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2024/01/16(Tue)

無題

アスエウの叩き上げ。まじでざっと書いただけだから誤字脱字とかそういうレベルの話じゃないだろうけどもう眠くて何もかも駄目。テセウスくんも上姉様も駄妹たちもみんないる。わちゃわちゃしろ。


光の沼地にいる

 まるで子リスが椚木の樹にまとわりつくのを見るようだった。けれどもそう正直に言えば、気位高いこの女神は眼尻を吊り上げて怒るだろう。テセウスのような英雄にとって、愛らしい女神からの不評は悪辣な化け物からの威嚇よりも遥かに恐ろしい。後者は単に殺してしまえばいいが、前者はそうはいかないからだ。床に額を擦り付けてひたすら赦しを乞うしかない。テセウスが英雄である限りは、そうするしかない。
「あら、勇者様じゃないの。ここには貴方がお好みの化け物なんていないわよ。もっとずぅっとあっちの方に行ってみたらどうかしら?」
 テセウスを見つけるなり、女神ことエウリュアレは甘やかに告げた。しかし彼女が腰を降ろしているのはかつてテセウスが倒した化け物であるミノタウロス……いや、アステリオスの肩先なのだ。カルデアの召喚を受けた女神エウリュアレは何故かアステリオスをとても気に入っている。だから、テセウスは仕方がない話だがとても嫌われている。先の言葉も要するに「どこか遠くに失せろ」と追い払われているのだ。
「てせうす、おはよう。あさごはんはもうたべたか?」
「おはよう、アステリオス。これからだよ」
「きょうは、まるたのやきたてのぱんがおいしい。あまくてふかふかだった」
「教えてくれてありがとう。まだ残っていたら是非頂くよ」
 ゆっくりしたペースで話すアステリオスの言葉はどことなく幼く可愛らしい。しかし彼が別れ際に見せた笑顔の口元には牙が垣間見え、アステリオスが紛れもない化け物であると思い知らせる。殺気立ち掛けたテセウスに気付いたのかどうか分からないが、アステリオスが数歩歩いた先でエウリュアレは振り返り、テセウスに舌を出して見せた。



「あら、勇者様。ご機嫌はいかがかしら」
「……そこそこですね」
「ふふ。良過ぎず悪過ぎないことが平穏への近道ね。良かったら隣にいらして下さらない。私、貴方みたいな人好きよ。――身の程をよく弁えている殿方って素敵だわ」
 ステンノの目映い笑顔はアステリオスの牙なんかよりも遥かに恐ろしかった。カルデアに来るまでは両者を並べて見たことなんてなかったが、神と化け物は畏怖すべき物としては然程違わないものなのだろう。
 女神様のお気に召すまま、テセウスはステンノの隣に座る。花には詳しくないが、彼女からふわりと漂う香は茉莉花だとすぐに分かった。
「私がお気に召すとは、ステンノ様は妹君とは好みが正反対なのですね」
「エウリュアレは私よ。何も違わないわ。ただ、そうね。サーヴァントとしての私達は別物かしら。私は女神に近いまま抽出されたけれど、エウリュアレは少女としての要素が強い気がするわ」
 それはそれでとても可愛らしいのだけれどね、とステンノは優しく笑む。
「確かに、以前お見かけした際はどちらがどちらか分からなかったけれど、今ならお二人の区別は容易につきます」
「あら、それは凄いわね。マスターでさえ、今でもたまに間違えるのよ」
「僕を見て隣に座るように言って下さるのがステンノ様、舌を出して見せるのがエウリュアレ様です」
 ステンノは玉を転がすような声で笑った。一頻り笑ったあとで「エウリュアレも悪気があるわけではないのよ。嫌いにならないであげてね」と付け加える。「勿論です」とテセウスは返した。
 アステリオスが言っていた通り、マルタの焼いたパンは柔らかく、仄かな甘みがあって美味しかった。迷宮では次々に子供を喰らっていた彼だが、本来はテセウスと同じ物を普通に美味しいと感じるような味覚の持ち主だったのだろう。ざくろの種をスプーンで少しずつ掬っているステンノにもパンを勧めてみたが「私は果実しか食べないの。よく覚えておいてね」と素気なく断られてしまった。
「ねぇ、勇者様。私、貴方に一つ質問がしたいのだけれど」
「はい、何なりと」
「寂しい、とは、どういう感じかしら?」
 一瞬、これはこの手の女神にありがちな謎掛けだろうかと疑ったが、それにしてはステンノの顔は真面目だった。今もテセウスの返答を、静かにじっと待っている。
「心細いような、物足りないような、何かが欠けているような心持ちだと存じ上げておりますが」
「あの子……エウリュアレはね、カルデアに来てからたまに寂しいって言うことがあるの」
 私はエウリュアレといつでも一緒なのにどうしてかしら。エウリュアレは私より、あのもふもふした大きな子の方が良いのかしらって、このところ思ってしまうのよ。
 コスモス色の艷やかな髪を指先でもて遊びながらステンノが吐露する。
「……エウリュアレ様はステンノ様なのだと、先程ステンノ様は仰いましたね」
「ええ、そうよ。私達は二柱で一柱なの」
「だとしたら、ステンノ様と一緒にいることはエウリュアレ様にとって一人でいることとあまり変わりがないのではないでしょうか。空気や水のように、無くては生きていけないけれど、寂しさを埋めることは出来ないもの、みたいな存在なのではないでしょうか」
 女神は憂い気にそっと目を伏せた。
「貴方の答え、スマートすぎて気に入らないわ。女神とやり取りするならもっと遊び心を取り入れなきゃ」
「えっ……!? し、失礼致しました」
「では第二問」
「質問は一個だけと仰っておられましたよね?」
「まあ、私に口答えするの? 貴方が?」
 ステンノは非常識な態度に驚いたように目を見開き、表情でもテセウスを非難した。非常識なのは女神の方だが、女神とは得てしてそういうものだ。テセウスは素早く頭を切り替える。カルデアのぬるま湯モードから、ささいな選択ミスが命取りとなり得る英雄モードへ、だ。
「失礼致しました、ステンノ様。どうぞ続けて下さいませ」
「うふふ。流石、私が見込んだ勇者様だわ♪」
 少女のように屈託なく破顔する彼女の顔は、睫毛の一本一本まで心底美しかった。



