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「おやおや……私の笑顔が…どうかしましたか?」
「ひっ」

 突然背後からかかった声になまえが飛び上がる。ちなみにナミ屋はラフィットの気配を察知した瞬間、とばっちりを受ける前に席に戻っていった。ラフィットは気味が悪いくらいに顔に笑みを貼り付けて、なまえが開いていたノートを覗き込む。所々にミミズが這ったような文字が並んでいるノートだ、普段の授業でコイツが居眠りしてる事は一目瞭然。冷や汗ダラダラのなまえはラフィットから顔を逸らした。

「次は英語のテストですが…」
「はい…」
「調子はいかがです、なまえ」
「ええと…そこそこ…まずまず…ほどほど…ですか…ね…」
「そうですか。それはいい。期待していますよ」
「ははは、はは、ははは」

 なまえの両肩に手をポンと置いて“期待”を強調したラフィットは、静かに教室から出ていった。隣の席の麦わら屋が「なまえ、生きてるか?」と声をかけると、蚊の鳴くような声で全く聞き取れない答えを返していた。

「聞こえねェぞ、なまえ!」
「も、もうダメだ。先生のご期待には添えません…」
「どうしようトラ男!なまえが灰になった!」
「放っておけ」
「でももうテスト始まるぞ!」
「そうだな」

 麦わら屋がなまえをゆさゆさと揺すって現実に引き戻そうとしているが、コイツは遠い目をしたままだ。余程さっきのラフィットが効いたらしい。チャイムが鳴ると同時にスモーカーが入ってきて、周りから教科書類をしまう音が聞こえる。おれは最初から教科書もノートも出していない。この程度の内容ならわざわざ確認する必要もないからだ。

「…なまえはどうした」
「さっきラフィット先生に話しかけられてから、ずっとあのままです」
「あァ…アイツか…意識はあるか」
「たぶんありますが全く反応しません」
「そうか。まあいい、定刻だ。テストを始める。リスニング問題から始めるからテスト用紙が渡ったらそのまま待つように」

 スモーカーの号令で用紙を捲り、名前を書き込む。何となく隣を見ると、なまえは一応動いていた(名前を書いている)。リスニングのCDが再生されて、聞き取った文章を書き、穴埋めをし、選択問題を解く。正直言って内容としては中学のおさらいレベルだ。リスニング問題が終わるとスモーカーから再び号令がかかり、ライティングの問題に移る。これもまた馬鹿にしているのかと言いたくなる程基礎的な問題ばかりだ。このクラスの奴らに合わせて難易度を下げてあると言える。他のクラスの奴にしてみれば拍子抜けする程簡単だろう。全ての問題を10分そこそこで解き終え、残りの時間は昼寝に充てようと欠伸をする。そこでちょうどラフィットが教室に入ってきた。

「皆さん、何か質問はありますか?」
「はい!」
「どうぞ、ルフィ」
「どーゆーのあと何て読むんですか!」
「Do you play basketball?です。どーゆーではありません」
「それどういう意味ですか!」
「それを書くのが問題です。考えなさい」
「えー!」
「……中学生どころか小学生で習うようなレベルですよ」

 麦わら屋の質問で呆れた顔をしたラフィットは、なまえに一瞬目を向けて教室から出ていった。再び周りが静かになった所で、おれは昼寝の体勢に入った。

「…テストを回収する。全員名前を書いたか確認しろ」

 少し経って、スモーカーの指示で目が覚めた。やっと終わったか…と隣を見ると、なまえはスモーカーが来るギリギリまで解こうとしていた(終わりだっつってんだろ!もう諦めろ!と軽い拳骨を食らった)。その隣の麦わら屋は寝ていたらしく、でかい欠伸をしている。

「なまえ!今日のテスト終わったな!」
「うん、おわった」
「色んな意味の込められた“おわった”だな」
「うん」
「お前、今の英語どうだったんだ。リスニングも簡単すぎるくらいだったが」
「………分からない」
「あ?」
「どれだけ聞き取れたか何問解けたか何も覚えてない」
「……」

 虚ろな目で頭を抱えているなまえの言葉を聞いて、おれの前の席のペンギンとシャチも会話に混ざってきた。2人ともなまえのような顔はしていない、それなりに英語の出来は良かったようだ(あんなレベルのテストなんだから当然だ)。

「なんだ、なまえは英語まで危ないのか」
「ペンギン先生、出来たか出来なかったかすら思い出せないんです私」
「ラフィットの授業だぞ!?赤点だったらどうなるか…」
「シャチ黙ってよ」
「まーまー。あのセンセーの授業で赤点取る勇者なんて、お前とルフィとボニーくらいだろ」
「まだ取ってないし!!!!」
「英語のテストちょっとだけ自信あるシャチ様が、哀れななまえにアイスか何か買ってやろう。何か欲しいモンあるか?」
「テスト返却後ラフィット先生に1人で頭を下げに行く勇気」


どうせならもっと違うところに勇気を使おうよ


「…それはちょっとコンビニには売ってねェかな」
「買ってきて早く」
「無茶言うなよ!!」
「じゃあハーゲンダッツでいい」
「分かったガリガリ君だな!明日楽しみにしとけ!」
「………」


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