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 さて、昼休みだ。今日はルフィとメシを食う約束をしていたので1年生のクラスへ下りる。まァ、一緒にメシを食うというのはルフィを逃がさないための建前で、実際は中間は何とかいけそうか聞くのが目的だ。さっき職員室の前を通った時に小耳に挟んだ情報によると、古典の小テストではジジイの拳骨モノの点数を取っていたらしい。まったくしょうがない弟だ。

「よう」
「あ、エース!と、サボ!今日はサボが一緒なんだな!」
「ああ。マルコとサッチは委員で呼ばれててな。今日はサボとタイミングが合ったから連れて来た」
「ルフィ、ちゃんと勉強してんのかよ」
「ウッ…し、してる!してるぞ!」
「嘘つけ。こっち向いて言ってみろ」

 サボとおれ達はいわゆる幼馴染みで兄弟のようなモンだが、家は違う。サボは地元でも有名な屋敷に住んでいたが、今はおれ達の家の近くのアパートで一人暮らしをしている。何でも、屋敷では将来は良い大学に入れだの何だのと将来の事をとやかく言われて窮屈だったから一人で暮らしたい、と飛び出したらしい。ただ、元からそれなりに最低限の勉強はしていたし、それなりの成績は保っている。それもあってか、ルフィの成績が本当に心配なようだ。

「お前、また拳骨食らうぞ。追試なんかになったら酷い事になるぞ」
「やめろサボ!じいちゃんの拳骨なんて考えたくない!」
「じゃあ勉強しろよな」
「うぎぎ…」

 サボの言い方は優しい方だ。2人が話しているのを見ていると、ルフィの隣で珍しく真剣にプリントに取組むなまえが視界に入った。こりゃァ明日は雨でも降るんじゃねェのか。驚いてパンを落とすと、ギリギリ床に落ちる前にキャッチしたサボがおれに声をかけた。

「おい、エース!パン落ちたぞ。まさか目開けたまま寝てんのか?」
「んなわけあるかよ」
「いやお前よくやるじゃねェか」
「あれ見てみろ」
「ん?」
「なまえが真剣にプリント解いてる」
「………」
「っぶね!おれのパン落とすなよ!」
「わ、悪ィ。ちょっと動揺して」

 よくうちにも遊びに来ているサボは、なまえの追試が決定した事も色々とネジが緩い所もよく知っている。そのサボも、やっぱりなまえが真剣に勉強している姿には驚いたらしい。

「お、おい。何かおれ怖くなってきた」
「おれもだ…明日台風で中間テスト中止になるんじゃねェか」
「お兄さん方聞こえてますよ全部」

 なまえが、視線はプリントに集中したままで手を動かしながら会話に混ざってきた。ルフィはなまえに菓子を差し出しながら、何か食わねェと午後の授業腹鳴るぞ!と言っている。何だ、メシも食わずにプリントやってんのか?なまえが?

「なまえ、どうしたんだプリントなんて…」
「何か拾って食ったのか?ダメだぞ」
「サボ先輩は私の事を何だと思っているんでしょうか」
「なまえは今日は数学の授業も受けたんだぞ!」
「なまえが…?数学に…?」
「エース先輩。その顔結構傷つきます」

 話を聞いてみると、スモーカーの科学のプリントを提出し忘れていたらしい。存在自体忘れていたから白紙のままでプリント2枚。なるほどな、スモーカーの授業は毎回教科書より少し難しい。学校指定の資料集も合わせて細かく確認しないと解けない問題も多いプリントだ、必死になるわけだ。

「教えてやろうか」
「えっ本当ですかエース先輩!」
「うそ。今チラッと問題見たけどもうその辺どんなのか忘れた」
「エース先輩それで2年の範囲大丈夫なんですか」
「おれの心配をすんな。お前は自分のプリントと中間と追試の事考えろ」
「お…おっしゃる通りで…」

 本当はまあまあ内容覚えてるけど。チラッと見たら半分以上もう自力で解いてるから、ここで甘やかしちゃダメだと踏みとどまった。それはサボも同じらしい。なまえが今解いている選択問題を見ながら「そっちじゃねェよ!」と言いたい顔をしている。おれも言いたい。その問題はAじゃねェ、Cだ。

「ルフィはともかく、なまえが真面目に勉強してんのは安心した」
「明日豪雨かもしれないけどな」
「真面目な顔でなかなか失礼な事をおっしゃいますね…」
「ルフィも勉強しろ」
「そうだぞ勉強しろ」
「そうだよルフィ私を見習って!」
「えーおれ追試ねェもん」
「……」

 あからさまになまえが落ち込んだので、とりあえずルフィに拳骨を落とす。ついでにサボにもつねられていた。こういう時は何か食いもんをやるのが一番効果的なんだが、何かなまえの好きそうな甘いものを持っていただろうか。おれがポケットを探ると、意味を理解したサボもポケットを探る。サボが「おっ」と声をあげてポケットから出したのは、小さな飴だった。

「なまえ、これやるよ。プリント頑張れよ」
「え、くれるんですか!やった、飴だ!」
「あ、ちょっと待てサボ。それ…」
「ん?」


賞味期限明日までだわー


「切れてるかと思って焦った。ギリギリだったな」
「あぶねー」
「ちょっと待ってください。飴ですよコレ。生ものじゃないんですよ。いつからポケットに入れてたんですか。飴って結構賞味期限長かったような」
「まーいいからいいから」
「んな適当な…でもありがとうございます、頑張ります…(大丈夫かなこれ)」


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