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(爆豪)(未来捏造)(恋人設定)





「貴方って本当につまらない」

「あぁ?」


 目の前の彼にそう言うと、低い声をあげて私を睨み付ける。ああ、やはり予想通り。
 帰り道、仕事終わりはどうしても夜が遅くなってしまう私を心配して家まで一緒に歩いて送ってくれる彼を見つめる。

 ……本当に、つまらない。


「分かり易すぎるの。だから……」

「……?」


 一呼吸おいたあと、私は彼の目を見つめる。この目が、私は好きだった。まっすぐと見てくれる、この目が。


「別れてください」


 そう言うと、彼の目はより一層大きく開き、手に持っていた私の鞄を落とした。
 鞄が汚れちゃうな、と思ってしまった私は、本当に退屈になってしまったのだろう。

 彼は少し間を置いた後、普段の強気な口調ではなく、似つかわしくない音色でなんでだ、と言った。
 それを聞いた私は浅くため息をついた。それを見た彼の瞳は揺れながらも私の答えを待っていた。


「……さっきも言ったでしょう?つまらない、って。……それが答えです」


「……っ!!」


 彼も、いずれこうなることは分かっていたはずなのに。何で、そんなに過剰反応をするのだろうか。
 私は俯いて動かない彼を見ながら、告白の時を思い出す。


「俺と付き合ってください」


 そう言ってきた彼は、当時の私からしてみれば驚きでしかなかった。ヒーローとして名を馳せる彼が、別の学科だった私に告白をしてきたのだ。話したのも、数回程度だったのに。
 ……しかし、相手が良くなかった。私は、彼が好きだから付き合ったわけでは、なかった。


「……私を、退屈にさせないでくれますか…?……もし、私が退屈になったら、別れて下さい」


 その返事に、当然だと答えてくれた。だから私は、彼と付き合った。
 私は誰よりも何よりも、面白くて、非日常が大好きだった。普通なんて嫌だった。大した個性でもない私はそんな気持ちが強かった。

 最初の頃はとても幸せだった。彼の恋人ということで色々な人と出会えたし、陰湿なことも受けられた。しかし、私からしてみればそれはとても幸せなことだった。普通に暮らしていて、味わうことのできない出来事
 彼の反応も、何もかもが新鮮で、楽しかった。


 ……だけど、最近となってはどうだろうか。私が勝己の恋人なのは周知の事実。彼はヒーローとして忙しくなり、二人の時間も減った。それは仕方ないが、最近の彼は本当につまらなくなってしまった。
 会っても変わらない会話。変わらない反応。変化も起こらず、一年経った。付き合ってからなら、もう3年以上は経つのではないだろうか。学生服を纏っていた私はスーツを見に纏っている。彼もプロヒーローとして活動している。


「……言いましたよね。退屈にさせない、と。……でも、もう退屈になってしまった」


 自分でもこんなにも容易く別れ話を持ち出せるとは思っていなかった。彼が好きだという気持ちは無いと言えば嘘になるが、それ以上に退屈というものが私にとって耐えられないものだった。それだけの話


「だから、別れて欲しいの」


 再び意思を伝え返事を待つ。彼は俯いたままで表情が見えなかったので、そのまま視線を落とし鞄を見つめる。ああ、そういえばこの鞄も誕生日に彼から貰ったものだった。


「………だ」

「…?」

「無理だ」


 顔を上げた彼の表情はいつにもなく真剣で、辛そうだった。他人からしてみれば怒っているようにしか見えないかもしれないが、私には自然とどんな感情が含まれているのかわかってしまった。
否定されてしまったことに驚きを隠せず聞き返す


「どうして」

「………あー!クソ!!」


 隠しきれないイラつきと共に自身の髪を乱雑に掻き、大きく息を吐いた。大抵こういう時の彼はなにかを隠していたり、素直に言葉にできなかった時自身に対しての苛つきなので特に怯えず次の言葉を待つ。

