現実から仮想現実へ
「今日は、GOD EATER ON-LINE Uをやるんだ……」
フラフラと覚束ない足取りで帰宅した私は着ているものを脱ぎ捨て、ジャージに着替えるとゴソゴソと棚の中を漁ってフェイスマウントディスプレイを取り出した。仕事が忙しくて散々放置していたせいで埃を被っているが拭き取れば問題ない。
クイックルワイパーで埃を取りながら机の上に置かれてスタンバイOKなパソコンに目を向ける。
今までPSP、Vita、Switch、しまいにはアプリも登場しプレイヤー達を楽しませてきたGOD EATER。なんと今年の秋にアプリとは別のオンラインゲームが配信された。それがGOD EATER ON-LINE Uである。(前作はプレイする前にサ終となっており、それを知ったときは悔しさのあまり泣いたし、会社も休んだ。)
GOD EATERの魅力にすっかりやられていた私は第二弾が配信されるという情報をキャッチした私の行動は速かった。即予約、即インストールである。
配信されたばかりのゲーム内容はオリジナルストーリーを既存のキャラ達と進めていくストーリーモードとプレイヤー同士で討伐のみを楽しむ協力討伐モードの二つしかないが、後々運営が頑張って色々実装してくれることを密かに期待するばかりである。その為にも課金は惜しまない。どうせ持っていても使う機会はめったに来ないのだし溜まっていく一方なのだ。
毎週日曜日にしかログイン出来なくて未だにフレンドは一人しかいないがキニシナイ……。どうせ私はソロプレイヤーで周りと合わせるなんて出来ないし…。
埃を取り払り、綺麗になったフェイスマウントディスプレイのケーブルをパソコンに繋げてから椅子に座り、フェイスマウントディスプレイを装着ければ目の前にNowLoading…と繰り返し表示される。
少ししてOKと出たのでコントローラーのボタンを押す。
さぁ、アラガミ討伐と行くか!!
*****
真っ暗な視界の中、中央から光が差し込んでいく。
そして瞬きを一回してみるとそこはもう極東支部(初期)のエントランスだった。
キョロキョロと顔を動かして見てみるが、前回と違うところは見当たらない。
『こんばんは!』
「こんばんはー、ヒバリちゃん」
『お手紙と荷物が届いてますよ』
オペレーターのヒバリちゃんが笑顔で出迎えてくれて、私に手紙と小包を渡してきた。
手紙を開けてみれば一つは明日の午前0時に定期メンテナンスを行うという知らせで軽く見てから捨てた。
もう一つの手紙を開けて内容を読んだ私は驚いて目を見開いた。
「……マイルームシステム、だと?」
簡単に言ってしまえば現在実装されてるゴッドイーター一人と同室になれるというシステムらしい。
これはつまり絆、もしくは好感度的なものを上げられるってやつですか?運営さん??
「え?マ?好きなキャラと同室になれるの?」
「おー、やっぱり驚いてるwww」
「あ、一週間ぶりー、ロキ」
爆笑しながら私に声を掛けてきたのは私の唯一のフレンドの【ロキ】。最初はさん付けで呼んでたんだけど、本人からさん付けは壁を感じるとかで呼び捨てになった。
金髪にサングラスを掛けたチャラ男風なアバターの彼は笑いながら隣に座った。
「クロヱってば週一にしかログインしないからこの知らせ見たら驚くだろうなーってwktkして待機してましたwww」
「いつまで草生やしてんのアンタは」
スパンと手首のスナップを利かせて彼の頭部を叩けば彼はようやく笑うのを止めた。ちなみに【クロヱ】は私のハンドルネームだ。
「あー、笑った笑った。で?クロヱは同室に誰選ぶの?」
「うーん、悩む……」
「ちなみに俺はエリックにした」
「なんでエリックwww」
「下に妹がいる同士、仲良くできそうだと思ってwww」
お互いに草を生やしたあと、同室は後で選ぶことにして私はロキとアラガミ討伐に出ようと思い、隣の彼を誘う。
「とりあえず、仕事のストレスを発散したいのと新しい装備作りたいから討伐に行きたい!」
「え?別にいいけど……すぐには決まんないってやつ?」
「だって好きなキャラ多くて選べないんだよ……」
「分かる」
ウダウダ話しながらヒバリちゃんのいるカウンターまで行き、行けるミッションを二人で物色する。
「ちなみに今欲しい素材とかあんの?」
「うーん、騎士上鎧欲しいかな…」
「蠍かー。俺、あいつの回転突き刺し乱舞嫌い」
「あれはもう足元に潜り込むしかないんじゃない?」
「うーん、言うのは簡単だけど実際にやれるかは別問題だよな」
腕を組みながら渋っていたが他のミッションがどれも難易度のレベルが違いすぎたので結局≪ボルグ・カムラン≫の討伐に出ることにした。
『ではボルグ・カムランの討伐でよろしいですか?』
「はーい」
「お願いします!」
二人仲良く返事をして討伐へと向かった。
*****
ボルグ・カムランが出るというエリアに着いた私達はそれぞれの神機を手にしながら周囲を警戒する。と遠くからギシ、ギシ…と鋼を擦り鳴らす音とズシ、ズシと大地を揺るがす足音が聞こえた。
二人揃って音の聞こえた方を見ると顔を見合わせて頷き、駆ければ教会のような建物の残骸前にいる鋼鉄の甲殻を身に纏った蠍の様な大型のアラガミを見付けた。非常に長い尾と鋭い針、分割式の盾になった腕を持つソイツは間違いなく今回の目標であるボルグ・カムランだった。
存在に気付かれる前に私達はハンドサインを使って会話をし(何故か討伐中は脳内チャットが使いづらく、ハンドサインの方がやりやすいという謎)ばらけてそれぞれの岩陰に隠れながら相手の様子を見つつ、インカムでロキと会話をする。
「いける?」
『こっちはいつでもOK』
「それじゃあ、いつも通り私が特攻かますから援護射撃よろしく」
言いながら飛び出した私は自分の神機、尾刀スズカ(ロングブレード)を構えて走り、地面を強く蹴って跳び上がり私に気付いていないボルグ・カムランの尾に斬りかかった。
背後からの攻撃に驚いたボルグ・カムランはすぐに振り返ると威嚇の咆哮を上げると体を傾けてその長い尾をしならせてきた。
咄嗟にシールドを展開させて攻撃を防ぐが攻撃は通っているようで私のHPが少し削られたが問題ない。
シールドを仕舞いながらスズカでボルグ・カムランの前肢を執拗に斬っていく。
相手もただ斬られているだけというわけでなく、尾をしならせて反撃してくるが私はそれを跳躍して回避する。
「アイテム寄越せやぁぁぁあああ!!!」
『追い剥ぎのそれじゃないですかやだーwww』
私の言動に笑っているロキだが、しっかりと援護はしてくれているようでボルグ・カムランの顔面を集中的に撃ってくれていた。
騎士上鎧、置いてけ!!!
地面を蹴り上げ、神機をプレデターフォームでボルグ・カムランの顔面に噛み付かせた。