太陽とミカヅキ 2






「ふぅ…見つからないね。優君」

あれから数分程探しているが、中々条件に合う車が見つからない。
そう思いながら優一郎に声をかけるが、

「そうだな……」
「優君…?」
「いや、何か変な感じしてさ……」
「も、もしかして……。私の口調の事…とか?」
「それもある」
「えぇえ…。きゅ、急に変わり過ぎたかな……」

シノンは、うーんと頭を悩ませる。

「んな事ねえよ。寧ろ、そっちのお前も十分良いと思ってるし?」
「あっ、ありがとう…。でも、それもあるって事は……」
「…俺、さ。昔両親に「悪魔の子だ」って言われて殺されかけたんだ」
「!? そ、そんなのっ……」

初めて聞いた過去に動揺し、両手で口を覆う。

「だからさ、今までずっと家族なんてもんは知らなかったんだ」
「優君…」
「だけど、ミカやグレン、シノア達、そして…シノンと出会えて、何か変われた気がしたんだ。で、家族っつーのも知った」
「……」

切ない表情を浮かばせながら優一郎の元に歩み寄り、その小さな手は彼の右手を包むように握る。

「! シノン…?」
「優君、ずっと…頑張っていたん、だね。ずっと、堪えていたんだよね……」

ほんの少し、握る力を強める。

「…堪えてたのかは、よく分かんねーな……」
「優君の気持ち、こう言ってはダメなのかもしれないけど…凄く分かるんだ……。私もずっと、色んな人から「忌み子だ」「鬼の子に近付いたら殺される」。……親族の人に、そう言われ続けてた」
「! んな事ねえよ! シノンはっ、お前は……!」

優一郎のもう片方の手が、上からそっと重なる。

「私だって同じだよ! 優君は…悪魔なんかじゃない。優君は私の、太陽だから…。優君がいなかったら、私はここまで来れなかった。優君がいたから、私は変われた……。だから、おこがましくても、そんな優君の側にずっといたい…」

溢れそうになる感情を抑えるように、顔を俯かせる。

「シノン……。…俺が太陽かー、全然しっくり来ねえ」
「そんな事ないよ……。優君は、本当に太陽だよ。グレン中佐と同じ」
「グレンと?」
「うん…。グレン中佐もまるで太陽みたいな人だって、真昼姉さんが言ってた……」
「…お前の姉ちゃんが言ってるの、分かる気がするな。けど……」
「…?」
「月が無かったら、意味無いだろ?」
「月……?」

「何故、月なのだろう…?」と首を傾げるシノンだが、

「そっ、月。で…その月がシノンだって俺は思ってるけどな」
「! 私っ…!?」

突然自分の名前が出てきた事に吃驚する。

「他に誰がいんだよ?」
「え、あっ……。な、何で…?」
「あまり深くは考えてねーけど、何となくシノンは月だなって思った。こう、太陽と同じぐらい空を支えているっていうのか?」
「でも、支えている程の事は……」
「してるよ、沢山」

その瞬間、優一郎と目が合った。

「何回も助けられたからな」
「私だって、沢山助けられたもん。それに……」
「それに?」
「私が月なら、多分満月じゃなくて。三日月かな」
「三日月…?」
「うん。未熟で、か細くて、全てを照らす事がまだ出来ない……。欠けたままの月」

