24
 1日目のテストが3つとも終わった。おれはとにかくテストが半分終わった事と、昼で学校が終わって家でエースが作ったいつものメシを皆で腹いっぱい食える事が嬉しい。…食べた後はエース達による明日のテストの勉強会が始まるけどな。今日はなまえも誘った。家庭教師はエース達2年生だと伝えると、なまえは泣いて喜んだ。なんで泣いてたのかはよく分からねェけど、凄ェ嬉しかったんだと思う。

「エース先輩達に教えてもらえるだなんて…何て心強いの…」
「なまえはそんなに嬉しいのかァ?エースの奴、答え間違ってると殴るぞ!」
「それはルフィだからでしょ。しかもエース先輩のご飯。はあ嬉しい」
「まあメシはうめェな!」
「ルフィは毎日食べてるでしょ、贅沢!おじいちゃんのご飯もおいしいし」

 なまえと2人でおれの家までの道を歩いていると、どうも後ろから視線を感じる。なまえは隣に居るから、これはなまえの視線じゃない。誰の気配かと周りを見渡す。なまえが「何してるの?」と不審そうにおれを見た時、なまえ越しに見える電柱の陰に誰かが引っ込むのが見えた。

「誰だ?そこに居んの」
「え?」
「誰か居る」

 電柱をじっと見ていると、隠れた奴が恐る恐る半分だけ顔を出した。その顔は、おれもなまえもよく知った顔だった。

「ひ、ひぇえ…ル…ルフィ先輩だべ……なまえ先輩まで…」
「何泣いてんだ?お前」
「お、おびざぃ、おぶ、おびゃじ」
「お、お久しぶり?」
「…!!」

 何度も舌を噛んでうまく喋れず、断片的に聞こえた単語からなまえが予想した言葉を言うと、言いたかった事と合っていたようでブンブンと首を縦に振った。コイツはおれ達と同じ中学に通っていた1学年下の後輩だ。

「久しぶりだね、バルトロメオ」
「…!??…!?なまえ先輩、お、おで、おれの名前…!」
「そんな泣かなくても…ちゃんと覚えてるよ」
「おれ…この感激で今すぐ死んでも悔いはねェべ…」
「お前こんな所で何してんだ?」
「!!い、いや、久すぶりにお姿を拝見したんでご挨拶をと思った次第ででも声かけるなんて勇気が出なくてどうすんべー!?と思ってたらルフィ先輩に気付かれておれァ緊張しちまってとにかく隠れようと思っ…ぐずっ」
「あ!オイ、また!泣くなよ!あと凄ェ訛るな!」

 鼻水まで垂れているバルトロメオに、なまえがティッシュを差し出す。でもバルトロメオはとんでもないと言いたげな顔をして、「そんな…!おれにティッシュなんてもったいねェべ!なまえ先輩が使う分なくなっちまうから大事に持っててけろ!」と断った。ティッシュくらいもらえばいいのにと思ったが、自分の鞄からティッシュを取り出して自分でしっかり鼻をかんだ。

「近所で有名な悪ガキのくせに、ハンカチとティッシュちゃんと持ち歩いてるんだね…えらいね…」
「…!???(今なまえ先輩から…おれの聞き間違いじゃなければ褒められた!?褒められたのか!?)」
「おい、口パクパクしてるぞ」
「あ、ルフィ。エース先輩達待ってるんだった!まだかーってメール来てる!バルトロメオ、私これからルフィの家で勉強会だからさ」
「!?べ、勉強会!?先輩達が!?しかもエース様!?」
「今日と明日中間テストなの、バルトロメオもちゃんと寄り道しないで家に帰るんだよ!行くよルフィ!」
「おう!じゃあまたなー!」
「ルフィ先輩、なまえ先輩、テスト勉強頑張ってけろー!……なまえ先輩が寄り道すんなって言ってた気がすっから今日はおれも真っ直ぐ帰って宿題やるべ…」

 バルトロメオと別れてから、途中小さな昔ながらの駄菓子屋でお菓子を買い、なまえと一緒に食べながら家へ帰った。ドアを開けたらエースとサボとマルコとサッチが全員揃って仁王立ち。一番前で腕を組んで見下ろしてくるエースの額にはうっすらと青筋。まずい。しかもおれの両手には駄菓子屋で買ったお菓子の山。

「た…ただいま…」
「おう。寄り道は楽しかったかァ?」
「こ、これには深い事情が」
「ほう」
「えっとその」
「エース先輩お邪魔します。いつもお菓子もらってばかりだし、今日は勉強まで教えてもらうのでコレお土産です」

