死海ドライブ 1






「♪〜♪♪♪〜…」
「…………」

乗用車の窓を開け、風を感じながら鼻歌を口ずさむエリザ。
そんな乗用車を運転をしている依音は、エリザにある疑問を問い掛けてみた。

「エリザ」
「なに〜?」
「どうして、アタシ達までフェリド様やクローリー様と共に漁村へ向かう事になったの」
「えっ?」

エリザは「うーん…」と考えるような仕草を取り、

「おもしろそうだから?」
「…ハ?」

拍子抜けの返答に眉をしかめる。

「フェリドとクローリーが動くってことは、なにかおもしろそうなことが起きる前ぶれだからねぇ。それに…依音も真音と会える!」
「…! それが、本当の目的なの?」
「それもあるけど、アタシは真音と一度も会っていないからぜひ会ってみたいな〜って思ってる!」
「…………」

依音は思考を巡らす。
もし自分達が村に行ったとして、真音達は果たして受け入れてくれるのだろうか。
それ以前に、フェリドやクローリーは幾度となく彼女達の前に立ちはだかった者達だ。
そう思うと、今回の事を提案したフェリドにより疑心を抱く。

「…って、考えていても仕方がないわよね」

はぁ…とため息をつきながら前に向き直す。

「……真音」

三度も離ればなれになった愛しの妹。
一体どうしているのだろうか、と思いを馳せる−−−。





「ん……」

一方、まだ会議を続けていた真音達。
その最中、真音はふと誰かに呼ばれたような気がし、後ろに振り返る。
が…そこに誰もいるはずがなかった。

「真音ちゃん、どうかしたの?」
「…ううん。何でもない」

「気のせいか…」と思いながら与一の方に顔を向けた。

「でも、吸血鬼の女王を救うってどーやったらいいんだミカ。やっぱ京都のサングィネムに行くのか?」
「サングィネム………」

シノンは一瞬反応する。
サングィネム−−吸血鬼の第三都市。
かつて優一郎とミカエラ、彼らと共に育った孤児院の子供達が家畜として連れ去られたかの場所。

「……優ちゃん」
「ん?」
「女王はフェリド・バートリーに捕まったんだ。覚えてる?」
「………フェリド…………」
「! 優君…」

ミカエラが問い掛けてきた内容に優一郎は何か思う所があったのか強く拳を握る。
シノンはそんな彼の様子に気付き、心配そうに眉を下げる。

「あいつは俺やおまえを引き離して、茜や俺たちの家族を殺した…」
「茜……」

茜、という名を以前ミカエラから聞いた事がある。

「だけど、あいつは俺が…」
「銃で頭撃って殺した? でも、吸血鬼は…」
「銃なんかじゃ死なない。ああ、そうだな…。じゃあ奴は生きてるのか…」
「それどころか、優ちゃん。新宿で会ってるよ。僕と再会した時に」

ミカエラの言葉に優一郎は目を見開かせ、ほんとなのかと疑問符を浮かばせながら問う。

「…全然気づかなかったの?」
「いや〜。あん時はおまえが生きてたーーーってのに手一杯で、おまえばっか見てたからさ〜」

ミカエラは苦笑しながら話す優一郎にちょっと困惑した表情を見せる。と、

「! もしかして、あの時の…」
「うん、そうだよシノンちゃん」

シノンは覚えていたらしく、あっ…とすぐに思い出した。
それもそのはずだ。
新宿攻防戦で後退しようとしたタイミングでそのフェリド・バートリーが立ちはだかり、血を吸われかけた。

「私、あの吸血鬼に血を吸われかけて……」

無意識なのか、両手で首に触れる仕草を取る。
当時は片手とはいえ、下手をしたら死ぬ寸前まで締められていた。

「でも、ミカ君があの時助けてくれたから…」
「シノンちゃんを守りたいって思いでいっぱいだったからね…。それに」
「……?」
「今はこうやって君の傍にいられる。だから、何があってもあの時みたいな事は二度と起こさせない」

そう強く告げる彼の眼差しは、シノンだけを捉えている。
すると、鳴海がちょっと待てと声を掛けてきた。

「君らだけで話進めるのやめてくれるかな。なんの話してる?」

その問いを代わりにシノアが答えようとした時、優一郎は皆の顔と真逆の方角に顔を向けていた。
だが、彼だけでなく……。

「……!!」

シノンも優一郎と同じ方向に振り返り、そのまま凝視する。

「シノン、もしかして……」
「うん。聞こえる…」

どうやら、互いに聞こえているようだ。

「どーしたんだ、おまえら?」
「いや」
「さっきから、妙な音がして……」
「妙な音?」

首を傾げながら耳を澄ませる知人に続くように皆も耳に意識を行かせるが、それらしき音が聞こえない。
が、ミカエラにも聞こえたようだ。

「いや、僕にも聞こえる。車の排気音だ」

その瞬間、全員は警戒態勢に入る。

「さっそく帝鬼軍からの追手か!?」
「与一さん!! まっちゃん!!高台から−−−」
「か…確認します!!」
「分かってる…!!」

与一と真音が急いで高台へ向かった時、ミカエラは優一郎に……。

「ねぇ優ちゃん」
「ん?」
「いまのが聞こえるの? おかしいよ。まさか、目が覚めてる時も鬼の侵蝕が進んでるじゃないの?」
「………」

指摘された優一郎は一度手を空に翳し、

「そうかも、感覚が鋭くなってる。前より強くなったかもしれない」
「くそ、やっぱり鬼になっているんだ」
「っ…」

2人の会話を聞いたシノンは、強い不安が過ぎった。
何故、鬼に侵蝕されていないはずの自分まで音が聞こえたのだろうか……。

「つか、シノンも聞こえてたもんな?」
「あ、っ………」

考えていた矢先に話を振られ、同時に答えが分かってしまった。
これまでの戦闘途中での目眩、先程の研ぎ澄まし過ぎている聴覚。
…恐らく、これまで気が付かなかっただけで。
自分も優一郎と同じように鬼に侵蝕されている可能性が高い。

「…シノンちゃ「あ、うっ……。ち、違う!!」
『…!?』

ミカエラが何故か震えているシノンの肩に触れようとした刹那、彼女は拒むようにその手を強く払った。

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