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 おれが担当する授業は、週に何度もあるようなメインの授業ではない。教科は技術、ものを作る授業だ。同僚のアイスバーグもかつて同じ場所で技術分野の知識を身につけた仲間だが、ヤツは今は現代国語の授業を持っている。人に教える事を考えりゃアイツの方が得意だろうが、この学校の技術の教師にとおれを推してくれた。おれとしても、ちょいちょい子供に教えながらでも、道具が揃った作業場で好きなだけもの作りが出来るなら悪い話じゃなかったので引き受けた。しかしこのクラスの日だけは、教師になった事を少しだけだが後悔する。

「見てくれよフランキー!板にキレイに穴があいたんだ!今日は割らなかった!」
「嬉しいのは分かったから錐を置け!!振り回すな!」
「ギャー!!」
「ウソップお前カナヅチ使う時は手元気を付けろっつったろ!」
「フランキー先生、指を切りました」
「なまえもかよ!随分ザックリやったなァ、洗ってこい」
「絶対水がしみます、嫌です」
「うるせェ!こっち来い、ほら洗え!」
「ギャアア!しみる!しみる!」

 このクラスを見ていると本当に思う。まるで動物園だ。静かに器用に作業している生徒ももちろん居るが、基本的に落ち着いて座って作業出来る奴が少ない。なまえの腕を引っ張って廊下の水道で傷口を洗うのも、もう何度やらせた事か。よくもまァ毎回毎回カッターや何かしらでザックリと。この前はノコギリを取り出す時点で切っていた。ここまでくると逆に器用なんじゃねェのかと思い始める。

「よし。絆創膏を貼っておけ」
「ああしみた…これ絶対今日お風呂でもしみる…」
「我慢しろ。今日中に鳥の巣仕上げて提出しろよ」
「え!まだ木を切り終わってもいないのに!?」
「オメー以外にも終わってねェ奴はたくさん居るからな。今日は授業もう1時間もらって2時間にしてもらったから頑張れよ」

 そう。毎回こうやって授業が何度か中断されるせいで、今日中に仕上げて提出出来るレベルまで作業が進んでいる奴は少ない。だから今日の4時間目のたしぎから授業を1時間譲ってもらったのである。幸いたしぎが担当する古典の授業は、中間テストの範囲までのまとめは終わっていたので、快く譲ってくれた。

「ところでお前30周走ったって本当か。ご苦労なこったな」
「ルッチ先生は鬼です」
「よく授業間に合ったな」
「女神が応援してくれたんです…」
「女神ィ?」
「ハンコック先輩が次の授業が体育だったので。休み時間中ずっと応援してくださいました」
「なるほどなァ。なまえは美人の応援でやる気が出んのか」
「残念ながらサンジと違ってハリケーンとかにはなれないので、速度はあまり変わりませんけどね。頑張ろうっていう気にはなります」

 ノコギリと戦いながらなまえは語る。作業はまったく進んでいない。あまりにも切れないので、隣でノコギリを使っていたウソップが代わって切ってやっている。普通なら、本人に技術が身に付かなくなってしまうから自分でやらせる所だが…この授業内に提出出来なければ正直評価に大きく響くので見逃す事にした。メインの科目のみテストを行う中間では、技術や家庭科、音楽などの科目にはテストはない。そのため各科目ごとに、授業内で仕上げるようにテスト代わりの課題が出される。おれの授業では鳥の巣を作らせている。

「ところでどうして鳥の巣なんですか?」
「チョッパーがよく動物を呼んじまうせいか、学校の敷地内に大量の鳥の巣が出来てなァ。校内にまで小鳥が入ってくるから鳥の巣を作るよう校長から頼まれた」
「学年全員で作るほど必要なの!?」
「あァ、校庭や中庭の木全部に鳥の巣を付けたいらしい。『自然いっぱいなカンジで何かいいじゃろ、わっはっは!』って言ってたぞ」
「じいちゃん、やるっつったらやるからなァ」

