懐かしいクビ 2
「ぐ、うっ…!!」
「知人君……!」
クローリーと交戦する中、これまで見た事がない威力の特殊能力を発動させた反動で地面に膝を付き、全身の痛みに苦しむ知人。
しかし、その一閃は少しは効いたみたいだが…まだ、クローリーは平然と立っている。
「やれやれ、久々に危ないと思ったよ」
「(知人君の特殊能力を受けたのに、擦り傷程度で済むなんて…)」
シノンは密かに息を飲む。
名古屋でも痛感したが、クローリーの強さは最早第十三位とは思えない化け物ぶりだ。
このまま戦い続けても限りなく勝ち目が無い。
しかし、三葉が捕らわれている。
何とかして三葉を救い出し、その場から逃げ出す良い方法は無いか。
戦いながら思考を巡らせるが……
「考え事するなんて、余裕なんだね」
「!? っ、く…!!」
その一振りは、受け止める事すらも困難を極める。
「シノン!!」
「っ! "幻影弾"!!!」
真音はすぐに特殊能力を発動させ、クローリーが避けようと動いたタイミングを計ってシノンの腕を引っ張る。
「真音、ちゃん…っ」
「シノノン、これ以上戦ったらキリが無い。僕が囮になれば「!? それなら、私が……!!」
「ダメだよ。シノノンは優二とミカ坊の為に生きて。…さっきの数の子の特殊能力、きっと限界寸前で発動させたんだと思う。だから、それに耐えられなくなって……」
言葉の途中で、後方で与一に支えられながら辛うじて立っている知人を一瞥する。
「でも、真音ちゃんだって…」
「…僕は大丈夫。体力には自信があるし、頑張って耐えるから」
「……っ」
それでも、大切な親友を置いて逃げたくなんてない。
自分も囮になる。
そう伝えるべく口を開こうとした、その時。
「終わりだクローリー・ユースフォード!! 俺たちはおまえとは戦わない!!」
「! 優君…!?」
優一郎の言葉にそれぞれ驚愕の表情を浮かべ、更に……
「素直に捕まってやる!!」
「だめだ優!!」
「優さん!!」
「何言ってんの、馬鹿優二…!!」
「ゆ、う……」
優一郎の意図を微かに察した知人は、悔しさから弱く握り拳を作る。
「おまえの目的は俺だろ? 《終わりのセラフ》の実験体が目的だ。違うか?」
その問いに対し、クローリーは「僕に目的はないんだけどねぇ」と答える。
「(目的が無い? じゃあ、目的があるのは……)え…?」
クローリーの答えに疑問を感じたシノンがある考えを過ぎらせると、少し遠い所から車のエンジン音が聞こえてきた。
「あ、目的ある奴が来たね」
徐々に音が大きくなったと思ったら、優一郎とミカエラの真横からクラシカルなスポーツカーが現れた。
その車に乗っている人物は……。
「やぁお二人さん。危ない吸血鬼に襲われてると聞いて飛んできたよ。さあ乗って、僕が助けてあげよう」
まるで救世主が来たかのような発言を告げるが、誰も答えようとしない。
そんなフェリドに呆れたクローリーが「投降するってさ」と先程までの出来事を簡素に伝えると、彼は「うそぉん」とワザとらしい驚き方をする。
「君たち、そんなに素直だったっけ?」
優一郎は戸惑いながら「ああ」と肯定し、「利害が一致するなら手を組んでもいい」と続けて話す。
「(何回か会ってはいるけど…。あの吸血鬼、何を考えているのか本当に分からない……)」
シノンはフェリドを睨むように見つめ、いつでも攻撃を仕掛けられるように《雪浅鬼》を力強く握る。
誰が敵で味方なのか分からない現状で、況してや吸血鬼の貴族とあらば警戒態勢を解く訳には行かない。
だが、今は優一郎とのやり取りを見守るしかないのでジッ…と相手の動きを見定める。
シノア達も同じように見守る中、優一郎は機嫌良くトランクを開けるフェリドにある交渉を持ち掛ける。
「だからもっと情報が知りたい。もしもおまえが俺を欲しいなら、目的を教えてくれ。協力しよう」
「協力ねぇ…。じゃあ、僕が君たちにしたことは全部忘れてくれるってことかな?」
その言葉が出た瞬間、優一郎は目を見開かせ、ミカエラはより睨み付ける。
「っ……」
そんな条件を出すなんて卑怯だ。
シノン達は全員同じ事を思った。
「…ああ。必要なら…」
優一郎は怒りを抑えるような低い声色で答えた。
しかし、この後に決して見てはならぬモノを目にしてしまう……。
「この、かわいい茜ちゃんを見ても?」
「…え」
「何、あれ……っ」
トランクから取り出されたのは、かつて優一郎とミカエラの家族であった少女の首が保管されている瓶だった−−−。