刻み込まれたキオク

side:dream heroin 4





「…………」

何処かも分からない檻の中で、あたしはただぼぅっと檻の先だけを見つめていた。

名古屋の決戦から、どれだけの時が経ったのだろうか。
今でも昨日のように思い返せて、悪夢のようなあの惨状まで思い出しては酷く魘され、眠れない夜を何度も迎える。

あたしは、あたし達月鬼ノ組は大きな穴を沢山見落としていた。
柊 暮人の野望を、吸血鬼の貴族との圧倒的な力の差を、…一瀬 グレンの裏切りを。

そのせいで、多くの命が犠牲になった。
マコ以外の鳴海隊の子達も中に含まれていて……。

「…秀作」

真っ先に過るのは、秀作の最期の姿だ。



『ずっと、愛しています。聖璃さん……』



あの時、声は聞こえなかったのに確かにそう言っているのが分かった。
それが最後の会話になってしまった。

「っ……。く、ぅ…あぁあっ」

何であたしなんかが生き残ってしまったの。
秀作も、利香も、弥生も、タロも、あたしよりも生きるべき尊い存在だ。
秀作たちがいないこの世界で生き続けていても何の意味も成さない。
どうして、"死ねなかった"の。

死ねるのなら今すぐにでも死にたい。
何度思ってきたんだろう。
いつから気が付いたのだろうか。
…あたし自身が、異質な存在なのだと。

「…!」

ぼんやりと思案を巡らせつつも、外の扉が開いた音には瞬時に反応できた。
誰が来るの。
まさか、柊 暮人なんじゃ……。
近付いてくる足音とあたしの心拍がリンクするように速まり、

「…聖璃」
「……。何だ、一瀬君じゃない」

予想は見事に外した。
いえ、寧ろこれは喜ばしき再会だ。
何せ、会ったら問い詰めたいと思い続けていた裏切り者が自ら来てくれたのだから。

「一瀬君。アンタ…こんなことして、あたしや深夜様たちをどうするつもりなの? あの場で殺すことができたはずなのに。柊 暮人と裏で繋がってたなんて、心から失望したわ」

秀作を喪ってから次第に精神が弱まっているのは自覚している。
今の姿勢でいられるのは保って数分しかない。
だからこそ、まだこのままでいられる間に真実を突き止めたい。
睨み付けるように一瀬君を見ると、彼は不意に哀しげな表情を浮かべる。

「勝手に言えば良い。事実だしな」
「っ…! じゃあ!! 何で味方まで手に掛けたの!? 秀作たちを、月鬼ノ組を犠牲にしてまでアンタが成し遂げたいことって何なの!!? 答えなさいよっ!!!」
「……」

これまで溜めてきた感情を吐き散らし、もう一度睨む。
今度は、ほんの少しの殺意を忍ばせながら。

「…おまえは、"あの時"を覚えているか?」
「は…? 何が言いたいの? あの時ってどの時を……「9年前のクリスマス」
「っ−−!?」

覚えてるも何も、あの日を忘れたことなんて一日もない。

9年前の12月25日。
愛しいシノンお嬢様の生誕日とクリスマス−−そして、世界が破滅を迎えた日。

あの惨劇を忘れようとする自体、無茶なことと思う。
この目に嫌という程焼き付けた、大切な"家族"の"死"を……。

「……っ」
「途中で意識を失ったとはいえ、おまえも同罪に値するからな」
「何の、ことよ…」

一瀬君が何を言いたいのか、何となくではあるけど理解できた。
けど、彼がその先に何を伝えたいのかまでは分からない。
何が起こるかという恐怖が脳裏に過りつつも、ギリギリの状態で気を保ちながら問う。
そして、返ってきた答えは……

「俺は…。もう一度、死者を蘇らせる」

一瞬、視界が白くぼやけた。
"死者を蘇らせる"。
即ち−−"深夜様たちのように"、秀作たちも黄泉からこの世に引き摺り込むということ……。

「やめて、よ……。そんなことしたって、深夜様たちや秀作たちの為にならないっ!! 何回過ちを犯せば気が済むのよ! 一瀬 グレンッ!!!」

我慢の限界を達し、一瀬君の胸倉を掴む。
今にも殴りそうな状況だというのに何の抵抗も示さない。

「聖璃、もうすぐおまえはここから出られる。……深夜たちもな」
「…どこまで堕ちるつもりなの、アンタは」
「さぁな」

このままコイツを放って置いたら、今度こそシノンお嬢様たちに何をしでかすか……。
なら、答えは一つだ。

「分かったわ…。今は何も聞かないでいるし、黙って付いて行く。それで満足でしょ?」
「話が早いな。流石だな」
「ええ。……」

もし、またあんなことを繰り返すというのなら。
秀作たちが繋いでくれたこの命を犠牲にしてでも、一瀬君の心の底にある野望を阻止する。
きっと、それがあたしに課せられた使命なのだから……。

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