阿朱羅のチカラ






「優様ああぁあっ!!!」
「があっ!!! うああああああ!!!」

鬼呪促進剤を飲んだ優一郎は吐血し、倒れた。

「優様!! シノア姉様、優様がっ……!!!」

シノンは瞳に涙を溜めながら優一郎を膝に乗せ、叫ぶように必死にシノア達を呼ぶ。

「優さん!! 優さんっ!!」
「優くんっ!!」
「優二!!」
「「優っ!!」」

シノア達がいくら呼んでも優一郎は目を覚まさない。

「ど、しよっ…。優様っ……」

彼が倒れたのを目の前にしたシノン。
それ故に、動揺が止まらない。

「っ、やだ…。おねがいっ、優さまっ……」

優一郎の手を握り、大粒の雫を沢山流す。
心から彼の意識が戻ることを願う。
と、そのとき……

「っ…!!!」

握り返された感覚に気付くと優一郎の目が開いていた。

「優様っ!!!」
『!!』

シノンの呼び掛けで全員優一郎が目を覚ましたことに気付いた。が……

「…シノン」
「優様! 動かないでいてくださっ……。えっ…」

動かないよう言おうとしたら、彼は何事もなかったように起き上がった。

「あ、の……?」
「…戻った、ちょっと行ってくる」
「! 優さっ…!?」

引き止める前に優一郎は人間離れした速さで去って行く。
恐らく、名古屋市役所に戻ったのだ。

「な、何がっ……」
「シノン!! 優さんを追いかけますよっ!!」
「は…はい!!」

我に返ったシノンはシノア達と共に優一郎を追いかけるべく、同じく名古屋市役所へ向かう。





「君月さん! お願いします…!!」
「分かった!!」
「私たちはここで待機です!!」

着いてすぐ君月だけ先に行った。

「シノア姉様! 私も行きたいですっ!」
「ダメです、貴女もさっき…っ。とにかく、ここで君月さんの帰りを待ってください」
「……っ、はい…」

言葉を出す代わりに槍を強く握り締めると、

「ガキども! 最後の命令だ!! おまえら絶対生きてここから逃げきれ!!!」
「!! グレン、中佐…!!」

グレンの声が聞こえてから少しして、特殊能力を発動させている君月が戻ってきた。

「君月様!! 優様はどこに…!?」
「箱の中だ!! 走るぞ!!」
「こ、これ!?」

走る途中、《鬼籍王》が箱の中にいる優一郎を殺せと君月に呼び掛け、君月はそれに応えず中の鬼を気絶するよう命じる。

「これはどういう…」
「近接範囲で9秒カウントを聞かせた相手を、数秒だけ強制収容する能力だ」
「あれが、君月様の特殊能力……」
「吐き出せ」

君月が言った瞬間に箱が開き、優一郎が出てきた。

「!! 優様っ!!!」
「…よし成功だ、角もない。鬼の侵食を止められたか」

皆が優一郎の無事に安堵していると、深夜が階段の下にいた。

「おい! グレンの言葉が聞こえなかったのか!! 敵の増援が来るぞ!!急げ!!」
「行きましょうみなさん!! 中佐の命令です!! わたしたちは生き残ります!!」

この後にシノア隊と深夜は鳴海達と合流し、市役所から離れるべくただひたすら走る。





「士方!! 優に何かあったのか!?」
「…鬼に、呑み込まれそうになっていた」
「!!?」

知人は目を見開せ、

「何やってんだよ、おまえっ…!!」

憤っているような表情で眠っている優一郎に声を掛ける。

「…シノノン。優二は、大丈夫だから」
「真音、様っ……」

真音に支えられながら辛うじて走っているシノンの顔色はあまり良くない。
先程の暴走のせいなのか、それとも優一郎を案じ続けている為なのか。
真音はより不安が増していく。

「空港まで、頑張ろ…?」

精一杯考え付いた言葉を告げると彼女は弱く頷いてくれた。

「シノンちゃん……」
「愛紗、今は走るのよ!!」
「うん…」

愛紗は聖璃の顔を見てから顔をしかめる。と、

「柊少将!! 前方に敵です!!」

確かに、吸血鬼と思われる人影が見えた。

「くそっ、数は!?」
「二匹です!!」
「二匹か…。いや、全員このまま突っ込むぞ!!」
『はいっ!!』
「っ……」

シノンは再び嫌な予感がした。
一方、その二匹の吸血鬼は……





「よし、人間ども……優ちゃんを返してもらうぞ」
「真音…。今から、助けるわ」

ミカエラと依音はすぐに出せるよう剣の柄の付近に手を添える……。

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