Prologue

side:dream heroin 1





−−−遥か昔の、夢を見た。
冷たく、そして静かで…。
雪が降りしきる寂しい場所だった……。

そこには、群青の髪と雪空と同じ水色の瞳の女性が泣いていた。
愛する人を喪った悲しみを外に出すように、声を上げて泣いていた。
何となく、私も同じになるのかな…って思っていたからか、本当に同じように冷たく寂しい世界にいた。

でも、すぐにあの人は私の心を溶かしてくれた。
何度も呼び掛けてくれた。
このままいてはダメだ、と怒ってくれた。
貴方がいなければ、私は今この場に立っていられなかった。
ずっと…あの世界に閉じこもったままだった。





「……優君」

その名前を口にするだけで、鼓動が早くなっていく。
何なのだろうか、この感情は。
いつか、分かる時が来るのかな?
そんな想いを抱きながら満天の星を見上げ、唄う。
あの夢で覚えたもう1つの"子守唄"を……。

「♪〜♪♪……」

その唄は、幼い頃から聴いてきた子守唄とは全く違う。
切なくて、哀しい気持ちが込み上げてくる唄。
夢の中のあの人が作った唄、というのは確かに分かる。


「恋唄、なのかな」

想いを寄せている人がいるような節が、歌詞の所々に散りばめられている。
きっと、愛する人を悼んだ唄なんだ。
でも、歌詞の最後に…自分の死を示唆しているようなものがある。

「分かっていた、のかな。自分もそうなるのを……」

呟くように、何も言わない幾億もの星に問う。

「シノン!」
「っ! あ、優…君」

後ろから名前を呼ばれ、振り返った先には…先程名を呟いた人−−優君がいた。

「シノアに呼んでこいって言われて探してみれば、やっぱりここにいたんだな?」
「あはは、ごめんね。寝る前なのにいなくなっちゃって……」
「たまにやるよな、おまえ。気が付けばどこにもいねぇし、見つかる場所も決まってここだし」

確かに……。
何となくぼぅ…としてる時は、そうしてたはずなのに何故か海辺にいる時が多い。
無意識なのか、それとも違う何かなのか。
優君だけでなくて、ミカ君やシノアお姉ちゃんや真音ちゃん……。
一緒に名古屋空港から脱出した皆に迷惑を掛けてしまっている。
どうにか直さなくちゃ、と心掛けているのに…やっぱり、今日もここに来てしまった。

「これって、何かの病気なのかなぁ……」
「んー、俺のとは違う感じだよな?」
「……そう、だね」

優君は名古屋決戦以来、徐々に彼の中の鬼が精神を蝕んでいる。
私とシノアお姉ちゃんと三葉ちゃんで、気休め程度だけどそれを食い止める呪符を作り、鬼が表に出た時に発動している。
けど、段々と呪符の効果が効かなくなり始めている。
今は幸い、鬼が起きていないから良いものの……。
今の優君は、少し冷たく感じる。

「………」
「? シノン…!」
「優君っ……」

抱きしめているこの人は本当に優君なのか?
疑いたくないのに、確かめてしまう。
今みたいに優君に抱き付く事に、すっかり躊躇しなくなっている。
これも、変化なのかな?
優君はお兄ちゃんみたいな人で、本当は優しくて、とても家族思いで……。
もし願いが叶うのなら、以前の優君になるのなら。
どんな事も、やれる気がするの……。

「シノン……」
「…!」

…優君、だ。
優しく抱き返してくれた彼に、大きな安心感が出た。

「ごめん……。もう、大丈夫だよ…」
「そっか…。じゃ、戻るか」
「うん………あ」
「どうした?」
「な、何でもないよ……」
「そっか…?」

握られた右手が、暖かい。
本当に、優君は優しい人だな……。

「ミカも心配してたぞ?」
「! ミカ、君…」

ミカ君に何度も告白の答えを言おうしたけど−−−どうしても、言わせてもらえない。
その度に、こう言われてきた。



「まだ、答えを出すべき時じゃないよ」



その言葉がどういう意味なのか、まだ分からない。
ハッキリとした答えのはずなのに、違うと言われ続けている。
私の本当に出すべき答えは、一体どういうものなんだろう……。

「分からない、よ…………」

優君に聞こえない声でそっと呟き、一緒に海を眺めながら漁村へ戻る。
この出来事から数日経った後に再び運命の歯車が動き出し…。
謎に包まれていた、全ての真実が少しずつ解かれていく−−−。

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