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 校長の思いつきの肝試し大会も(一応)成功に終わり、今日もまた授業。今日は朝からあのクラス。あの子逃げずにちゃんと席についているのかしら、ヒナ心配。もう追試は決まっているのだし追試料金も貰っているからこれ以上サボったところで正直変わりはないのだけれど、教師としてはやはり自分の授業は真剣に受けてもらいたいものよ。今日も逃げようとしていたら…どうやって捕まえてあげようかしら。あの後も結局何度かは授業に出るようになったものの、残りの授業は逃げられてしまっている。中間テストも近いっていうのに、仕方のない子だわ。

「授業始めるわよ、さっさと席につきなさい」
「先生大変です、なまえが」
「…なあに、やっぱりサボったの?ヒナ立腹」
「違うんです、なまえが、居ます」
「……あら」

 確かに、教室を見渡してみると空席は1つもない(机に足を乗せたりしている行儀の悪いのも居るけれど、まあこのクラスだから出席しているだけ良しとするわ)。しっかりとなまえも椅子に座っている。髪をかきあげてなまえの席の前に立つ。

「珍しい事もあるのね、なまえがきちんと座っているわ。このわたくしの授業で」
「私もこれ以上授業からは逃げられても追試からは逃げられないと気づいてしまったのです…先生…」
「そう。あなたにしては賢明ね。スモーカー君が喜ぶわよ」
「…はは…ははは…」
「テスト前の仕上げに入るからちゃんとついてきなさいね」
「はい…」

 わたくしから目線をそらしながらもきちんと返事をした事に、逃げる意志は無いと判断して頷く。すでになまえが魂が抜けたような顔をしているけれど関係ないわ。さて、全員揃っての授業がようやく出来るわね。

「教科書と問題集を開いて。前回の続きから当てるわよ」
「せんせー!それじゃおれから当たっちゃいます!困ります!」
「私は困らないわ。問3の(1)はモンキー・D・ルフィ、あなたね。(2)はなまえ、あなた前回居なかったから分からないでしょうけど。分かる人に聞きなさい」
「えー!こんな難しいのわっかんねー!」
「突然そんな殺生な」
「いいから解きなさい、テストに出すわよ」

 シャーペンを持ったままなまえもルフィも机に突っ伏す。あっさり戦意喪失のようね、ヒナ失望。その後も席順に問題を解く生徒を割り振っていく。当たった生徒が急いで問題を解き始める中、なまえはのろのろと頭を上げて隣の席のトラファルガーに頭を下げた。何をやっているのかしらあの子は。

「ロー様お願いします」
「…何だ…敬称付けんな気持ち悪ィな…」
「この問題をわたくしめに教えてください」

 …そういえばトラファルガーは数学も得意だった。なるほど、彼に教えてもらえれば追試のテストにも少しは希望が持てるかもしれないわね。

「あなたが教えてあげてくれるならわたくしも助かるわ。わたくしはなまえにばかり付きっきりでは居られないの。なまえに教えてあげなさい」
「………はぁ」
「溜息…ローさん溜息…」
「そりゃ溜息も出る。お前に教えるのは骨が折れる」
「うっ」

 小さく背中を丸めるなまえに、溜息をつきながらも「どこが分からねェんだ」と聞いているトラファルガー。なまえが控えめな声で「全部…」と言った事は少し引っかかるけれど。何が分からないのかも分からないという状態らしい。なまえの横で、おれも!おれもだ!と声を上げるルフィ。この子達本当に大丈夫なのかしら。軽い頭痛と目眩がしたけれど、なまえ達の事はトラファルガーに任せて他の生徒を見る事にする。

「……とりあえず分からないなりに自分で解いてみようという気はねェのか」
「ねェ!!」
「…お前には聞いてねェ。なまえに聞いてる」
「うぐ……やってみます…」
「そうしろ」

 トラファルガーに任せてたった数秒で大きな溜息が聞こえてくる。振り向いてみると、まずは自力で解かせているらしい。ルフィはもうすでにペンをくるくると回して遊び始めている。なまえは…全部分からないと言ったわりにはちゃんとペンが動いているじゃないの。この分なら大丈夫そうかしら、と思った直後。

「できました…」
「見せてみろ」
「はい…」
「………………なんだ、これは」
「なんだと言いますと…」
「引き算も出来ねェのか、お前」
「え!?」
「x=4−2まで求めておいて何故3になる」
「………馬鹿な…」
「それはおれの台詞だ」
「でもほら、こっちからこう持ってきてこう…」
「あのな」


お前の考えとは360°違う


 何。あの子4−2が3になったの?ヒナ頭痛。そもそもなまえに当てた問題は4−2なんて計算に至るものではないのに。あの子どんな計算をしたの。トラファルガーの顔を見て青ざめるなまえは、見捨てないで教えてくださいと頭を下げている。彼も実際に解いている所を見て、なまえがどれだけ出来ないのか理解したらしい。

「せんせー!!!」
「…何、ルフィ」
「出来た!合ってると思うぞ!」
「あら、さっきまで遊んでたくせに早いわね。見せてみなさい」
「今回は自信あるなァ、おれ!」
「………少しでも期待して損したわ。やり直し」
「えー!!何でだ!?」

 …もう、このクラスはいつも疲れるけど今日は特別ね。スモーカー君はよく担任をしていられるわ。今度お酒でも奢ってあげましょう。


 ナチュラルに360度を勘違いしていますが温かい目で見てくださいすみません


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