手とふたつ二通り


「私ねえ、手が好きなの」

「ふうん?」

自らの手を光に透かして言ったアイコは上機嫌なのに対し、わたしはどうしても喜べなかった。事が終わったベッドの上で、真っ白いシーツの白さを睨む。
わたしも手は好き。でも、わたしが好きなのはアイコの手。白く嫋やかなアイコの手だけ。わたしの手、我ながら綺麗だと思う。強く強く欲している武骨さなんてなくて、女の子らしくしなやかな指と、柔らかな掌。

「私ねえ、胸も好きなの」

「ふうん?」

フフと笑ったアイコが、わたしの胸に自らの胸も押し付ける。むにゅむにゅした感触と、二つの鼓動。
例えばセックスを、ひとつになるなんて馬鹿げた言葉で表す人がいる。そんな表現を認識すると、とても悲しくなる。本当に、セックスでしかひとつになれないのならなんて出来損ないだろうと思うのだ。ううん、そもそもたとえドロドロに溶け合ったとしても本当にはひとつにはなれないんだから、むなしいだけだ。

「ねえミスズ、ひとつになれたらと思う?」

「…思う、思うよ、だってそうすればわたしたち苦しまなくてすんだわ」

「そう」

本当の気持ちだった。わたしの、なにひとつ偽らない気持ち。武骨さがほしい、力強さがほしい。しなやかな指より、柔らかい胸より、受け入れるばかりの性器より、もっと別のものが欲しかった。ふたりとも苦しまなくてすむ形が欲しかった。
アイコは、少しだけ悲しそうに笑う。

「ひとつになれたら素敵ね、でも、でもねミスズ、ひとつになったら、ひとつになってしまったら、私たち愛し合えない、触れ合えない、キスもできない」

「でも、わたしたちは」

「苦しくても、このベッドまでの道のりがどんなに苦しくても、それでも私は、あなたとキスをしたい、こうして」

そう言って、アイコはわたしにキスをした。
幸せな気持ち。いつもと変わらないキスなのに、ひどくドキドキした。

「ねえミスズ」

「なあに、アイコ」

「ミスズが考えてること、なんとなくわかる」

世界が花開く音がする。
優しい優しい、慈愛ばかりの笑顔。
とろける目尻も、嫋やかな手も、白い首も、全てが愛しい。
好きと言って泣いていた映画を思い出す。

「ねえ泣かないでミスズ、私たちが愛し合うのに、手の大きさなんて意味はないのよ」

いつのまにか泣いていたことに気付く。
好きなのに泣くなんて、そう思ってた。どうしようもなくなって、アイコの手をそっと握る。柔らかさも、暖かさも、全部吸い込まれた。キュッと喉がつまる。

「強く握れなくたって、無骨な優しさでなくたって、柔らかく華奢に撫でられればそれでいいの、女の子の手はそうあるべきよ」

ずっと見えていなかった。
アイコの手も、わたしの手も、幸せの形をしている。
このベッドまでの道のりがどんなに苦しくても、それでも、

「ねえアイコ」

「うん?」

「愛してるわ」

そっとキスをした。
好きだからこそ、愛しているからこそ、涙は止まらないの。





(おしまい)

盛り上がりもクソもない




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