始まりのマチ 3






「日本帝鬼軍から飛び出しちゃった私たちが今後どうしようか会議ですが〜」

そう話すシノアに鳴海は昨日も話したろと言うが、それに対しシノアは昨日は優一郎とシノン、ミカエラがいなかったからと言い、三葉に前提条件を話してくれと頼む。

「なんであたしが…。あ〜そうだな、ええと」
「前提条件、って。何だっけか?」
「…知人。昨日あたしと一緒にいたはずなんだけど……」
「いやー、そうだけどさぁ。難しくて忘れちった」
「……」

知人のアホっぷりに呆れ果て、ワザとらしくため息をついてから改めて前提条件の説明をする。
日本帝鬼軍は優一郎や与一、君月、君月の妹である未来を使って怪しい実験を行っていた事。
シノアとシノンの血縁である柊家は大義の為に仲間を平気で殺し、実験の標的とされている今は近付くのは危険という事。
しかし、このまま逃げ続けるのは不可能で、下手をしたら今いる村の人達を巻き込んでしまう事。
…そして、最後に。

「4.…シノン、昨日も話したが。帝鬼軍はおまえを狙っている」
「!? 本当か、シノン……?」
「っ、うん……。あの時は途中で意識を失ったからよく覚えていないけれど…」
「シノンちゃんの血は、アイツらにとって吸血鬼を倒せる最終兵器になるからね」

ミカエラの言葉に、シノンは無言で頷く。

「自分でも分かっている。私はずっと帝鬼軍に利用されていた。兵力としてじゃなくて、唯一の吸血鬼を殲滅させる最終手段だって……」
「…じゃあ、出ていこう。村の子供たちを巻き込めないし、シノンが狙われてるってなら尚更だ」
「優君………」
「だが、どこへ逃げる?日本にいる限り追っ手は来る。海外にでも出るか?」

優一郎に意見を述べる鳴海は続けて話す。
世界滅亡と同時に海は毒に染まり、ヨハネの四騎士を超えるバケモノがウヨウヨと居る為海を越える事は出来ない、と。
話を静聴していた与一は確かに…と血のように赤い色をしている海を見遣る。

「海外には出られなくて、逃げ場はねぇけど追っ手は来る…。うぐぐ、難し過ぎだろーっ!」
「確かにな。数回は追い返せるかもしれないが…それも、鬼呪促進剤があるうちだけだ」
「…薬が切れちゃったら、吸血鬼ともヨハネの四騎士とも戦えないもんね。で、優二は鬼に取り憑かれている」

真音の補足に鳴海はその通りだと頷き、優一郎の治療をする為に帝鬼軍に投降するしか…と言いかけた所で、

「ふざけるな、優ちゃんを、シノンちゃんを人間には渡さない」
「なら、おまえは鬼から優を救えるのか?それに、シノン君の事も守り切れるとでも?」

ミカエラはその問い掛けへの答えが浮かばず、噤むしかない。

「いや、待ってくれよ。この際俺のことは一度無視して…「黙れガキ!!!」
「!! 鳴海さん、あのっ……」
「君の実験に巻き込まれて僕は仲間を失ったのに、ふざけたこと吐かすな。君は絶対に救う。じゃなきゃ、仲間が死んだ意味がなくなる」
「……っ」

彼の言葉から伝わる思いに、シノンは自分の従者で彼の師である聖璃の顔を思い浮かべる。
名古屋決戦を最後に姿を見なくなった聖璃。
一体彼女は何処にいるのかは分からない。
柊家の次期後継者で長兄である暮人に殺されていない事を祈るばかりだ……。
その時、君月が「投降が正解なのか?」と発言し、「妹を救いたい。それはおまえらを裏切ってでもだ」と意思を述べる。

「…グレンが、泣いてたんだ。みんな、グレンにもう一度会えればきっと…」
「ちょっ」
「それは却下で」
「優君。グレン中佐は…私たちの姉に取り憑かれていたんだよ。きっと、今は話を聞いてくれない」
「そりゃ、そうかもしれねぇけど…」
「……お願い。優君まで失いたくない」

シノンの見据える瞳に、優一郎は何も言わない事にした。

「とまぁ、前提はここまでだ。人間同士の会話じゃ昨日と同じ結論。で、おい吸血鬼。君には何か案はないのか?」
「なんだ、情報を聞き出すための血か」
「いえ、仲間を守るための血です。ミカさんに何か考えがあるのなら教えて欲しいのですが」

ミカエラは優一郎とシノンの顔を見てから、前に彼らに話した事を皆にも伝える。

「…《終わりのセラフ》の実験をしている吸血鬼がいた。僕を飼っていた女王だ。彼女はたぶん…信用できる」

しかし、その女王は他の吸血鬼に捕らえられ、今はどうなっているか分からないと続けて言う。

「わからない?」
「ああ。でもたぶん、そうだな…。それでも女王奪還の方が簡単だと思う」
「吸血鬼の方が帝鬼軍より危険じゃないのか?」
「ああ、吸血鬼は人間に興味はないからね。怖いのはおまえら人間だ。おまえらは力を得るためならなんでもやる」
「まぁ、否定出来ねーな。な、鳴海兄ちゃん?」

はぁー、と納得した知人は鳴海に振る。

「おまえ…。いや、確かに帝鬼軍はそうだ。私はこの吸血鬼の意見に賛同するが、君らはどうだ」
「…!」

鳴海の問いに、皆も賛同の表明をする。
彼らの意外な返答に驚いたミカエラはもう一度2人の顔を一瞥するが、2人共良い笑顔を見せていた。
そのすぐ後に「じゃあ結論は出ましたねぇ」とシノアが両手を合わせ、

「日本帝鬼軍を飛び出した我々の次の目標は、優さんが鬼になる前に吸血鬼の女王を救出する! ってことでみなさんいいですかね?」
「よし、そーとなったら救うぞー!」
「「「「おーっ!」」」」

優一郎の呼び掛けに応えたのは、シノン・与一・真音・知人だけだった。

『……』
「馬鹿だけが反応するシステムか?」
『えーっ!?』

君月の一言に優一郎と知人は「ちがーしっ!!」と反論し、与一は「酷いよぉおおっ…」と困惑し、真音は「与一は馬鹿じゃない」と真顔で答え、シノンは「ば、馬鹿…ですかっ……」と落ち込む。

「大丈夫、シノンちゃんは優ちゃんに合わせたんだよね? シノンちゃんはお人好しなだけだから」
「「俺らのフォローはねぇのかよっ!?」」
「当たり前でしょ」
「「ミカーッ!!!」」

即答したミカエラに怒りを向ける優一郎と知人に全員笑い顔になる。

「(ここにいる皆となら、きっと………)」

それは、シノンの悩みが少し晴れた瞬間でもあった。
いつまでも皆と仲良くいられたら…という願いに反し、歯車の動きは再び早まっていた。





「依音ー、たのしみだね!」
「…ええ、そうね」

海沿いの道路を走る2台の車。
1台はフェリドとクローリーが乗っているスポーツカー。
もう1台は依音とエリザが乗っている乗用車。
この2台の向かっている先は…シノン達がいる漁村だ。

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