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(不二周助)(キャッチボールの続きのお話)


「周助!」
「ん…どうしたの?」


 結婚した僕は新居に住むため実家の荷物整理を妻と行なっている。懐かしいものばかり出てきて、妻も僕もなかなか進まないのが難点だ

「この…一緒に写ってる人って彼女だった人?」
「………ああ…」

 一枚の写真が古くなったノートから出てきた。それを見ると、当時の彼女と僕が二人でデートした際に撮ってもらった写真だった
懐かしい彼女の姿を見てとてもじゃないが今口に出せない気持ちになってしまった自分に驚く

「……周助?」
「………ああ、写真はあそこに全部まとめて置いておいてくれる?」
「うん」

 その写真をまだ見ていたい。そう思った僕は妻に見えないようにケースに仕舞い込みポケットへ押し込んだ



「…なまえ」


 片付けの大半終わり、再び写真を手にする。
とても嬉しそうな表情で写っている彼女を指でなぞる。隣に写っている自分も、わかりやすいくらい嬉しそう…というより幸せそうな表情をしている。つい口元が緩むが、同時に涙腺も刺激されそうになり硬く口を合わせた

 もう、彼女はいない

 彼女が言った「幸せになって」と。
僕は別の人と結婚し、新居に住む。もちろん幸せだ。なまえよりも、愛していると思う。なまえが死んだ当初は他の人なんてあり得ないだろう、と考えていた。しかし生きていると色々とあるものだと実感させられた
もう一度じっくりと写真を見る。久々に彼女を見て思ったのは、「愛している、そして、大好きだ」という感情。

「愛おしい」

そう思った。

 しかし、その気持ちはどこへ向けても返ってくるはずもなく、虚しいだけだった

 そういえば最近、忙しくてあまりお墓参りに行けていなかったな。報告も兼ねて、近々行こう。なまえは…喜んでくれる。そんな確信があった

「なまえ、愛していたよ。…愛してるよ。」

 現在だろうが、過去だろうが、それは何も変わらない。

 彼女がどう思っているか、あの時の返事はどうだったのか。それは僕に届くことはなくて、それはあの時の僕にとっても同じことだった


ー返らないボールー

届かない気持ちと共に





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