3
「真音ちゃん……」
ルカルとの戦いを終え、真音は与一に声をかけた。
「っ…。ごめ、んね……。与一…」
「え? …あっ」
彼女は今朝のことを謝っているのだとすぐに分かった。
「いっぱい…、与一に迷惑かけた。キスで、動揺して……。師匠や、シノノンや、皆にも迷惑をかけたっ…」
そう話す真音の瞳には涙が溜まっていた。
「皆……」
「! 真音様っ…!」
愛紗に抱き付かれ困惑している最中で真音の呼びかけにいち早く反応したシノンが彼女の様子に気付いたことにより、シノア隊だけでなく鳴海隊・皆本隊…深夜も彼女と与一の方へ顔を向け、
「皆、本当に…。ごめん、なさいっ……」
『…!』
シノンと深夜以外は初めて見る真音の涙に騒然とする。
「与一様…」
「……」
シノンが何を言いたいのか察した与一は真音の近くまで行き、そっと手を繋ぐ。
「与、一っ…!」
顔を少し上げた瞬間、気が付けば彼の腕の中にいた。
「大丈夫だよ、真音ちゃん。僕の方こそ、本当にごめんね……。あの時、動揺しないでちゃんと呼び止められていたら…って、ずっと考えてた……」
「……」
その言葉に胸が締めつけられそうになり、改めて彼への想いを自覚する。
「それに、えと…キ、キスだけで子供は出来ない……。から…」
「え、そう…なの?」
「う、うん……」
与一は少しだけ顔を赤らめながら頷く。
「聖璃パイセンから聞いた話と、違う……?」
それを聞いた秀作は「聖璃さん…」とこめかみに人差し指を付けながら眉間にしわを寄せ、シノンも何となく根源を知っていたのか「やっぱりでしたか……」と呟く。
「本当に、赤ちゃん出来ない…?」
「うん、本当だよ」
「……。そっ、か…」
安心し切ったのかぎゅっと抱き返し、
「…また、したい……」
「!!?」
この時、ほぼ全員『(リア充め…)』と若干苛立った。
「良かったです、真音様……」
「よく分かんねえけど、だな!」
「リア充過ぎるんじゃないの、あの2人…」
シノンの後に知人と愛紗がそれぞれ違う事を思い、深夜も……
「…良かったね、真音ちゃん」
愛弟子の笑顔にフッと笑んだ。
そんなこんなでひと段落つき、グレン達と合流すべく移動する道中……
「大将達、どうしてんのかな…っ! え、与一……?」
唐突に左手が与一の右手と絡み合い、ギョッとした表情で彼に問い掛けたが、
「? どうしたの、真音ちゃん?」
「…う、ううん。何でもない……」
「そっか」
にこにこと微笑む彼を見た途端に言葉が迷子になり咄嗟に口ごもってしまう。
その様子を終始見ていたシノンと優一郎は、
「…与一様、何が起きたのでしょうか……」
「あの、与一が…」
与一の変化に唖然としていた。
「いやはや、恋は人を変えてしまうものなのですねぇ……。ね、シノン?」
「!? わ、私ですかっ!?」
シノアに話を振られ、狼狽する。
「惚けても無駄ですよ〜? みっちゃんも、ね?」
「!? あっ、あたしは関係ないだろ!!」
「おかしいですねー、2人共密かに相手にあつーい視線を送って「「シノア姉様/シノアッ!!!」」
再び追いかけっこが始まり、噂をされている優一郎と知人は自分達の事だとは理解しておらず「何だ…?」と肩をすくめた。
一方、第十九位始祖、メノ・ステファノと激戦を繰り広げているグレン隊は……
「うるぅらああああっ!!!」
聖璃は《大鎚地》を力強く振り落とす。
「今よ!! 一瀬君っ!!!」
「分かって、るよ!! うおおあああああ!!!!」
その隙にグレンが素早く斬り込み、見事に滅した。
「っ、やったか……」
立つことがままならない聖璃は柄を地面に付けた後、膝から落ちるようにしゃがむ。
そのとき、小百合達が次々とグレンに声をかけているのが聞こえた。
「…はぁ、本当面倒いかった……」
「よくくたばらなかったですね。聖璃」
「はっ、これでも悪運は強い方なんでねぇ」
『……』
いつも通り美十に強気な発言を言い、無言で拳を軽くぶつけ合った。
「ひーちゃんさん! 大丈夫ですかっ…!?」
「あー大丈夫、舐めときゃ治るでしょこんなの」
そう言いながら1番傷が付いている腕を指差そうとすると家畜として捕らわれていた人々がこちらに集まり始め、その内の一人が「何者なんだ…?」と問い掛ける。
それに対しグレンは、
「人間だ。吸血鬼どもを皆殺しにしたらおまえらも救ってやるから、しばらくそこで大人しくしてろ」
「…秀作や、シノンお嬢様や愛紗達。どうしてるかな……」
ふと秀作達の事を思っていた…そのとき、
「ぐ、グレン様!!」
「楠木!? なぜここにいる!?」
「っ…!?」
名古屋市役所にいる貴族達の襲撃を任されていた班の1人が致命傷とも言える傷を負っていた。
聖璃は直感で嫌な予感がし、皮肉にも当たってしまった。
彼の話によると作戦は失敗し、30人いた内の10人は殺され、20人は人質になっている。
その後、彼は五士の幻術のおかげで苦しむことなく逝った……。
「一瀬君、もしかしたら罠かもしれないわよ」
「……分かっている」
「…やっぱり、行くつもりなのね」
聖璃の言葉にグレンは静かに頷き、
「柊 シノア隊、鳴海 真琴隊、皆本 清吾隊と合流する。標的を追加だ、敵は名古屋市役所にいる…第十三位始祖、クローリー・ユースフォードを殺すぞ」
この出来事が後に今後の月鬼ノ組…否、日本帝鬼軍の運命を大きく変えることになろうとは誰もが知る由もなかった……。