そう言いながら空を見上げる。

「だから…今はまだ、太陽の影にいるだけなのかなって思ってる」

もう一度優一郎と目を合わせた時、ふわりと微笑む。

「そっか…。おっ、シノン。あっちに車があるぞ!」
「え? あっ、本当だ……!」

動く車だと分かった2人はミカエラ達を呼び、その見つけた車で向かう事にした。
そして、移動途中でミカエラはある事を話し始める……。





「……君が、人間に人体実験の材料にされてるって話」
「ふむ」
「っ……」

後部席で彼の話を聞いているシノンは、眉をひそめながら裾を強く握りしめる。
すると、両隣にいる真音と依音が彼女の肩にそっと触れる。

「真音ちゃん、依音さん…」

感謝の気持ちを込めて、ほんの少し笑む。
ミカエラはミラー越しから彼女の様子に気付いていたのだが、そのまま話を続ける。

「それはまるで、世界中にある人間の組織や吸血鬼たちすべてから狙われるような大きな実験っていう話」
「なんか急に話がでかくなったな」
「そりゃそうだよ。この世界の大人たちを全部殺し、一度世界を滅ぼしかけたのもその実験の失敗からだしね…」
「「「…!?」」」

シノン・真音・依音は思わず息を止める。

「ちょっ、待てよ。じゃあ世界が滅びたのは…俺のせいなのか?」
「違う。僕らのせいじゃない、僕らは利用された。今もされてる」

話を聞き続けている途中、依音はふと真音を一瞥する。
彼女だけしか事実を知らない。
真音も、その利用された側という事を。

「そして、その実験を日本帝鬼軍が受け継いだ。《終わりのセラフ》の実験を…」
「《終わりのセラフ》……」

聞き覚えのある単語を耳にしたシノンは記憶を手繰り寄せるが、どこでそれを聞いたのかまでは思い出す事が出来なかった。

「とにかく…優ちゃんを、シノンちゃんを人間どもの中には置いておけない」
「ミカ君……」
「でも…俺たちは人間だ」
「……」

ミカエラは優一郎の言葉に複雑な思いを抱く。

「おまえのことだって、俺は人間に戻したいと思ってる。だから人間たちから逃げるわけには…」
「それでもだよ。少なくとも日本帝鬼軍はだめだ、奴らが君を手に入れたら…きっと、すぐに世界を滅ぼす。だから…このまま僕と逃げようよ。どっか遠くの田舎で静かに暮らそう」
「…日本帝鬼軍にも吸血鬼にも見つからないどこかに逃げだそうって?なんかそれ…昔を思い出すなあ」
「2人共……」

彼らの会話の節々から、4年前の彼らの事が少し分かるような気がする。
同時に、胸を締め付けられるような感覚がした。
まるで、強く共感するかのように……。

「あの子達、強いのね…」
「姉ちゃん……?」

真音は依音が呟いた言葉に首を傾げる。

「アタシには、逃げるなんて選択肢が頭の中に無かった。もう真音と会えないって諦めてた。心が弱い証拠ね、きっと……」
「………」
「これから、どうするのかしらね……」
「…皆と、相談する」
「え…?」
「与一達は、強い味方。逃げるのなら、ちゃんと事情を説明したい」
「そうそう、真音の言う通りだ! あいつらならきっと協力してくれるよ!」

優一郎も、真音に続くように言う。

「…ほんとに彼らをそんな信用していいの?」
「安心しろいい奴らだから、もう俺と同じくらい信用しろよ!」
「…無理だなぁ」
「どんだけお気楽思考なのよ、アンタは……」

彼の言葉に、ミカエラと依音は反応に困る。
しかし、シノンだけは相変わらずな優一郎に安心したのか、クスッと笑う。

「あっ、シノン。今笑ったか?」
「えっ!? み、見えてるの…!?」

シノンは肩を竦めて驚く。

「うん、これで見えるからね」
「あ、ミラー……」
「気付いてなかったのか?」
「…うん」

優一郎の問い掛けに、肯定の頷きをする。

「ってか、最初から言いなさいよね単純脳」
「あ!? 誰が単純脳だぁ!!?」
「優ちゃん! ちゃんと座って!!」
「姉ちゃん、優二が単純脳なのは今に始まった事じゃない」
「何なんだよこの姉妹はあぁああっ!!?」
「ゆ、優君! 落ち着いてっ…!?」

虎賀姉妹にキレる優一郎を必死に宥めている最中、ふと思った。
シノア達は、今どうしているのだろうか…と。

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