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2022/12/31(Sat)
両眼視差/
私がタイトルに英語使いがちなのは タイトルに無駄に意味を持たせたくないからみたいなところがあります。
というわけで以下マーベディです。年に一回くらいは書きたくて……。いや今年の内にも人に見せないところでは多分書いてるんだけどとにかく そういうことです。
parallaxview/マーベディ
地に降り立ち、長く伸びる道のひとつに足をつけたとする。それはどこの土地の道でもいい。深い山奥にひっそりと通る獣道だって構わない。ベディヴィエールはきっとどんな路だって踏破しているに違いないのだから。
だがマーリンがそれを行ったとして、ベディヴィエールの歩いた道を辿ったことになるかと問われれば、残念ながら相当怪しいと答えざるを得ない。彼の悠久の旅路がマーリンの眼にちっとも映っていなかったことがその証明だ。既知の人間が隠蔽の魔術も無しにこれだけの年月を千里眼から逃れ続けたとは考えにくい。つまり、彼は人類史の外側を生きて歩いていた。マーリンに干渉可能な総ての道は、彼の旅路によく似た、けれども全く別の道ということだ。
「とはいえ所詮テクスチャ一枚分の違い。誤差みたいなものだとボクは考えるけど」
「貴方はよくその表現を用いますよね。現代知識は聖杯から得た物のみで実感には乏しいのですが、物の手触り、という捉え方で合っていますか?」
「うん、合っているとも。一番しっくりくる言葉なんだ。肌触りは少し違っても内容としては同じという意味合いで」
「私には逆に思えます。肌触りは同じだけれど内容は違う、ではないのですか?」
ベディヴィエールは手元の本に栞紐を挟んで閉じた。マーリンには不意に哲学的な問いかけを投げかけてくることがままあったが、読書の片手間にその相手をするのはベディヴィエールにはまず不可能だった。
頭の片隅で、図書館の本はカルデアの共有財産なので……、と先日司書から釘を刺されてしまったことをちらりと思い出す。それをぼやいたところ「なんと、卿はあの麗しき未亡人、レディ・紫式部からお小言を賜ったと? 羨ましい限りです」とトリスタンに言われたことも連鎖的に思い出してしまったが、そっちは頭から追い出す。
こうも延滞を重ねてはそろそろブラックリストに載ってしまうと懸念しつつ(或いはもう載っているのかも知れない。人気そうな本を借りるのは避けるという配慮を最近は一応行っているが、これが配慮として機能しているかは謎だ)、ベディヴィエールは今日もまたマーリンの無為の話題とやらに乗ってしまう。
例えば賢王と呼ばれるかのギルガメッシュ王であれば、本を読みつつマーリンに返答することもまた可能なのだろう。だが、長生きしただけの凡人を自称するベディヴィエールにそんな技能はない。ちなみにマーリンは『話題の提供者がエルキドゥ辺りならともあれ、王様は私とは軍議や政治課題の話しかしてくれないよ』などと述べている。
「梃子でも動かないからこその本質だろう。キミと汎人類史のキミみたいなものだ。肌触りは違うけれど、内容は同じ」
「成程。貴方は汎人類史の私に触れたことがおありで」
「そんな怖い目で見ないでおくれよ! でも私は立場上何度もキミと顔を合わせているし、感触までは覚えてないけど触ったことも多分あったさ。私よりキミの方がまだよく覚えているんじゃないかい?」
「王やトリスタンのことならともかく、私は貴方のことなんてそんな一々覚えていませんよ?」
「素で言われると流石に傷つくぞぅ!?」
ともあれ、お互いに長く生き過ぎてしまったよね、と何故かどことなく愉し気に言うマーリンに相槌を打ち、ベディヴィエールはそっと記憶を手繰る。
……何となく覚えている気がしてきた。恐らく、以前――と言っても千年以上昔の話だが――マーリンの治療を受けたことはある。少なくとも見たことがある。
そう、彼は重傷を負った兵を天日干しするレンガ石のようにずらりと並べ、端から順繰りに杖を翳していくのだ。やり方に違わず治療の内容も乱雑で「皮は繋いでおいたけど肉は断絶したままだからあまり動かない方がいいよ」やら「零れた内臓は納めておいたけど場所は適当だから、後から誤作動があったらゴメンね☆」なんてどうしようもないアドバイスを後出しして「はっはっは、お礼なんていいとも! それよりも皆早く歩けるようになってまた王に尽くしてくれたまえ!」と笑いながら颯爽と去っていくような代物だった。兵たちからあがっている声は無論感謝ではなく怨嗟のそれで、確かに命は救われているのだが心からの感謝は手向けにくいのが昔から彼らしいといえば彼らしい。
思い出した、文句を言う兵たちをまあまあと宥めたのは、皮は繋がれたけれど肉は断絶したままのベディヴィエールだった。傷の治りはいつもより早かったし炎症にもならなかったが、動くたびに手の届かない場所で筋が擦れたり、ズレたり、自分の内部で虫が蠢いているような疼痛がして吐き気がこみ上げてきたりした。何とも言えず不気味な数日間だった。今となっては単なる思い出話として、怒りよりも笑いがこみ上げてくるけれど。
唇が笑みを形作りそうになるのを堪えてから、ベディヴィエールは改めて口を開く。
「……だとしても私にはやっぱり逆に思えます。例えばカルデアにはたくさんの我が王がいらっしゃって、顔姿は殆ど同じで在らせられますが、中身は一人一人がまるで違います。世界が違うとは、そういうことではないのでしょうか」
マーリンは小さく眉を顰めたように見えた。が、すぐに顔を上げて明るい声を出したので、額を覆い隠す前髪の影がそのように見えただけだったのかも知れない。
「どうせ喩えるならもっと色っぽくして欲しいものだね。ゴムをしてセックスするか生でセックスするかの違いならどうだい? ほぅら、肌触りは違うけど内容は同じだ!」
今度はベディヴィエール顔を顰める番だった。
「それは品がないと言うのですよ。全く、何の話をしていたかを忘れてしまいそうです」
「口を遊ばせているだけの話だよ、忘れてしまって構わないさ。……というかその本、もう一ヵ月近く手元にあるよね? キミは遅読なんだし、私と雑談している暇があるならさっさと読み終えてしまいなさい」
「話を振ってきたのは貴方ですが?」
「乗ってきたのはキミだろう?」
乗らないと拗ねて邪魔してくる癖に、とは言わないでおいた。マーリンもその辺は分かって言っているに違いないのだ。
「その本、ボクも読んだことあるけど中々面白いよね。確か映画が良作で、後から原作も読んだんだった。二つの話が入れ替わりながら進むから、映画から入らないと確かに時間系列を追うのは大変かも知れない。もし映画のアーカイブが図書館にあるなら今度借りてみるといいよ。いや。ボクも久々に観たいし、鑑賞する時は呼んでおくれ。まあ、キミが推しているだろう人物はラスト付近で主人公庇って死ぬんだけど」
「って、どうしてわざわざネタバレするんですか!!」
滔々と話されるがまま素直に聞き入っていたベディヴィエールの怒声にマーリンが高笑いする。
カルデアに居るアーサー王の中身は妖精国のアルトリアを除いてほぼ同一だよ、とは流石のマーリンにも言えなかったのだ。
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