刹那姫のナミダ 1
side:優一郎
「おかえり、ミカ」
ミカとまた会えた俺は、血を飲まないと死んじまうのにそれを拒むミカをただ生きて欲しい一心で説得し、ミカは血を飲む事を決めた。
そして、ミカの瞳の色が碧から赤に変わっていた。
「…君のせいで、バケモノになっちゃった」
「じゃあガオーって言えよ」
「冗談じゃなくてさ…こんなの変だよ。家族の血を吸ってまで生き残るなんて……普通じゃない。人間失格だ」
「失格でいいじゃん。別に普通なりたいわけじゃない」
そう、おまえが生きてさえくれればそれだけでいい。
やっと、こうやってまた話せられたし。
それに…昔、グレンがこう言ってたしな。
「家族を失って、辛くて、苦しくて…。生きるのをあきらめようとしてた俺に…」
「……」
「生きる理由が復讐だけになっても、生きろって。そしたら…生きてたらいつかもう一度、誰かが俺を必要としてくれる日が来るからって」
確かに、"家族"が増えた。
心から守りたい奴も出来た。
真っ先に浮かび上がったのは、シノンの顔だった。
…そうだな、これはミカに伝えなくちゃな。
「ミカ、話があるんだ」
「! …何?」
「俺な、シノンの事が…。好きなんだ」
「……」
やっぱり、怒ってるよな。
初恋の相手を好きになっちまうなんて……。
「…はぁ、とっくの昔にそうなる気はしてたよ」
「……ん?」
一体、どういう事だ?
「昔、君に話した時…。何となくだけど、シノンちゃんとどこかで会いそうだなって思ってた」
「はぁ…?」
「シノンちゃんはとても優しいし、笑顔も凄く可愛らしいし」
それはよく分かる。
「それに…いつも自分よりも人の事を倍に心配するタイプだから」
「まぁ、そうではあるけど……」
「けど?」
あー、これ話してもいいのかなぁ……?
「…初めて会った時、凄く警戒されたんだけど」
「…プッ」
「何で笑うんだよっ!?」
「どうせ、食ってかかろうとしてたんでしょ?」
「違ぇよ!! アイツの周りが勝手に変な風に説明していたからそうなっただけだし!!」
全く、誤解を解くのが大変だったんだぞ。うん。
「優ちゃん、まさかシノンちゃんに何かしたんじゃ……」
「…ちょっと、鬼呪装備を力ずくで手に入れようとして戦ったけど……」
「………」
「そんな目で見んなよ」
「シノンちゃんに謝らないとな…」
「保護者かよ」
「"家族"だって言ったの、優ちゃんでしょ?」
「そうだけど……」
改めて振り返ると、アイツと出逢ってから色んな事があったな。
「まずは、初めまして。私は柊 シノン。柊 シノア姉様の双子の妹で……月鬼ノ組に所属しております」
「優様はっ、何も悪くありません…!! 私だって、私だって……! ミカ様を助けられなかった!! 優様にとっても、"大切な人"なのにっ……!!!」
「…えへへ、優様の撫で方、凄く好きです……」
「そんな事、ないですよ。私は凄く大好きです、"家族"って言葉……」
「優様…!」
今思うと、いつの間にかアイツの事ばかり考えるようになったな……。
「あ、優ちゃん」
「ん?」
「実は、シノンちゃんも一緒に来ているんだ……」
「!! シノンが…!?」
知らなかった…。
シノンも一緒だったのか……。
「うん。多分、依音とその妹と一緒に…「あぁああああああああああ!!!」
「「!!?」」
今、シノンの声がした…!!
「優ちゃん!!」
「ああっ!!」
何があったのか確かめる為に向かうと…シノンが、倒れていた。
「シノノン、シノノン!! どう、しよう……」
「! そこにいるのは、真音か!!」
「優二!! シノノンがっ…!!!」
「っ、シノンちゃん……」
「な、んだよ…。オイシノン、返事しろよ…。シノン!!!」
揺すっても、シノンはピクリとも動かない。
「何が、あったんだよ……」
「アタシ達が気付いた時には、もう倒れていたのよ…」
「! お前は、確か真音の…」
「事情は後でゆっくり話すわ。それよりも、この子の事よ……」
「姉ちゃん、シノノン大丈夫だよね…?」
真音の姉ちゃんは視線を下に向ける。
「…分からない。推測だけど、きっとこの子は精神の奥深くまで閉ざしてるんだと思う……」
「精、神……?」
何で、そんな事に……。
「あくまで可能性として、だけど…。この子、かなり精神が不安定になっているように見えたのよ……」
「…で、今はどうしてんだ?」
「精神って事は、もしかして…今、鬼といるって事……?」
「の、可能性が高いわね」
鬼といる……。
俺がさっきまで《阿朱羅丸》といたみたいに、って事か…。
「…シノンを、呼び戻してくる」
『!?』
「優ちゃん、何おかしな事をっ……!?」
「おかしくねぇよ!! このままシノンを放っておけってかっ!?」
「っ!? それ、は……。嫌だ……」
「…分かってるの、アンタ? 可能性とはいえ鬼といるのよこの子は?自分の鬼じゃない鬼と対峙するなんて……」
「やってみなきゃ分かんねえよ」
前にも同じ事があった。
今回のは前とは全く状況が違うってのは分かっている。
けど、このまま放っておけるわけねぇだろ……。
「俺…シノンにいっぱい助けられたから。だから、今度は俺が助けなくちゃならないんだ」
今までアイツが俺にしてくれた事を、今度は俺がする番だ……。
「優ちゃん……」
「優二…。大将から聞いた事あるけど、《阿朱羅丸》と契約する前一度鬼と対峙した事あるんだよね?」
「そうだけど…」
「なら、その時と同じように鬼呪装備に触れば良いと思う」
「ああ、分かった」
シノンの鬼呪装備に触れるの、初めてになるな。
「優ちゃん! 僕も…!!」
「ミカエラ、貴方は無理よ。この子の強い鬼呪にやられるわよ」
「っ……」
「ミカ、何があってもシノンを助け出すから。待ってろよ」
「…必ず、一緒に帰って来てよ……」
「任せろって!」
ミカにそう答えた後、俺はもう一度シノンの鬼呪装備に目を向け……
「よし、じゃあ行くぞ…」
ゆっくりと手を伸ばし…触れた瞬間、強い眠気に襲われた。
待ってろ、シノン。
今、助けに行くからな……。