深夜とグレン 1






「撃て!!! 撃って殺せ!!!」
「やれ与一!!」
「う、うん!!」
「与一!! 僕も手伝う!!」
「ありがとう真音ちゃん…!」

真音の声掛けに反応してすぐに《月光韻》を構える与一。
真音も火縄銃となった《蜻蛉》を構え、

「行け、月光韻!!!」
「撃ち抜け、《幻影弾》!!!」

与一の矢と真音の弾丸は素早く五階まで飛び、確実に避けられるものではないと誰もが確信していた。
…が、やはり相手は化け物だった。
避けられるどころか、与一の矢をいとも簡単に掴んだではないか。

「くっ…!!」

真音は仕留められなかったことを悔しむ様に歯を食いしばる。

「………ごめん、また失敗した…」
「ん〜。でも、今のは普通は絶対よけられないタイミングだった。つまり…」
「あいつがとんでもなく強いってことだ」
「どんだけ化け物なの、クローリー・ユースフォード……」

聖璃は嫌な汗をかく。

「優くん、クローリーって僕ら知ってる奴だ」
「あ?」
「シノノン、覚えてる? 新宿に着く前に戦った吸血鬼の貴族のこと」
「え…!?」

シノンはその当時の事を思い出し、まさか…と市役所の方に見遣る。
それと同時に優一郎はグレンから望遠鏡を奪い取り、クローリーが以前戦った相手だと確信した。

「…っ、名古屋にいたなんて……」

下手をしたら、最悪な事態なのかもしれない。
そう思い、《雪浅鬼》を強く握り締める。
すると、グレンが「正面からぶつかったら勝ち目がないだろう」と言い、付け加えるように深夜が「拷問されぬよう人質を狙撃し、殺してから逃げるか、うまく敵を分断しながら人質を救って散開の二択しかない」と言う。

「おいグレン、仲間を見捨てて逃げたりしないよな?」

優一郎が問い掛けた後に鳴海も前に出て、人質を殺して逃げる方が良いのではと提案する。

「はあ!!? おい鳴海!! てめえふざけ…!!」

言いかけた瞬間に鳴海が少し強めに優一郎の体を押し、

「ふざけてるのは君だ。あの人質の中には僕の同期もいる、君よりずっと動揺しているが……辛そうな顔で騒いだ方がいいか?」
「………おまえ……」
「鳴海軍曹! すみません、優様が…」
「いや、構わないさ」

頭を下げるシノンにそれ以上は下げなくていいと肩に手を置く。

「ですがこれ…囮任務なんですよね。吸血鬼の目を新宿へ集まっている軍本隊へ向けさせないための…」
「そうだ、人間が名古屋に攻め入ってるように見せたい。だから派手に戦っているフリをする」
「戦うの? でも、あれほどゆったり待ち伏せされてたら絶対勝てないよ」

深夜はスコープ越しでクローリーの姿を捉えている。
その言葉通り、クローリー達は何も行動を起こさずこちらを見ている。

「知人、鬼呪促進剤をすぐに用意出来るようにするぞ」
「…おう、分かった」

清吾の呼び掛けに対し、知人は珍しく静かに頷いた。
そして、グレンは次のように作戦を皆に伝える。
クローリー・ユースフォードへの攻撃は自身の隊だけでやり、鳴海隊・シノア隊・皆本隊はその隙に5分で人質の解放をする。
その5分を過ぎたら撤退し、名古屋空港に向かうように、とのことだ。

「集合場所へ着いたらその先の任務は?」

君月の問い掛けに「着いたらそこに指令書があるから、その通りに行動しろ」と答える。

「よし、じゃあさっさとやるぞ。作戦開始だ」

その後にグレンは後ろの深夜に敵の様子を聞き、「動かないね〜」という返答が来た。

「どうすんの? こっちから攻撃仕掛けるってわけ?」
「五士の幻覚で200人くらいで攻めてるように見せかけたい。できるよな?」

五士はグレンの無茶振りに困惑する。

「……シノンちゃん」
「ふぇ!? あ、愛紗様…?」

突然愛紗に声を掛けられ、小さな悲鳴を上げてすぐに振り返る。

「清吾が、それぞれの隊で分かれて人質を救出することになったって言ってた」
「そう、なんですね……」
「…大丈夫だと信じてるけど、気を付けて」
「え…?」

どういう事なのだろうか…? と考えていると、

「何となくだけど、嫌な予感がする」
「嫌な、予感……」
「お姉ちゃんやグレン中佐達が強いのは知ってる。でも…」

愛紗は次に言おうとした言葉を飲み込むように口ごもる。

「…大丈夫ですよ。グレン中佐や聖璃様達なら、きっと勝てます。信じましょう、グレン隊の力を」
「……うん、そうだね」

シノンの笑顔につられてか、同じように目を細め微笑む。

「まっちゃん! 絶対皆を助けよう!」
「ん、そうだね」
「相変わらずだなぁ、真音ちゃん…」
「きりっちも、相変わらず」
「そりゃあ、隊が別になってからまだ数ヶ月しか経ってないしね……」
「そういや、そうだったね」

久々に鈴花や綺里と話せたのか、真音はほんの少し笑顔を見せた。
そして、いよいよ作戦決行のときがやって来た。

「聖璃様、お気を付けてください…」
「心からのお気遣い、感謝です。シノンお嬢様」
「必ず、共に生きて帰りましょう……」
「主の命とあらば」

心配そうに眉を下げるシノンに聖璃は優しく笑む。

「…聖璃さん」
「! 秀作……」
「無理を、しないでください」
「分かってるわよ、ありがと」

秀作にも微笑んだ後、まるでスイッチが入ったように表情を変えた。

「始めろ!! 仲間を救出し、いまから5分で撤退だ!!」
「…了解っ!!」

グレン隊・深夜と共に屋上から飛び降り、降り立ってすぐ名古屋市役所へ駆け出す……。

prev  On the other side of the fairy tale.">back  next