 本人の気質がどうあれ、アステリオスの性質は生まれながらの悪だ。母親の狂った行為から産まれ、父親からも念入りに棄てられた呪いの子だ。完成されし怪物ミノタウロスではなくアステリオスとして召喚されたから、これで済んでいるに過ぎない。
 故にアステリオスの精神は不安定なところがある。本人もそれを自覚しているから、そういう時は衝動の嵐が鎮まるまで部屋の隅でひたすら蹲る。心配したサーヴァントたちやマスターが来室しても「かかわるな」「ほうっておけ」と言って絶対に動かない。
 その唯一の例外がエウリュアレだった。ただしエウリュアレも近づけば危ないことを弁えている。不用意に近付いて、万一アステリオスがエウリュアレのドレスにちょっとでも裂け目を作ってしまったら、アステリオスは死ぬ程悔いてカルデアを退去しかねないことも。だからエウリュアレは話しかけない。対角線上の部屋の隅で置物のようにただ膝を抱えて目を閉じている。彼が『アステリオス』に戻るまで、一週間でも二週間でも、付かず離れず側にいるのだ。
「えう、おなかすいたね」とのんびりした口調で話すアステリオスに「ええ、食堂へ行きましょう」とにこやかに返し、少女神は魔性の子の肩に乗る。



「……今の話をどう思って、勇者様?」
「え? 良かったです。エウリュアレ様は思ったよりアステリオスのことを分かって下さっているようで」
「馬鹿ね、本題はそこではないわ。肝心なのは私があのもふもふした大きな子に一週間も二週間も付き添っているというところよ」
「そんなに長く放っておかれてはステンノ様がつまらない、ということでしょうか?」
「英雄テセウスともなると私程度の女神の怒りは怖くも何ともないようね。明日もお話したいと思っていたのに残念だわ」
 照明は充分な筈なのに、何故かステンノの顔に暗い影が掛かって見えた。室温も急激に下がった気がする。厨房からは皿が一枚割れる音と「やっちゃったー! ごめんなさーい!」というマルタの元気な謝罪がほぼ同時に聞こえてきた。
「……前言撤回いたします」
「懸命ね」
「ステンノ様とエウリュアレ様は二柱で一柱の女神で在らせられます。そんなお二人が半月も離れているなど、いつかこの世の理が乱れかねません」
 この世の理も何も現在地球はさっぱり真っ白になってしまっているわけだが、これは深く突っ込んだら死ぬ選択肢であるとテセウスの直感が言っている。
「ええ、ええ! 勇者様ならきっとそう言って下さるって、私、信じていたわ!」
ステンノは胸の前で手を組み、まるで祈るようなポーズをテセウスに向けた。名誉なことだがその内容が内容なので複雑だ。
「――で、勇者様はこの由々しき問題をどうやって解決して下さるのかしら?」
「え?」
「あの名高きテセウス様ですもの、きっと既に妙案を閃いているに違いないわ。でも待ってね、私だって謎解きがしてみたいわ。勇者様がどうやってこの問題を解決するか、私だって一晩考えてみたい。いいでしょう?」
「え、あ、はい。……えーと、」
「とても嬉しいわ! 約束よ勇者様、明日の朝になったらここで謎解きの答え合わせをするの。こうして指を絡めてと――――嘘吐いたら、針、千本飲ませるから。それじゃあね♪」
 小さく手を振って、ステンノが席を立つ。テセウスの方はといえば、暫くは動くことすら出来なかった。しかし程なくするとどこからともなく黒いフードを被った赤毛の少女がやってきて「これ、激励の品です」とガーベラを一輪差し出した。
「私達に手伝えることがあれば何でも言って下さい」と頭を下げるフードの少女の背後にはメドゥーサやらゴルゴーンといった化け物が一歩離れて控えていた。ペルセウスはこんな凄い化け物と戦ったのかと舌を巻く。神と化け物の間にはやっぱり大差なんてないようだがそれはそれとして、今は猫の手だって借りたい。
「ありがとう。是非協力してほしい。僕もアルゴノーツの皆を呼んでくる。確かあっちにイアソンが……。イアソン! なんで目があっただけで逃げるんだい!?」


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