黎明のオニヒメ 2






「久し振りね。2人共」
「どうして、ここに…?」

真音は動揺を隠し切れずにいる。
いや、正しくはまだ現実を受け入れていない。
名古屋で別れてしまったはずの依音がまた目の前に現れた。
あの時から彼女に見放されたと思い続けていたからこそ、混乱してしまう。

「どうして……。それは「おまえ、やっぱりグレンを知ってるのか!!」
「「!!」」
「優君!」

口を開きかけた時、優一郎が声を上げた。
フェリドがグレンに関する何らかの情報を言ったのだろうかと思考を巡らせた…次の瞬間!

「あ…ああああ…」
「ゆ…優ちゃん!!?」
「っ!? やめて!!」
「シノン!! フェリド様には考えが「そうだとしても!! 優君に何かしたら私はアイツを許せないっ!!!」

依音に手首を掴まれながらも、一刻も早く優一郎の元へ向かいたい一心で彼女の力に抗い続ける。
宥めるように「ちゃんと治療するから」とワザと告げたフェリドは優一郎の背中に腕を回し、勢い良く注射器を刺した。

「っ…!!!」
「優ちゃん!!!」

ミカエラが先に優一郎の所へ向かい、異常が無いか確かめる。
しかし、注射器を打たれたはずなのに苦しむ様子無く安静に眠っていた。
シノンも一瞬の出来事に戸惑いながら無我夢中で駆け出し、着いたと同時に彼の頭を膝に乗せ涙声で呼び掛ける。

「優君……っ! 優君、優君っ…!!」
「いや〜。優ちゃんったら、かわいい可愛い眠り姫様をいつも泣かしてばかりだね♪」「フェリド・バートリーッ…!!」

フェリドの態度にとうとう怒りの限界を超え、キツく睨み付ける。

「おーっと、折角の可愛らしいお顔が台無しになるよ?」
「優君に、近付くな…!!」

すぐに《雪浅鬼》を手に持ち、威嚇するように刃先を向ける。

「あはっ、そうは行かないんだよな〜。それに、君もそろそろ限界っぽいよね?」
「限、界……?」

唐突の言葉に目を丸くさせ、咄嗟に武器を降ろした。

「シノンちゃんにも何をするつもりだ!!」
「ミカ……君」

ミカエラは瞬時に前に出て、隠すように片手で抱き寄せた。

「おやおや、騎士様がすぐに前に出てきたね。でも、何も知らないんだ」
「何が言いたい…!!」
「まぁまぁ。それにしても、本当に君はあの柊 真昼にソックリだねぇ〜」
「!! 真昼姉さんを、知って……」
「知ってるよ。彼女、よく言ってたんだ。「《終わりのセラフ》さえあれば、シノンを人間に戻せる」って」
『!!?』

シノンだけでなく、その場にいる全員もフェリドの一言に驚愕する。

「人間に、戻せるって……」
「そうだよ、君も優ちゃんと同じだ。…既に人間じゃない」
「…そ、んなっ………」

俄かに信じ難く、況してや相手が相手だ。
もしかしたら騙す為のハッタリの可能性もある…と思考を巡らせる。

「そんなのハッタリだ!!」
「やだな〜、全部事実だよ? 君だって見たでしょ? 異様なまでの冷気と、毛先だけ群青色なのと、刀と短刀を持ってる彼女の姿を」
「っ…!!」

実際に見たあの姿のことまで言われ、反論しようにもできない状況になってしまった。

「っ、え…。どういう、事……?」
「つーまーり、君の中には幕末時代に「黎明姫」と呼ばれていた氷雪を自在に操る鬼・蒼海 綺音(あおみ あやね)の魂が眠っていて、君はその先祖返りになるんだよ」
「嘘……。だって、私の前世は《雪浅鬼》…………」
「違う違う。君の言ってる《雪浅鬼》…白雪紫苑(しらゆき しおん)は本来、柊 真昼の鬼呪装備なんだよ」
「…私が、人間じゃない…のは……」

嫌な予感がするのか段々速くなっていく鼓動を抑えるように胸元に手を置き、震えた声色でもう一度問う。

「君は5歳の時、1度病気で死んだ。でも、蘇生した。「黎明姫」の先祖返りとして覚醒したんだよ」
「………う、そっ」

そんなの嘘だ。
そう言えたらどれだけ良かったのだろう。
確かに、彼の言った通りその頃に重い病気を患い、治ったと確信した時期の記憶が全く無い。
唐突に告げられた真実は心の奥深くを蝕み、次第に涙が伝う。

「人間じゃ、ない……」
「っ、シノンちゃん…」

これまでしてきたことや出会った人達との思い出、感情、…強い恋慕。
全てが無になった気がした。

「…いったい、おまえは何しに来た。茜の首なんか持ってきて…。シノンちゃんのことを全部知ったような口ぶりをして……。おまえは何が目的なんだ」

絶望に打ち拉がれているシノンに代わり、ミカエラはフェリドの目的を訊く。
その際、シノンを抱きしめている腕の力を強める。

「いや。かわいい茜ちゃんの蘇生方法を教えてあげようと思ってさ」

フェリドはミカエラの反応に口角を上げつつ、先程言った蘇生方法の名を明かす。

「その実験の名前は、《終わりのセラフ》。八年前、愚かな人間たちが行った禁忌の呪詛についてだよ」

《終わりのセラフ》ーーー。
シノンは虚ろになっていながらも、何故なのか微かな反応を示した……。

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