正義のツルギ
「どうやら、下に人間がいるみたいだな」
「……」
「依音ー、程々にしろよー?」
「うっさい馬鹿ラクス」
そんな会話を繰り広げているとき、鬼呪装備と思わしき光がヘリに貫通する。
「! 弓矢のタイプ……」
「降りるぞ」
「ええ。…ミカ」
「分かっている」
レーネの呼び掛けの後にヘリから飛び出した依音達はそれぞれの場所に着地した。
「人間ども、覚悟なさい」
「くっ!」
目の前にいた人間はすぐに鬼呪装備を構えるが、
「遅い」
依音の方が格段と素早く、呆気なく首を掴まれる。
「おまえに聞きたいことがある。ちゃんと答えてくれれば、首を掻っ切るだけで済ますわ」
「お〜っ、おっかない」
隣でその様子を見ていたラクスはニヤケながらおどける。
「ちゃんと吐かないと、ソイツ冗談抜きで内臓潰すぞー?」
「言ってる暇があるならアンタも協力しなさいよ」
「はいはい」
「さぁ、話しなさい。おまえが知っている全てを」
今度こそ真音について洗いざらい聞き出そうとしたのだが、
「全員自決だ!! 口を割るな!!!」
「!」
ミカエラの目の前にいた人間の言葉を聞いた連中はカリッ、という音と共に次々と倒れていくではないか。
「…チッ、自決剤か」
胸クソが悪くなった依音はもう用はないと投げ飛ばす。
「聞く前に死なれるのってこんなにもムカつくのね。腹立たしいにも程があるわよ」
苛立ちが頂点に達する寸前だと言わんばかりに剣を地面に突き刺す。
「ミカエラ、ソイツも死んだの?」
「…ああ、自殺だ」
ミカエラの答えに「やっぱり」と更に苛立つ。
「でも、なぜ自ら死ぬ? 馬鹿なのかこいつら?」
「そんなことより…ここの状況はどうなってる? この地はルカル・ウェスカー様とメノ・ステファノ様が治める比較的大きな集落だったはずだが−−−」
レーネは地面に触れ、「吸血鬼が殺されてる」と続けて言う。
「はぁ? 貴族が殺されたってこと?」
「…まさか、貴族の方々を人間どもがどうにかできるとでも?」
依音とラクスがそう言った直後、他の吸血鬼が「地下の吸血鬼も全滅している」と叫び、同時に第十九位始祖が殺されたことも判明した。
「…まじかよ、貴族だぞ?」
「(何だろう…。この任務、何かを感じる……)」
周りを見渡しながら依音は考える。
もしや、この任務は何らかの隠謀が動いているのでは…? と。
「とりあえず移動しよう。ここから一番近い貴族のいる場所は…『名古屋市役所』だ」
その瞬間、死んだと思われたはずの人間がナイフを手に取ってから起き上がり、ミカエラの首付近に刃を向けながら「動くな!!」と牽制する。
「…どういうこと、ミカエラ? 死んでないじゃない」
「捕らえろミカ、情報を聞く」
「動くなと言っている!! こいつが死んでもいいのか!!?」
「はは、なんか勘違いしてるぞあいつ。別にミカが死のうが生きようがどうでもいいんだけど」
「……」
妙な違和感を抱きながら様子を見続けていると、ミカエラがその人間の手を握り潰した。
「おーおー」
「………」
「手を握り潰しやがった」
「やっぱり、あれは演技ね…」
ラクスやレーネに聞こえぬよう呟く。
その後に人間は次の情報を吐いた。
「に…日本帝鬼軍の部隊50人は自動車博物館を襲おうとしています!! 貴族ゼイン・リンドウ殺害計画です!!」
「ゼイン・リンドウ…知ってるか?」
「おまえこそ知らねーのかよ。第十七位始祖の貴族だぞ」
誰もが信じている中、依音だけはその情報を信用していなかった。
「(違う。きっと…ソイツらは違う貴族の元へ行っているはず。だとするなら、どこに……!)」
先程までの人間の行動を思い返すと、レーネが名古屋市役所の名を出したときに人間は動き出していた。
つまり、本当に向かった場所は…名古屋市役所だ。
「(ミカエラがあの人間をまだ殺していなかったのを黙っていたとするなら。…多分、家族のことを聞いたのね)」
答えを導き出したとき、人間は既にミカエラに葬られていた。
「なんだよ、殺しちゃったのかよー」
「家畜どもの情報なんてどうでもいいだろ」
「まあそうだけど」
「(殺した、ってことは…。人間がそれを望んだのね)」
その後、ミカエラは別行動を取ると申し出た。
「自決するような人間の言うことをそのまま信用する訳にはいかない」という理由を述べ、五人だけ兵が欲しいと頼むと……
「待ってミカエラ、アタシも行くわ」
「! 何で、君まで…?」
「何かあった時の保険よ。良いわよね? ラクス、レーネ」
「はいはい、おまえがそう言うときは聞かなかった場合がすっげぇ怖いからなー」
「殺すわよ」
依音は真顔で拳を作る。
「ミカ、おまえはどうする?」
「…好きにすればいい」
「そうか。なら、市役所はおまえ達に任せた」
「ええ」
ラクス達が自動車博物館へ向かったのを確認したミカエラは依音に小声で問う。
「どうして君まで来るの」
「…本当は、あっちじゃないんでしょ」
「っ……。なら、何であの場でそれを言わなかったんだ」
「アンタの家族がいるのなら、必ず真音もいる」
「…そういう事か」
納得したミカエラははぁ…と息をつく。
「とりあえず、アンタの言う通りに動くから」
「…よし!! 五人、僕についてこい!! 名古屋市役所の調査に向かう!!」
「真音、今度こそ貴女を救い出すから……」
ペンダントの位置に手を置いた後、依音はミカエラや五人の兵と共に名古屋市役所へ足を進める。
一方、シノア隊・鳴海隊・そして自身の隊を率いてその名古屋市役所付近のビルの屋上にいるグレンは人質の安否を確認をしていたのだが、完全に待ち伏せされていると知り、次のように告げた。
「ここから狙撃しておびき寄せよう。もしも敵の数が多ければ…人質は見捨てて逃げる」
優一郎が反応しそうになったが、シノアが制止し任務の最重要事項を聞き出す。
それに対しての答えを要約すると……。
死なずに人数を維持し、次に人質の解放と救出。
死ぬ程なら逃げる。
それを終えたらなるべく吸血鬼達を愛知に引き留め、渋谷本隊が態勢を整える時間を稼ぐということだ。
まさに、これは囮任務である。
「(まぁ確かに、あそこにいる三匹を抜いて貴族を殺せたしね…)」
何となくグレンの言いたい事を察した聖璃は静かに《大鎚地》を持ち直す。
そして、狙撃組である深夜・与一・真音が狙撃位置を確認していた…そのとき、
「ご、五階の窓際に吸血鬼がいます!! 気づかれる前に狙撃許可を!!!」
「なっ!!!」
「撃て!!! 撃って殺せ!!!」
「はい!!」
「与一!! 僕も手伝う!!」
「ありがとう真音ちゃん…! 行け、月光韻!!!」
「撃ち抜け、《幻影弾》!!!」
与一の矢と真音の弾丸が五階に目掛けて放たれた……。