02
 あの後ルフィと一緒に授業の前に職員室に来いと呼び出されたなまえは、クラス全員分のノートと共に教室へと戻ってきた。どうやら罰としてこの前提出したノートを持っていくようにスモーカー先生から命じられたらしい。まったく。ルフィは長い付き合いだから分かりきってたけど、なまえもなかなかだ。

「お疲れ、なまえ」
「ナミー!疲れたよー!」

 なーにが疲れただ、ノート全部ルフィが持ってきたんじゃねェか。そんなゾロのツッコミはなまえの肘打ちにより封じられた。ばかね。

「おいなまえ!これここに置いていいのか?」
「うん、ありがとうルフィ」
「いいんだ、パンもらったからな!しししっ」

 ノートを押し付けられたであろうルフィは特に気にしていないようだ。パンへの恩返しらしい。こういうのがなまえは上手い。なんだかんだで彼女が苦労をする姿はほとんど見たことがない。その分こうして今回のルフィのように誰かしらが彼女の代わりに何かをするが、決して強制という形ではないのだ。

「…みんな口ではどう言おうとあんたには弱いのよね」
「え、なーに、ナミ」
「んーん、こっちの話」

 まだ私に抱きついたまま、ナミ様ーなんて擦り寄ってくる姿は少し可愛い、と思ってしまう。自分もきっと相当この子には甘いのだろう(お金が関われば別だが)。

「さてさて私は任務も済んだし保健室にでも」
「…あら、サボるつもり?」
「おっとォ」
「わたくしの授業をサボろうだなんて…ヒナ屈辱」

 次はなまえの苦手な数学。保健室でサボろうとしたなまえが教室から出られないように立ち塞がるのは、数学担当のヒナ先生。その整った顔の眉間にシワを寄せている。なまえは冷や汗を流しながら後退る。退くつもりなど毛頭無いヒナ先生がまた一歩歩み寄り、今日は逃がさないわとなまえの腕を掴んだ。

「……うっ」
「今更そんな体調が悪いフリをしても無駄よ。ヒナお見通し。出席率を保つことはあなたにとっても私達教師にとっても最低限のルールなの」
「諦めて授業に出ろよなまえ」
「どうせ出席やばいんだろ」
「うっ…ウソップなぜそれを」
「あれだけサボってりゃ授業の出席率足りないのわかるだろ」

 ウソップの言葉がぐさぐさと刺さる音が聞こえてくるかのように青ざめた後、なまえはヒナ先生に腕を掴まれたまま自分の席まで連行されていった。クラス中の視線が集まる中で青い顔をして席に着かされる姿は、まるで投獄された囚人のようだった。おとなしく席に着いたなまえに満足してヒナ先生が手を放し、授業始めるわよ、と声を掛けて踵を返した瞬間。音も無く立ち上がったなまえは物凄いスピードで教室を出て行ったのだ。

「なっ…!戻りなさいなまえ!なまえ!!!!」

 ヒナ先生が慌てて廊下に出て声を張るが、そこにはすでになまえの姿は無かった。

「なんて逃げ足の速さ…ヒナ不覚…!」


ルールとは破るためにあるのだ


「はぁ…」
「先生、授業始めましょう」
「…そうね」

 額に手を当てて深い溜息を吐くヒナ先生に声を掛けると、定刻より少し遅れて授業が始まった。


「いいわね、ここは明日の小テストで出すからよく覚えて」
「先生!!!この問題はどの公式使えばいいんですか!!」
「…サンジ、そこは今教えたばかりよ。ヒナ失望」
「うんざりした顔の先生もまた美しい!!!!!」
「馬鹿言ってないでさっさと解きなさい」

 そんなやり取りがあってから数分後、終業のチャイムが鳴った。ヒナ先生が教室を出た少し後におやつのために戻ってきたなまえに、背後から低い声が掛かった。

「……なまえ」
「ひっ……な、なんだスモーカー先生かァ」
「なんだじゃねェ。お前に話がある。……菓子を食うのをやめろ!!!」
「ナンデスカ」

 次の瞬間、なまえは再び青ざめる事になるのである。

「ついさっきヒナから報告があった。お前の数学の授業出席率が校則で定められた7割どころか既に5割を下回った。よって今学期、来月の定期テスト後、夏休み前に問答無用で追試が決定した。今週末までに1教科分の追試料金1,000円を持って職員室へ来い」
「…………」
「分かったら返事をしろ。菓子を零すな」
「追試に1,000円掛かるなんて聞いてない!!!!!!!」
「何言ってる、生徒手帳にも書いてある。1年生をもう一度やりたくなかったら素直に払うんだな」
「………」
「次の授業までにその菓子だらけの床を掃除しておけ」

 なまえが放心状態のまま、誰も声を掛けることも茶化すことも出来ずに、次の国語の授業が終わった。隣の席のローだけが、憐れんだ目でなまえを眺めていた。


[ back ]