2. カールツァイス越しの世界


小学校の後半あたりだっただろうか。私は一般的な日本人とは少し異なった容姿ゆえにいじめられることがしばしばあった。とは言っても、ニュースになるほど大胆なものではなく、本当に些細な、でもじわじわと私の精神を蝕んでいくようなものだった。小学校六年生のころ、段々私も精神的に参りだしていたころ。兄は中学一年生。ここらでは有名な進学校に在籍する兄は、私に帝光中学のパンフレットを投げつけた。いわずもがな、お金持ち校である。うちは片親、それもシングルマザーという世間一般では弱い立場の家庭だったが、公的扶助含め、母は世界を飛び回るキャリアウーマンであったおかげで、大した苦労もなく、むしろサラリーマンの家庭よりも”いい暮らし”というものを営めていると思う。幸せかどうかはおいておくとして、やはりお金があるのとないのとではやはり私たちにかかる支障が違う。

「ここ、受験しなきゃならないところ…」

中学校といえど、公立ではなく私立。受験は免れられない。しかし今はもうすでに十二月の半ば。受験まであと一ヶ月もそこそこではないだろうか。

「あぁ、だが所詮金持ち校。ボンボンなら誰でも行けるようなところだ。受けてみるだけ受けてみろよ。ここの公立はお前の同級生が殆ど行くだろ。」

思わず目をぱちぱち。…気づいていたのか。

「…親にも了承は得てる。好きにしろ。」

私は今の今まで、兄に助けを求めることはしなかった。一度もだ。兄もまだ小学生だったころ、おおよそ妹の悪い噂でも耳にしたのだろうか。いや、なんだかんだ勘の鋭い兄だったから、もしかしたらずっと気づいていたのだろう。

「受けてみるよ、ここ。…あの、ありがとう」

パンフレットを抱え、ソファーに座る兄に近寄る。兄は自分の隣の空間をポンポンと叩き、私に座るように促した。

「礼は受かってからでいい。というか、お前は頭は悪くない。まあ他の事に関してはどうしようもねぇくらい、不器用でバカだが。」

私の頭をわしゃわしゃとかき回し、パンフレットを私の腕からするりと抜き取ると、あるページを指し示した。

「なんてったって有名校だからな、受験者数も相当だろう。…が、ここはスポーツ推薦も結構あるから、正規で受験するのはまぁあまりねぇな。金掛かるし。だからお前の頭でも十分滑り込めるだろう。」
「ん、分かった。明日から勉強する。」
「しゃーねぇ、冬休みは付き合ってやる。死ぬ気でやれ。」
「え、それは、無理。」
「オイ」




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