 ちゃんと全員分ありますよ!とお菓子を差し出して、おれの後ろから顔を出すなまえ。エースの目がお菓子の袋へ移った。よかった、助かった。なまえ1人でそんなに食うのか?と思ってたけどエース達の分だったのか。

「おいおい、菓子ならおれ達も買ってるぞ?気ィ遣わなくてよかったのに」
「いいえ!この前はケーキまでごちそうになったので」
「見ろルフィ。お前と違ってこの気遣い。お前の抱えてるそれ全部自分のだろ」
「うっ…」
「ま、とりあえず上がれ。ルフィは靴揃えろよ」
「まったく、相変わらずエースそっくりの弟だよい」
「はァ!?おれこんなんじゃねェだろ!」
「中学ん時こんなもんだったぜ、お前」
「げ、中学ん時の話はやめろサボ!なまえも居んのに!」
「なまえ、サッチお兄さんの分のお菓子は?」
「サッチ先輩チロルと酢昆布」
「なんで!?エース達のはポテチとかなのに!?」
「うそ。特にどれが誰のとか決めてないから、好きなのどうぞ」

 サッチがなまえに抱きつこうとしたので、マルコに自慢の髪(毎朝すげェ時間をかけてセットするらしい)を握り潰されていた。サボが「サッチの隣は危ない」と言って、なまえをサッチから一番遠い所に座らせ、サッチはこんなむさ苦しい席は嫌だと喚いた。全員が腰を下ろしたところで、エースが2年生3人に向かって口を開いた。

「今日お前らに来てもらったのは他でもない、ウチのルフィとなまえのためだ」
「ああ」
「残念ながらおれ1人ではルフィ1人教えるので手一杯だ。むしろルフィに教える時点ですでに人手不足だ」
「知ってる」
「ルフィは体育の実技以外の全教科においてアレだが、なまえは最も苦手な数学を今日乗り越えた。なまえもなまえでわりと勉強に関してはアレな方だがルフィよりは全然良いとおれは信じている」
「失礼だなエース!おれは今回のテストなまえに勝つ自信があるぞ!」
「寝言は寝て言え。…そこでだ。全教科平均的にそれなりの成績を保っているマルコ、サボ。お前らの力を貸してほしい」
「あれ?おいエース、今おれの名前だけ聞こえなかった気がするなァ。気のせいか?気のせいだよな?」
「サッチにはあまり期待していない」
「何だと!!!」

 サッチが怒って大声を出したけど、さっき握り潰された髪のせいで全く迫力がねェ。マルコに「うるせェよい」と頭を叩かれて押し黙った。

「だってサッチお前…成績表の評価C多いじゃねェか。フツウだろ」


だまらっしゃいっ!


 サッチが唾を飛ばしながら言う。なんだ、サッチはCばっかなのか。エース達はどうなんだと聞くと、サッチ以外の3人の評価は、Aの中にちらほらBが混ざるという成績らしい。

「なまえ、サッチお兄さんにも分からない事聞いてもいいからな!な!」
「出来れば科学Aの人に習いたいかな」
「!!(がーん)」
「ならマルコとサボだな。おれこの前のは科学ギリギリBだった」
「エースは数学Aだろ?おれは数学がギリギリBだった」
「ルフィ、先輩達数学科学でAとかBとかレベル高いね。私その辺どう頑張ってもC。美術は今学期はAもらえそうだけど」
「おれだってDとかEとかだぞ!」
「ルフィ、それ悪い方」
「そうなのか!??」
「そういえばルフィって中学の5段階評価でも『1が一番いいんだろ!』とか言ってたね。1って一番悪いやつだよ」
「えええー!?」

 衝撃の事実をたった今知ったおれは、エースから思い切り拳骨を落とされた。そして長い長い勉強会が始まった。

「こりゃ今夜は寝れるか怪しいよい…」
「お願いしますマルコ先輩サボ先輩見捨てないで科学教えてください」
「わ、分かったから頭上げろ。な?」
「エース!おれ腹減ったぞ!」
「メシはここからここまで終わらせてからだ」
「うげェ!10ページも!」
「なァ。おれは何してればいいんだ」
「サッチは自分の勉強しとけよい」
「何のために呼ばれたんだおれは」
「お前が勝手に『エースん家か!?おれも行く』って来たんだろ」
「………(そうだっけ)」


[ back ]