 テスト代わりにもなり校長の頼み事も同時にクリア出来るこの課題だが、果たして全員分提出されるのか。ルフィやウソップは組み立てを始めていて、巣箱の形に近づいてきている。なまえはまだウソップに切ってもらった木の断面に紙ヤスリをかけている段階だ。さすがにヤスリは手伝わないと言われたらしい。

「お、ナミ。完成か?」
「ええ、あとは色をつけて完成ね」
「お前はこっそり作業早いよな」
「あんた達が遅いの。なまえも早く組み立てなさいよ」
「ちなみにナミ、着色終わったら手伝っていただけたりは」
「1分100円よ」
「うっ…出来るだけ急ぎます」
「そうしなさい」

 それにしてもナミはなかなか着色のセンスも良い。自分好みのオレンジ色をメインにするらしい。サンジはさっきからナミの作業を眺めてデレデレしている。サンジの鳥の巣はすでに青く塗られていて、着色まで済んでいるようだ。他の生徒達を見てみると、もともと進んでいた生徒は着色を終えて友達を手伝っている奴も居る。休み時間も続けて作業した生徒が多く、残りはあと1時間を切っている。

「おいなまえ、終わるか?」
「はい!ヤスリかけ終わりました!」
「いやヤスリじゃねェよ。色塗るまで終わるか?って聞いてんだ」
「………」
「……とりあえず形になってりゃ提出していいから組み立てろよ」
「はい…」

 遠い目をしたなまえは見なかった事にする。ウソップ達の鳥の巣も続々と出来上がり、作業が終わった生徒には名前のタグを付けて提出させた。提出が済んだ途端寝始める生徒、同じ作業台のメンバーと喋り始める生徒、どこに持っていたのか何か食べ始める生徒など様々だ。ナミは今なまえを手伝ってやっている。

「ホント5分でいいからカナヅチやってくださいお願いします」
「あんた指打つもんね…」
「お願いします…」
「いいけど500円よ」
「お支払いします…」

 深々となまえが頭を下げると、ナミはなまえの分の鳥の巣を組み立て始めた。一応金を取るだけあって、作業はそれなりに丁寧だ。器用に釘を打ち付けて巣箱の形になっていくのを、なまえは尊敬の眼差しで見ている。いや、本来その作業オメーがやらなきゃなんねェんだぞ。とツッコミを入れている間に巣は組み上がり、なまえはナミに再び深く頭を下げて、いそいそと絵の具の準備をする。塗るのは楽しみだったらしい。

「何色にしようかなー」
「なまえの好きな色にしたらいいじゃない」
「好きな色…あ、そうだ。ナミはオレンジ好きだよね」
「え?まあ、好きだけど…」
「じゃあここオレンジ。ルフィ何色が好き?」
「おれか?んー。赤は好きだ!」
「服も赤多いもんね。じゃあここ赤」
「ちょっと、いいの?」
「だって決まらないんだもん」

 なまえは巣に丸や星などの柄を描いて、それを周りの友人の好きな色にそれぞれ塗っていく。なるほど、全員の好きな色を使うのか。

「出来た!」
「オウ、随分カラフルに仕上がったなァ」
「フランキー先生は水色で入れてあるよ。ここに」
「おれも入ってんのか、ありがとよ」

 無事になまえの作った巣も提出され、授業もちょうど終了の時間。寝ている奴らを起こして授業を終える。何とか全員分提出されたな…と、おれも一息ついた。

「行くぞ、なまえ。メシだ!ウチは今日は購買だ!」
「よっしゃァア!終わった!昼だ!ご飯だ!」


ところがどっこい


「おい、なまえ」
「はい!?何ですスモーカー先生!私今ボニーの購買について行くために急いでるんですが!」
「科学のプリントが提出されてねェ。今日中に持って来い」
「……!?」
「…ウチ、ナミと先に行ってるぞ」
「もう一度言う。この前出した科学の課題プリントを今日中に持って来い」

 スモーカーがそれだけ言って戻っていった後、ぼんやりと遠くを見ているなまえが廊下に残っていた。

「なまえ、とりあえずメシを食ってこい」
「はい…」
「ちなみに聞くがプリントは持ってるのか」
「真っ白ですが」
「そうか…」


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