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2022/06/04(Sat)

無題

以下、この前の清書。清書しただけで内容は何も変わってないし話が進んでもいない。困った。


ロングホープ・フィリア/ガウェベティ

 ガウェインに限った話ではなく、兄弟たちは皆、母親であるモルガンとは必要最低限の会話しか交わしたことがなかった。オークニーの居城に据えられた黒曜石の玉座。そこにはいつでも父親であるロットが座ったが、この国の真の主はその隣に座る母であるとは、ガウェインたちに限らず城の中の誰もが理解していた。
 自分たちは両親の愛や情欲から産まれ落ちたわけでは無い。魔女である母が抱く何らかの目的の為にこの世に産み落とされたのだ。兄弟たちは次第に嫌でもそう理解していくことになる。
 すぐ下の弟であるアグラヴェインは母をひどく嫌っているようだった。年の離れたガヘリスやガレスは幼さ故に未だ戸惑っている様子が見られた。そうして当のガウェインがどう思っているかといえば――――自分でも、よく分からないのだった。強いて言えば好きでも嫌いでもなかった。ただしそういう感情とは別の部分で、冷たくて、可哀想な人だとは感じていた。

 オークニーはガウェインが産まれるすぐ前まで大国ローマの支配を受けていたのだと、後に大人たちから教わった。四歳になるとガウェインは騎士見習いとしての振る舞いを学んだが、それらも全てローマ式の作法だった。長く支配を受けていたから他のやり方はもう誰も覚えていなかったのだ。ガウェインはそれを別に屈辱だとは思わない。ローマ式の作法は効率的かつ実に美しかったので有難いくらいだった。そう正直に言えば、アグラヴェインからはため息を吐かれてしまうのだが。
 母は冷たかったし父も素っ気なかったが、オークニーの人々は一人残らずガウェインに優しかった。誰もがいつでもガウェインの顔を一目見たがったから、馬に乗って道を往けば「若君がいらっしゃった」と人々は口々に伝え合い、仕事を放り出して駆け寄ってきた。頭を深々と垂れて挨拶して、実りの季節であれば木から捥いだばかりの様々な果実がその場で捧げられた。特に林檎が美味しかった。
 北に位置するにも関わらず、オークニーはとても肥沃な土地だった。ガウェインはこの国が大好きだった。いずれは父の跡を継いでここを治めることになるのだと疑わずにいた。



「久々に顔を見たが、ガウェインは実に逞しく育ったな。嬉しいことだ」
 玉座に深く腰掛けた父はそう言って目元を嬉しそうに緩ませた。母から何をどう言い含められて距離を置いているのかは分からないが、たまに顔を合わせた時、父からはいつも深い愛情を感じることが出来た。今日はガウェインだけでなくアグラヴェイン、ガヘリス、ガレスまで皆が一堂に会しているからとても嬉しいのだろう。こんなことは年に数回しかない。
「有難うございます。これも偏に父上と母上の御威光のお陰です」
 父とはいえ国王の言葉を受けて、ガウェインは深々と頭を下げる。
「――ガウェイン。今日は貴方に重要な下知があったので呼び出しました」
 二人の会話に割り込むかのように、或いは二人が会話することを阻むかのように、モルガンがさっと口を挟んだ。
「ええ、母上。そうだろうと思っておりました。して、どのようなご用命でしょう」
「話が早くて助かります。では――ガウェイン。貴方はこれより、ウェールズのアーサー王の傘下に入りなさい」
 だから今日は全員がここに集められたのかと腑に落ちる思いだった。母はいつも父の後に喋るが、その内容は父の言葉よりずっとずっと重大だ。
 下知されたガウェインより先に、傍らのガレスが口を開いた。
「母上、ウェールズのアーサー王とはどなたでしょうか? ガレスには聞き覚えがありません」
「アーサーは私の弟です。今はまだ王ではありませんが、いずれそうなりましょう」
 ガウェインは思わず目を見開いた。そんな話は初めて聞いた。
「えええええっ!? 母上には弟君がいらっしゃったのですか!?」
 ガレスも同じだったようで驚きの声をあげたが、母はそれには沈黙した。返答の必要がないと判じたのだろう。視界の隅でガレスがしょんぼりと肩を落とすのが見える。
「……弟君がこれから成すことの手伝いをせよ、ということですね」
「その通りです」
「承知致しました。このガウェイン、母上の弟君の為に全力を尽くしましょう。きっと良い報せを持ち帰ります」
「――帰らずとも構わぬ」
 池に小石でも投げ込むかのようにぞんざいに母は言ったが、対するガウェインは頭を殴られたような衝撃を受けた。
「私は、このガウェインは、父上と母上の嫡子です。いずれはここ、オークニー国を治めるものだと考えておりましたが……」
「行けば分かる。明日にでもここを発て。その後はお前の思うままに行動せよ」
 温度を感じさせない声で告げると、母は気まぐれな猫のようにすっと席を立ってしまった。

 モルガン様は占いを得意とすると皆は噂していたが、ガウェインには母は未来を見通しているように感じられることが多々あった。そんな母が「ガウェインはオークニーを治める器ではない」と判断したのであれば、未来の一切が断たれたのに等しかった。自分は、母から見捨てられたのだ。
 父の計らいで、旅立つガウェインにはたくさんの荷物が与えられたが、ガウェインは最低限のもの以外は返してしまった。オークニーに不要とされた自分が、こんなにもたくさんのものを持ち出すわけにはいかないと感じた。

 単騎の道だ。三日に一度は盗賊や言葉すら通じない輩に襲われたが、夜中であっても難なく返り討ちにした。そうして自分の強さを実感する内に自信を取り戻した。アーサー王が叔父であるなら、繋がりが完全に断たれたわけではないだろう。そう思い直して顔を上げる。とにかく今は、やれるだけのことをやるしかない。


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