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「突然ですが今日の放課後裏山で肝試し大会をしまァす」
「突然すぎます」
「全員参加じゃ!点呼とるぞちゃんと!」
「それおれは帰ってもいいですか」
「何言っとるんじゃクザン!教師も点呼とるぞ!」
「えー。暗くなってからなんて特に女の子を山に入れるなんて危ないんじゃないの…まったくもー…」
「大丈夫じゃ安心せい!わしが用意する!」
「安心要素どこだ…」

 朝礼で急に言い渡されたガープ校長の思いつき。最前列で麦わらが喜んでいる(普通最前列ってのは学級委員が並ぶはずなんだが、麦わらが「前に出たヤツの勝ちなんだろ!おれの勝ちだ!」とか訳のわからん事を言って前に出た)。(つーかこのクラスの学級委員とか誰だよ)校長の思いつきの話が終わって教室に戻る途中、ふと隣を見ると、なまえが震えていた。なんだ、まさか怖ェのか。意外に可愛いところがあるじゃねェか。

「…まさか怖ェのか」
「まままっままままぁっさかぁあ!!キッドったら!!もう!そんな!わけ!ないじゃない!!」
「いて!痛ェって!叩くな!」

 冷や汗ダラダラでおれの背中をバシバシと叩く。こりゃ確実に怖がっているとみた。しかし肝試しやお化け屋敷でこんなに怖がるモンだろうか。女がこういうので怖がる時ってもっとこう、キャーやだーこわーいとかそういうノリなんじゃねェのか。さらになまえの横を見ると、怖がるなまえを見て明らかに嫌な笑みを浮かべているトラファルガーが視界に入った。こいつ今ろくな事を考えてねェな。眉を顰めていると、トラファルガーがこっちを見て盛大に舌打ちをしやがった。野郎、あとで絶対にシメる。

「…何がそんなに怖ェんだ」
「ルフィの…おじいちゃん…」
「…は?」
「おじいちゃんが用意する肝試しなんて絶対普通じゃない、しかも学校の裏山使うだなんて…何があるかわからない…サバイバルの準備でもした方がいいの…?」
「…」

 普段どんな爺さんなんだ、ガープってのは…。

「よっ、なまえ!なんだ、今から肝試し怖がってんのか?」
「エース先輩」
「お!お前でかいな。なまえのクラスメイトか?」
「あ?…あァ、まあ」
「ならウチのルフィも世話になってるな。ほんと手のかかるヤツで面倒かけるだろうが弟をよろしく。なまえもな。妹みてェなもんだ」
「…(麦わらの兄貴か)」

 なまえと楽しそうに話しているエースとかいうこの男を、教室に着くまで観察してみる。なるほど、話し方からも兄貴分というのは確からしい。なまえは怖いの苦手だけどジジイの事はもっと怖がるよな、とエース。そういや授業中にガープが教室に来てなまえの追試を叱っていた時も、物凄いビビり方だったな。こいつの弱点は怖い物とガープか。よくわかった。

「エース先輩楽しそうだね…」
「まァな。みんなで何かやんのは楽しいだろ?」
「それは楽しみ!でもおじいちゃんだよ…何するかわからないよ…」
「…ケガ、すんなよ」
「急に真剣な顔でそんなセリフ言わないで!」
「はは、冗談だって。第一そっちにはルフィ達が居るんだ、怖がる暇なく終わるんじゃねェか?」

 じゃー戻るわ、と軽く手を振ったエースは、少し離れたところで待っていたすげェ頭のヤツら(なまえに聞いたら、マルコとサッチという2年生らしい)と合流して去っていった。

「マルコ先輩とサッチ先輩もいい人だよ」
「へー」
「エース先輩はフルネームはポートガス・D・エースっていうの」

 …ポートガス、一応覚えておくか。


ー−−−−


 授業を終えて放課後。時間が過ぎるにつれて顔色を悪くしていくなまえは、周りのヤツらに心配されながら裏山まで来た。点呼をとられ、適当にクラスごとに集まる。ジャージ着用で集められた生徒達はみんな、どんな肝試しになるのかと楽しみにしているように見えた。急に決まったのに順応力高ェな…。

