01
 はよ! 短い挨拶が聞こえて振り向くと、ベタな漫画の登校風景みたいに食パン(イチゴジャムを塗った)をくわえるなまえが居た。こいつよくそんなベタすぎる登場が出来るな。よく校門の生徒指導のクザンに引っかからずにここまで来られたな。いや、クザンが相手だからか。今日もいつも通り校門で立ったままアイマスクして寝てやがる。生徒は素通りだ。あいつあれでも教師か。

「…はよ」
「ローふぁひょうほへんひょんひういふぁー」
「食うか喋るかどっちかにしろ」
「……っと、ローは今日もテンション低いなーって」

 小さく喉を鳴らしながら口に含んでいたパンを飲み込み、さっき言おうとしていたらしい事を言い直すなまえ。別にもうこんな会話も慣れたもんで、さっきのモゴモゴした話し方でも聞き取れるようになっている。…が、女としてそれはどうなんだ、と一応思うので毎回注意はしておいてやっている。

「そりゃテンション低くもなるだろ」
「何でよ」
「お前が隣の席だからだ」
「酷い酷すぎる」

 そう、昨日の席替えでこいつが俺の隣の席になった。せっかく窓側の一番後ろという最高の席を勝ち取ったのに、こいつが隣なおかげで休み時間の度に代わる代わる男も女も色んな奴が寄ってきて煩いのだ。昼寝のひとつも出来やしねェ。しかもこいつの反対隣は、

「あーーー!!!なまえ!!お前朝から何うまそうなもん食ってんだ!?ずりィぞ!何パンだ!」

 …麦わら屋ときた。

「んールフィおはよ、今日はイチゴジャム塗っただけだよー」
「ジャムか!いいな!おれ今日エースに置いてかれた上に遅刻しそうだったから朝メシ食い損ねた」
「え、じゃあ食べる?」

 席に着きながらなまえがスクールバッグの中をごそごそと漁り、袋ごと持参の食パンと、2〜3種類のジャムとマーガリンを取り出すのを見て、おれは思わず頭を抱える。麦わら屋はそれを見て涎を垂らしながら目を輝かせ、近くに居た奴らが寄ってきた。

「なまえ、このパンもらっていいのか!?」
「いーよ、でももう1枚だけ私にちょうだい。あとは食べていーよ」
「やった!ありがとななまえ!」
「呆れた…なまえ、あなた袋ごと持ってきたの?」
「普通ジャム持参するか?」
「ナミ、ウソップ!おはよ!いやー朝急いでてさー」

 周りの人口密度が上がるにつれてどんどんおれの眉間に増えていくシワを見ながら、たった今おれの前の席に着いたペンギンがナミ達に挨拶をしておれのほうへ振り向く。ペンギンは苦笑いをしながら自身の眉間をトントンと指し、シワが酷く寄ってるぞと小声で言ってくる。当然だ。朝からこんなに隣で煩くされては堪らない。

「…また随分と機嫌が悪いな」
「…どこがだ。いつも通りだ」
「なに、ロー機嫌悪いの?お腹すいたの?パン1枚あげようか」
「(ぷち)」
「やだ今何か切れる音がした」
「…なまえ、黙っとけ」
「ペンギンが言うなら黙る」

 差し出してきたパンをおとなしく袋に収め、なまえは向こうへ向き直り、今度はプリンを食べ始めた。こいつはペンギンの言う事は比較的よく聞く。デザートまで持って来てんのかよ、ずりーぞ!と麦わら屋に言われながらもプリンを幸せそうに食べている。ちなみにとっくにチャイムは鳴り終わり、今教壇には額に青筋を浮かべたスモーカーが立っている。その目は紛れもなくおれの隣のこいつらを睨んでいる。

「おい…このおれがもうここに立ってるってのに悠々と食事とは…てめェら良い度胸だな…」
「ほらルフィ怒られてるよ。もう。SHR中に朝ご飯だなんて良い度胸だな、だってさ。家で食べられるように余裕持って起きなさいよ、ダメじゃないルフィ」
「えっおれ?」
「……お前ら2人ともだ!!なまえ、ルフィ!!!!!」


偉そうに間違いを教えない


 ぱくぱくとプリンを口に運びながら注意するなまえと、もぐもぐとパンを食べながら意外そうな顔で驚く麦わら屋が、スモーカーから拳骨を食らったのは言うまでもない。まったくプリンなんか食いながらよく自分を棚に上げて麦わら屋を注意できたもんだ。今日からこんな席で生活していくのかと考えたら、思わず溜息が出た。


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