それは、まだ戦場に立って間もない頃だった。
きっと私は天狗になっていたのだろう。
戦忍の父とくノ一の母の元に生まれ育ち、己も身を立て忍と成った。
そうして長くなった鼻をへし折る様に、ある無名の城との戦で私達は、戦いに勝って戦に負けたのだ。

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「忍頭、捕えて参りました」
「ご苦労さま」
高い位置で髪を結った人物に差し出され、利吉はその人間を睨み上げた。
中性的な顔立ちは暗がりも相成って男とも女とも読めた。
忍頭と言われるには、余りにも若い。自分よりいくつか年上なだけのようにも見える。
「下がって良い。人払いも頼んだよ、出来るだけ誰も寄せつけないで」
「はっ」
恭しく頭を垂れて去った部下を目の前の忍は、何処か冷めた目で見遣るのが妙に引っ掛かった。
「さて。山田利吉君」
「私のことは、知っている…と」
「まあね。敵は知っておくに越したことは無い」
艶やかに微笑むその忍は、瞳に赤を帯びたまますっと目の前に降りてきた。
「さて、利吉君」
目の前に顔があるのに、ますます性別を計りかねる。
その顔に何処か覚えがある事を思い出して息を詰めた。
「今から慰み者になってもらおう」
事も無げに告げられた言葉に、利吉は眉を寄せた。
「は?」
「君は戦利品。そういう契約だったから…なんてね」
肩を竦めておどけて見せるのに、目が笑っていない。
「…っ、あなたは…?」
「私?私は辰弥。大丈夫、天井の染みでも数えていてくれたらすぐに終わるから」
床に転がされる。四肢を縛られた状態では満足に抵抗もできない。
「さて、始めようか」
舌舐めずりをする口元が、嫌に淫靡に光った。

身体を蹂躙されるのはどうも慣れない。
忍が術の一つとして習得はしたが、使った事はなかった。
暴かれる菊座に、やんわりとこの人は男なんだと思う。
「っ、殺してやる」
どうにかして相手の気を削ぎたいという思いで零してみた言葉に、辰弥という忍者は酷く嬉しそうに笑ったのだ。
「ならばいつでも、殺しにおいで」
まるで子を諭す様に言いながらも、責める手を緩めない。
「愛は無くても、気持ちよくはなれるよ」
仲間も助けに来ないこの敵の巣窟で毒のような甘露を飲み干すように、耳元で囁かれて堕ちた。

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気を失っていたらしい。
散々吐き散らした欲は幸いなことに綺麗にされた状態で仲間が助け出してくれたと聞いた。
あらゆる情報網を伝って手繰り寄せた『辰弥』という忍。
どうやらあの城はフリー忍者の集団を雇っていたらしい。
今やその集団も散り散りとなり、各地で城仕えではなく、傭兵のような忍としてあらゆる仕事を請け負っているようだ。
ならばと己もその道を歩むと誓う。
そうすれば、きっと辿りつく。
捕らえるべき、相手に。

**

戦場で捕らえられた後に差し出された相手は、息を飲む程に美しい忍だった。
心を折ると言いながら人払いをした忍は辰弥と名乗り、その名目とは裏腹に丁寧に抱いた。
色の事は知っていたが、実際に使うのは初めてだったそこを生娘を扱うように優しく手解かれたのだ。
全身で彼を感じながら、殺してやる、と口を突いて出た物騒な言葉に彼は酷く嬉しそうに笑ったのだ。
最中の表情は何処か痛みを感じているようで、悪ぶった口振りは何かが彼をそうさせていて、心根は優しい人なのだと見上げながらそんな事を考えていた。

過ぎた快楽に気を遣って、気が付けば身体も清められ、衣服も纏った形で人目につかない小屋に寝かされていた。
そこから始まった彼との関係は、未だに鬼ごっこのような形で続いている。
利吉が追いかけ、辰弥が逃げる。
腕の中に納めて尚逃げようとする彼に興味を持ち、酷く惹かれたのだ。

