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 昨日の勉強会に始まり、朝からみっちり問題集を解いた。主に数学の。レベッカの叔母のヴィオラさんが、英語が話せるという事でリスニングの例題を読んでもらった。何とかほんのりだが少しは聞き取れなくもない所まで成長したので、今日はいける気がする。1時間目の自習という名の、生徒の最後の悪足掻きも終わり、スモーカー先生が黒板に「2時間目:数学、3時間目:現代国語、4時間目:英語」と書いて教室を後にした。テスト中には、試験官のスモーカー先生が監視し、それぞれの科目の先生が質問はないか各クラスをまわるらしい。

「ルフィ。私いける気がする」
「そうか。おれもだ」
「そういえば同点だった時とか万が一お互い赤点だった時はどうしようか」
「そん時は一緒に何か食おうぜ」
「分かった」
「お前ら点数関係なく食いもん食うつもりか」
「「うん」」
「……」

 休み時間終了のチャイムが鳴った。スモーカー先生がテスト用紙を持って戻ってきて、生徒達が慌てて教科書やノートをしまう。ついに来た、数学のテストだ。むしろ今の心境としては、この時を待ち望んでいたかのように自信に満ちあふれている。何かいける気がする。すごいサラサラと解ける気がする。テスト用紙が裏返された状態で配られる。

「試験開始から約20分後に数学担当のヒナがまわって来る予定だ。問題について質問のある奴はその時に聞くように。始め!」

 スモーカー先生の号令で一斉にテスト用紙をめくる音が響く。すごい。何か解ける気がする。おっと、さっきローに「名前書き忘れて0点になったら二度と教えねェからな」って言われたんだった。名前を書いてとりあえず問題を全て見る。最後の5問くらいは何を言われているのか全く分からない応用問題だが、半分くらいは計算問題が続いている。たぶんいける。出来ると思ったものから手を付けて解いていく。

「数学のテストで何か質問はある?」

 ヒナ先生が教室に入って来た。もうそんな時間か。私は分かる問題はだいたい解き終えて、さっぱり分からない応用問題に一応手を付けている所だ。隣のルフィが手を挙げた。「先生!この問題の答え分かんねェ!」「あらそう。残念ね」「ええ!?教えてくれるんじゃねェのか!?」「質問に答えるんであって答えを教えるわけではないわ」「ええぇー!」そりゃそうだ。ルフィが撃沈した後、ヒナ先生が戻っていき、数学のテストは終了した。

「次のテストは15分休憩の後、現代国語だ。いいな」

 数学のテストを回収したスモーカー先生が教室を出て、今度はみんな現代国語のノートとプリントを開き始める。アイスバーグ先生の現代国語の授業ではプリントでのまとめが多いので、だいたいの生徒はプリントを丸暗記している。私もそのタイプだ。メインで出そうな所と漢字を丸暗記した。

「ルフィ、数学どうだった」
「おれたぶん赤点じゃねェぞ」
「ほう?」
「そっちこそどうだ、なまえ」
「愚問だ」
「グモンって何だ?」
「えっ急に聞かれると説明に困るな…愚問って何?」
「…お前ら国語大丈夫か」

 隣のローから溜息とともに辛辣な言葉が飛んでくる。ちなみに愚問の意味はペンギンが教えてくれた。読んで字の如く、愚かな質問だ。ルフィの質問のせいで私まで混乱してしまった。

「大丈夫、きっと赤点は免れる」
「おれも自信ある」
「お前らの自信はどこから来るんだ」
「現国のテスト始めるぞ、教科書しまえ」

 スモーカー先生が入って来て、現代国語のテストが始まった。今度も少し経ってからアイスバーグ先生がまわってくるらしい。文章を読んで問いに答えなさい、という文章を読んでいる所ですでに眠くなってきてしまった。数学に全集中力と体力を使い果たしてしまった代償である(と思う)。何とか意識を繋ぎ止めて文章を読み、問題を解いていく。この時のヤスオの心境を文中から20字以内で書き出せ。知るか。ヤスオに聞け。

「ンマー、何か質問がある奴は居るか?」
「はい先生」
「なんだボニー」
「この漢字読めねェ」
「あー…それ言っちまうと答えになるから何かしら書いておけ」
「えー。わかんねェ」

 なんでこのクラスの生徒は答えを聞き出そうとするのか。でも正直私も聞きたい。ヤスオの気持ちが知りたい。悶々としている間にアイスバーグ先生は他のクラスへ行ってしまった。私は結局ヤスオの心境を書き出せないまま終わったが、その他の問題は全て解いた。この眠さでほぼ全問解いたのは奇跡といえる。

「次は英語だからな。しっかり準備しておけ」

 しっかり準備しろと先生が念を押したのは、私のように授業中寝ている生徒が居る事をおそらくラフィット先生から聞いているからだろう。点数が悪かったりしたらラフィット先生だけでなくスモーカー先生にまで叱られかねない。それだけは何としても避けたい。2人とも怒ると怖いからだ。

「なまえ、英語はどうなの?」
「ナミ…一応昨日ヴィオラさんにリスニング対策してもらったんだけど…」
「ヴィオラさん英語話せるものね、よかったじゃない」
「何とかいける気はするけど、今思えばヴィオラさんは私のためにゆっくり喋ってた。リスニングのCDの速度で聞き取れるかはちょっと自信ない」
「おいなまえ!弱気な事言うな!いける!」
「ルフィの根拠のない励まし攻撃…」
「ほら、これあげるから頑張りなさい」
「!!マフィン!」
「テスト中お腹が鳴ったら嫌でしょ?」
「さすがナミ様…」
「ナミ!おれには!」
「あんたはなし」
「えー!」
「ああ…おいしい幸せ…なんか眠くなってきた…」
「ちょっと、しっかりしなさいよ」


腹が減っては戦はできぬ、腹がいっぱいでも戦はできぬ


「ちょっとやばいマジで眠い」
「怒ってる時のラフィット先生の笑顔を思い出しなさい」
「アッたぶん3日は眠れない」


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