 もしかしたら彼から別れ話を言おうとしていたのかな、なんて見当違いと分かっていながらも考えていると、急に視界が暗くなった。
ただでさえ夜道で暗かった視界は目の前に壁ができたかのようで、身体には何か暖かい感触がある。ようやく私は彼に抱き締められているのだと気がついた


「かつ、き?」

「……ごめん」


 まさか謝罪の言葉が出てくるとは思わず身を固くする。ああ、もしかして浮気をしていたとでも話を出すのだろうか。ここ最近会える回数も減ってどこか余所余所しいと思っていたのだ。
改めて考えるとじわりと目が熱くなる。ああ、退屈なのが耐えられないと思っていた私は、それと同じくらい彼が好きで好きで堪らなくなっていたのだろう。自分から別れ話を振っておいて泣くだなんて意味がわからない。そんな自嘲をしながら目に涙を溜めた。

 少し体を離してお互いの顔を至近距離で見つめる。目に涙が溜まっている私を見て彼は少し驚いたのか眉を潜め、拭ってくれた。
それからゆっくりと口を動かし始めた。


「……なまえ、最近時間が取れてなかったし、お前に対して何かしてやることもできてなかった」

「……うん」

「俺は、……もう絶対にお前を退屈になんかさせねぇ。…好きだ、これから先も俺の側にいてくれ。」


 手を差し出されたと思えば、その中には一際目立つ指輪が箱の中で輝いていた。


「仕事の合間で指輪を色々と探した。それで、余計お前との時間が取れなかった」


 彼は言い訳のようでみっともねぇよな、と言葉を続け困ったように笑った。
私は発せられた言葉を一つ一つ処理していくのに精一杯で、何が何だか訳がわからず、ただ夜だというのに輝いて見える指輪を見つめ続けていた。

 いま、彼はなんと言った?先程まで別れ話を出していた私に断りを入れ、そのままプロポーズをしたというのだろうか。私が今まで一緒にいてもどこか余所余所しいな、と感じていたのは指輪を考えていた彼にとって少し気まずい……というより彼は小恥ずかしい気持ちだったからだ、というのか。時間が取れなかったのもそれが相まっていて、退屈をさせているとわかっていた彼はこうして私の仕事終わりの時間を疲れた体で送ってくれていた。

 なんて思い違いをしていたのだろうか。私は、普通なんて日々を送ってなどいなかった。こうも、想ってくれている人がいた。

 じわりと視界が歪み、顔も歪み始めると再び視界が何かに遮られた。きらりと赤い点がこちらを見つめ、口内に暖かなものが入った。それは幾度か経験したもので、混乱した頭をより一層乱す要因に変わりなかった
勝己にキスをされていると認識できたのはそれから数分してからで、溢れてしまった涙を舐めとられてしまった時だった。


「返事は」


 ぶっきらぼうな口調で少し睨みながら私の言葉を待つ彼を見て私はこの気持ちこそ退屈になんかならない要因の一つだったのだと気がついた


「はい」


 溢れてしまったのは涙だけでなく、この気持ちも同じだった。彼は満足そうに笑うと私の頭を乱雑に撫で、私の鞄を拾った。そういえば鞄を落とされていたな。すっかり忘れてしまっていた鞄に視線を落とすと、彼の反対側の手がこちらに向けられていた。
不思議に思いその手を見つめると、痺れを切らしたのか強引に私の手を引っ張り指を絡ませ歩き出した。

 ああ、手を繋いで帰りたかったのか。
 

「ふふ」

「んだよ」

「んー……ごめんね。大好き」

「なっ…!」


 やっぱり、彼といて退屈にならない。
思い違いも、私のこの感情も、全て全て私を満たす要因だった。こんな私に変わらず寄り添ってくれた彼は今さっきこそ無理やり引っ張って歩き出したが、歩幅を合わせて歩いてくれている。見上げれば少し耳を赤くして不機嫌そうな顔を浮かべていた。

 明日は休みなんだよ、と伝えれば、知ってる。俺もだ。と返ってきた。きっと、今日は泊まっていくんだろうな。

 予想できても、つまらないと思わなくなった。きっと本当につまらなかったのは




ーつまらない人ー
  私自身



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