**

再会は町外れの団子屋だった。
呑気に団子を頬張る彼に思わず目を見張った。
「貴方、は」
「君も団子食べに来たの?ここのは中々美味しいよ」
こちらの事を覚えてないのか、茶化す雰囲気でもなくぼんやりと団子に舌鼓を打っている。
仕方なく団子を買って隣に座れば、空を見上げて伸びをひとつ。
「いい天気だね」
「…そうですね」
「もしかして、私を狙いに来た刺客かな?」
こてんと倒された首に息を飲む。あの時の仇敵だと即座に気が付いたのに、彼は覚えがないらしい。
「覚えてないんですか?」
「色んな所で恨みを買ってるからね。まだ殺される訳にはいかないけど、君みたいな男前に殺されるならいいかもしれないな」
遠くを見つめた深紅が愁いを帯びて胸の奥が苦しくなる。
「貴方は、一体何者なんですか」
「分かってるんだろう?懐にクナイ、手裏剣が5枚ほど…君と同じ忍者だよ」
事も無げに告げられた武器の数に眉を寄せる。並大抵の忍ではないのに、彼はあの戦場において雇われの身だった。どこにも所属をしていない忍者なのだ。
「貴方ほどの人が城に属していないなんて」
「城勤めは今はおやすみしてるんだ。もし仕事があればご贔屓に、なんてね」
くすくすと笑みを零す様に、本当にこちらの事を覚えていないのかと肩を落とした。
「差し支え無ければ名前を聞いてもいいかな?」
「…山田利吉です」
ぱちりと紅が瞬かれる。
「…君、本当に私を殺しにきたんじゃないの?」
「思い出して貰えて何よりです」
肩を竦める様子にわざとなのかそうでないのかを測りかねて団子を口にする。なるほど、美味しい。
「殺されたいんですか?」
「君が私より強いならそれもやむ無しだよ。そうは見えないけれどね」
己の未熟さを見抜かれたようで口を噤む。そんな様子を見て、彼は優しく微笑んだ。
「いつでも殺しに来てくれていい。それだけの事をしたからね。君の矜恃を傷付けた、まさかまだ忍を続けているとは思わなかったけれど」
「…なら、貴方を好きなようにしてからでもいいですか?」
思わぬ返答だったのか、彼は目を見開いた。
「うん。いいよ。私は辰弥、よろしくね利吉君」
再度名乗った辰弥という忍は、己の命を奪うと言った相手に対してこの上なく美しい笑顔を向けた。
「さて、私は行くよ。すぐ会うことになりそうだね」
「何故です?」
立ち上がった辰弥を見上げて警戒を露わにする。
「忍術学園にたまにお邪魔することになったからだよ。忍たま相手とくノ一教室で臨時講師をね」
「…は?」
思わず大きく瞬いた。この人が入ることをあの学園が許したというのか。
「だから君にはまだ殺されてあげられない」
「何が目的ですか」
「ただの情報収集だよ。誰かを悪いようにするつもりは無い。けれどそうだな、君の気が晴れないというのなら」
はだけさせた胸元を指で拭うその仕草に目を取られた。白粉でも叩いていたのか、その下には赤い痕が残っている。
「抱かれてあげてもいい」
息を飲んだ。得体の知れないこの男の身体を貪りたい輩がいる事実に、何故か全身の血が沸き立ちそうになる。
立ち上がってその腕を掴む。驚いたように目を見張った彼は、引っ張られるままに大人しくついてきた。
人気のない廃屋でその体を押し倒せば、白い四肢が床に映える。
「…随分性急だね」
「好きなようにしていいんでしょう?」
辰弥はちらりと外を見て肩を竦めた。
「愛が無くても性交は出来るといいましたね」
それはかつて自分を抱いた時に彼が放った言葉だ。
「愛を知らないのなら、私が教えて差し上げます」
「君…自分が何を言ってるのか分かってる?」
殺すと言ったその口で愛を告げているのはわかっている。どちらにせよ、今思えば一目惚れだったのだ。
楽しそうに歪むのに、常に憂いを湛える血の色の瞳に。
着物を散らして手を這わせる。傷はあるが白くて滑らかな肌が吸い付いてくる。
抵抗が無いのをいい事に、魔羅に刺激を与える。
生憎油はない。涎を手に受けて菊門を暴くと、そこはまるで触れた事もない女性のほとの様に見えた。
「悪趣味だね」
「そういう割に準備がいいようで」
「この後色の仕事なんだ。手早く済ませてもらえると有難いんだけど」
悪趣味はどちらの方か。一体何人にこの身体を貪らせたのか。
「辰弥さん、好きです」
言葉と共に中を穿てば、吸い付いてくる肉壺に奥歯を食む。
「っ、なんだ…これ」
悔しくも持っていかれそうになる淫肉に思わず舌を打った。
「さあ?存分に気持ち良くなって」
男根を受け入れ慣れているとでも言うように腰を動かしながら微笑む様はまるで妖姫の類だ。中で精を吐き出して、ずるりと魔羅が抜けた。
「満足した?」
その顎を掴んで口を吸う。漸く拒絶の意を示した彼が胸を押したが、こちらの力には勝てないらしい。
「っ、口吸いは…」
「嫌ですか?」
「僕相手じゃ、ないだろ」
転がり出たかのような本音に、その口を再び塞いで冷めやらぬ熱を穿ち入れると、今までになく彼の背が跳ねた。
「は…ぁ、なに、これ」
萎えていた魔羅も勃ち上がっている。困惑に揺れる紅色が美しい。
「まっ、りきち、くん…っ」
「待ちません」
殺してやる、と告げたのは目の前の男を繋ぎ止める術を探したからだ。恋慕の情熱では動かなさそうなこの人の胸の内まで食らいつきたかった。
戸惑いが快楽に変わり果てていく様子の彼は、その男根から薄い精を勢い無く零すばかりで中で達している事に気が付いた。
「辰弥さん、愛しています」
二度目の精はそんな言葉と共に吐き出した。

「最っ悪だ」
取り繕ったような笑顔ではなく、不機嫌をわかり易く顔に貼り付けて辰弥は息を吐いた。
結局何度もその身体を貪ってしまった事実に苦笑いを浮かべる。利吉が受けた行為をもってしてもお釣りがくる勢いだ。
「すみません、初めてだったもので」
「色男が勿体ない。女の子が引く手数多だろうに」
手馴れたように身体を清める辰弥に首を傾げる。
「あまり興味がなかったので」
「…嘘でしょう…まあ、これでおあいこって事で」
服を着始めた辰弥を見る。利吉が受けた陵辱は高々一回だったと言うのに、その事を咎める頭もないらしいことはその表情から何となく伺えた。
「随分と慣れてるんですね」
「使えるものは何でも使うのが忍者の基本。身体も立派な武器だよ」
事も無げに告げられた事実に胸の内が痛むのは、好いた相手を他人に触らせたくない気持ちがあるからだ。
「辰弥さん」
「なに」
「たまにこうして身体を重ねても?」
苦虫を噛み潰したような顔に、この人はこんな顔もするのだと他人事のように思った。
「絶対嫌だね」



君との日々