思い出のコモリウタ 1
「優!!?」
「あれ、君は…」
「うぉおおおお!!!」
床を突き破った優一郎はクローリーに刀を振るが、瞬時に彼が剣を前に構えたことにより無効化されてしまう。
クローリーも優一郎の首を狙いながら剣を突き立てるが、君月のおかげで優一郎は間一髪で危機を免れた。
その後に三葉が《天字竜》の鬼を発現させ、クローリーの周りを囲む。
「おっとっと、いっぱい来た」
その刹那、背後にいたシノンの槍攻撃を素手で止める。
「くっ…!!」
「君、確か"刹那姫"だよね?」
「っ! "千蝶乱舞"っ!!!」
「!!」
掴んでいた片方の槍が蝶に変わり、クローリーの右手を覆う。
鬱陶しそうにまとわり付いているそれを振り払っている間にシノンは出来る限りクローリーから距離を取る。
「危ない危ない、危うく右手が喰べられる所だった」
クローリーはあまり危機感を感じさせない声色で右手を振る。と、
「撃ち抜け、"幻影弾"!!!」
今度は真音の特殊能力攻撃が放たれたが、それすらも何食わぬ顔で躱す。
全くか掠りもせずに。
「なっ…!?」
「"白狼戦乙女"もいる。この前、新宿にいたよね?」
「おまえに話すことなんて、ないっ!!」
癇に障った真音は何度も特殊能力を連発するが、やはり避けられてしまう。
「"幻影弾"が、効かないっ……」
茫然としながら火縄銃を降ろし掛ける。
「真音様っ!!」
シノンは即座に真音の元へ駆け、彼女を守るように《雪浅鬼》を前に構える。
そのタイミングで優一郎が特殊能力を発動させるがクローリーの従者達によって全て躱されてしまう。
「…!!!」
「失敗です!! 一度態勢を…!!」
言い掛けたときにチェスとホーンがこちらにめがけて飛んでいた。
「下がれ!!!」
「うわわっ」
「天字竜!! 盾になれ!!」
三葉は再び鬼を出すが…全て払い除けられてしまった。
「バカ野郎何しに来た!! 命令を守れ!! 即時撤退…」
「はい少し黙って〜」
「がはっ」
「グレン!!」
「グレン中佐っ!!」
クローリーに腹を蹴られたグレン。
優一郎とシノンは目を見開かせる。
「あれ。君、新宿で暴走した子でしょ〜? ……ちょっと妙な展開になってきちゃったな」
「おい、みんな! 俺が突っ込む!! 援護頼む!!」
皆に呼び掛けてすぐに深夜に肩を掴まれ、「グレンは捨てる」と告げられる。
「深夜兄様っ…!?」
「ふざけんなてめぇ!!! 放せ馬鹿がっ!!!」
「全員で彼を止めろっ!!! これは命令だ!!!」
すると、外からヘリの音が聞こえてくる。
「くそ!! もう敵の増援が…!!」
深夜が言ったと同時に時計のタイマーが鳴り、本当に撤退せざるを得なくなった。
「……優さん、5分経ちました。撤退です」
「…お…おい。冗談だろシノア、グレンが捕まったんだぞ? 俺ら家族じゃなかったのかよ!!?」
「優様っ、落ち着いて…「落ち着けねぇよ!!」
「っ!」
優一郎の腕を両手で掴んでいたのだが、強く振り解かれ一瞬よろめく。
「っ…。優様、お願いしま……えっ…?」
もう一度優一郎を制止しようと歩み寄ると、ふとグレンと目が合った。
彼は自分に何を伝えようとしているのだろうか?
そう思考を巡らせていると…
「…♪〜♪♪〜……」
「っ…!! 中、佐……」
彼が口ずさんでいたのは、自分が幼い頃に彼に教えた子守唄だった。
〜9年前、秋……〜
「…グレン兄様」
「だから、俺はおまえの兄貴じゃねえって言ってんだろ?」
膝を擦り剥いてしまったシノンはたまたま来てくれたグレンに背負われている。
その際、今日で何度目かの兄様呼びをするシノンにグレンはため息をつく。
「呼んじゃ、ダメですか……?」
「…しょうがねえな、何だ?」
「私、強くなれますか……?」
その言葉にグレンは足を止める。
「…何だぁ、急に?」
「私、強くなりたいです……」
グレンは思った。
彼女は、もしやこの先の未来を分かってそう言っているのでは…? と。
「…今、それを考えるときじゃねぇよ。ちったぁ餓鬼らしく振る舞えよ馬鹿が」
「すみません……」
「…ま、仲間を作ったらなれるんじゃねえの?」
「なか、ま……?」
グレンの言葉を繰り返し、首を傾げた。
「そ、シノアとか知人とか。他にもいっぱい仲間を作れ」
「…作ったら、グレン兄様みたいになれますか?」
「いや、俺みたいにはなれない。おまえにはおまえの強みがある」
「……?」
今度は目をパチクリとさせる。
「いつか分かるさ。そんときまで餓鬼らしくいろよ。それが…兄ちゃんとの約束だ」
「…うん。分かりました……」
グレンの言葉を信じ、頷く。と、
「お、シノン」
「はい…?」
「おまえ、前に子守唄歌ってたよな?」
「え…? あ、はい……」
「あれ、俺にも教えてくれるか?」
「ふぇっ…」
唐突の要望に狼狽えてしまったが、
「……分かり、ました…」
昔から聴いていた子守唄を目を閉じながら歌う。
グレンも、背中越しから聴きながら口ずさむ。
そのときの空は、戦いでいる紅葉と同じ紅色に染まっていた……。
「グレン、兄様っ−−−…!」
その瞬間、今まで保っていた何かが徐々に解き放たれようとしていた−−−。