「なまえ!大丈夫だおれ達がついてるぞ!」
「うん…ルフィ…すっごい不安だから遠慮しておくね…」
「えー!!」
「おれがついてってやろうか」
「ローは途中で私の事置いていきそうだから遠慮するわ…」
「チッ」
「ウチと行こうぜなまえ!ナミも一緒だぞ」
「ほら、こっち来なさい」
「なんて心強いメンバーなの…ぜひご一緒させてください」

 全員出席する事、と言われていたから来ただけで、元から参加する気の無いおれは、近くにあった木にもたれてクラスのヤツらを見ていた。トラファルガーめ、やっぱりろくな事を考えてなかったな…。なまえはジュエリー・ボニーやナミと一緒ならば大丈夫だろう。麦わらは…まあ予想通りだ。向こうの方に見えるポートガスも、今朝見たメンバーの3人らしい(きっとポートガスを肝試しに誘って断られたのだろう女子が、何人か残念そうに離れていった)。ちらりとなまえに目を向けたポートガスは、3人揃ってなまえの方へ向かっていった。

「大丈夫そうだな、なまえ」
「先輩!いつものメンバーで行くの?」
「おう、こいつらとなー」
「まったくむさ苦しいよい、なまえもこっち来ねェかい」
「私はボニーとナミとデートなんで」
「おーおーいいなァ、サッチお兄さんも混ぜてくれよ」
「可愛い女の子に生まれ変わってから出直してください」
「なまえちゃん…おれも傷つくんだよ?硝子のハートなんだよ?」
「お前は何かとなまえに絡むのやめろよい」
「痛ェ!マルコだって絡むのに!」
「お前のは鬱陶しいんだよい」

 マルコがサッチの頭を叩く…というより殴った。それを腹抱えて笑ってるポートガス。あそこもあそこで兄弟みてェな仲なんだろうか、見てる分にも居心地がいいような気がする(おれは一人で何を考えているんだ)。

「肝試しだな」
「そうだな」
「お前が行くならおれも行くが」
「…気が向いたらな。面倒くせェ」
「違いない」

 キラーがやってきておれの隣の木に背を預けた。おれがあの和の中に入る気など無い事を知っているこいつは、真っ直ぐにこっちへ来た。肝試しに参加する気なんて更々無かったが、気が向いたら…どうしようもなく手持ち無沙汰で尚且つ気が向いたら、参加してやってもいいと思った。

「…ところでよ」
「ん?」
「あいつ、どうした」
「……ああ、なまえか」

 ちょっと目を離している間になまえが泣き崩れていて、周りがドンマイ、と静かに慰めている。この短時間で一体何があった。キラーと一緒に立ち上がり、麦わら達に声をかける。

「おい、麦わら」
「おー、キッド!どうした?」
「なまえはどうしたんだ」
「ああ、じいちゃんが急に、人手が足りないからクジ引きじゃ!とか言って棒持ってきてなー。最初に引いたなまえがアタリ引いたんだ。おれもアタリがよかったなー」
「馬鹿、ありゃハズレだ」
「ん?そうなのか?ゾロ」
「なまえが引いた棒に赤いマークがついてたろ。アレ引いたヤツがガープの手伝いするんだ」
「げ!じいちゃんの手伝い!?じゃあなまえは肝試し出来ねェのか!?」
「たぶんなまえは、脅かす側をやらされるんだろ」

 ああ、なるほど。肝試しは参加しなくても良くなったが、脅かす側になってガープを手伝わなきゃならねェってのか。…なまえにとっては肝試しに参加するより恐ろしい事なんじゃねェのか?暗い中で、参加者が通りかかるまでじっとしてなきゃならねェって事だろ。ガープ主催の学校行事じゃ逃げる事も出来ない。

「あー…なまえ」
「………ッ…、…」
「(声ちっさ!たぶんキッドって呼ばれたんだよな、たぶん)…が、頑張れよ」
「……うん…」

 ガープは、ほらほら行くぞ張り切って準備じゃ!!と、なまえとその他数名(あれもクジ引きの被害者か)を俵担ぎにして連行。日が沈み始めてオレンジがかった空の下、なまえは「あああぁあ」という叫びを残して山の中へと消えていった。その場に残った生徒・教師全員が、心の中で合掌していた。


肝試しで一番肝を試されてるのはお化け役だよ


「なあキッド、なまえ、泣いてたな」
「あァ」
「なまえがじいぢゃんにこき使われだらどうじよう…!」
「なんでテメェが泣くんだよ!泣くな面倒くせェ!」


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