いいわ、うちの船にあるのを使いなさい。そう言ってナミさんが差し出した電伝虫の受話器を、取っては置き、取っては置きを繰り返す。番号が分からないわけではない。ただ、向こうが受話器を取った時、第一声で何と言えばいいのか分からないのだ。何と言おうが恐らく怒られる事になるのだが。その動きを繰り返していると、痺れを切らしたルフィくんが、おれがかけてやる!と受話器を取った。
「番号!何番だ」
「え…う…えっと…」
ルフィくんの勢いに急かされて番号を言う。咄嗟に口から出た番号はコアラのものだった。数秒待つと、ガチャッと受話器を取る音が聞こえた。
『もしもし』
「もしもし!おれはルフィ!海賊王になる男だ!おめェ誰ですか!」
『ルフィ…?』
「ちょ、ちょっとルフィくん、」
『!今の声…なまえがそこにいるの?』
コアラの焦ったような声が、電伝虫の焦った表情とともに伝わった。そして電伝虫の向こうから「なまえだと?見つかったのか?」「無事だったか」と複数の声が聞こえた。うう、みんな心配をかけてごめんなさい。
「ああ、今おれの船にいる!さっき着いた島で変なやつらに絡まれてるのを見つけたんだ」
『……それって青い灯台のある島?』
「青い灯台…?ああ、あれか!確かにある!」
『間違いない…あの島ね……しばらくその島にいるの?』
「ああ!今日着いたばっかだからな!探検してくる」
『(探検…?)迎えに行くから少しの間なまえを預かってもらえる?出来るだけ急ぐから』
「いいぞ!サボの知り合いだしな!」
私はいつ自分宛ての怒鳴り声が飛んでくるかと船室の隅で縮こまっていたけれど、そんなものは飛んで来ず。途中から通話をルフィくんからロビンさんに替えたおかげで、コアラも少し安心したような声で話が進んだ。隅っこから漏れ聞いた情報によると、サボは任務中のためコアラが迎えに来てもいいのだが、自分だけ行くとサボが高確率で拗ねるだろうから彼が本部へ戻って来てから一緒に迎えに来る…という訳ですぐには来られないらしい。それと、今回の件についてはしっかり反省するようにとのハックからの伝言も漏れ聞いた。電伝虫に向けて土下座した。
「サボにはコアラ達から連絡を入れてくれるそうよ。サボが戻り次第すぐに迎えに来るって」
「何とお礼をすれば良いのか…」
「じゃあお迎えが来るまでなまえを預かればいいのね?」
「ナミさん…お世話になります…」
「いいのよ!自分の家だと思って過ごしてちょうだい。宿泊代はあとであなたの愛しの革命軍の参謀総長様に請求しておくから」
「ウワアア私が!私がお支払いします…!」
「あら、か弱い女の子からお金なんか受け取れないわ」
「(うそつけ…)」
「ウソップその目は何?」
「いえなんでも」
ナミさんに睨まれたウソップさんは、冷や汗を流しながらルフィくんと一緒に出て行った。チョッパーくんが陰から顔を出して、みんなで釣りするけど来るか?と誘ってくれたので参加する事にした。釣りなんて初めてだけれど出来るだろうか。なんでも彼らの狙いは海王類サイズらしい。とんでもない大物狙いだ。
「なまえ、いいか?海王類だぞ」
「見た事すらないのに…釣れるかな…」
「とにかくでっけェヤツだ!ウソップ達も気合い入れろよ!」
「「ミミズで海王類は釣れないだろ」」
ーーーーー
なまえがルフィ達と人生初の釣りをしている頃。
おれは出先でコアラから電伝虫で連絡を受けていた。
「コアラ今何て」
『なまえが見つかったの』
「今何て」
『だから、見つかったの。今サボくんの弟の船に乗ってる』
「………はァ!?」
『私達と入れ替わりであの島に着いたところで、チンピラに絡まれていたなまえを拾ったみたい』
「………」
おれは思わず頭を抱える。頭痛か?等と聞かれたがそんな事はどうでもいい。早く見つかったのは良かったが…チンピラに絡まれていただと?一人でふらふらしてるからそういう目に遭うんだ。連れ戻したら部屋に鍵でも付けてやろうか。しかもルフィの船に乗っているとは…不安とも安心ともつかない複雑な気持ちになる。だがあの船にはロビンとナミがいる。女が居る船なら何も問題は起きないだろう。
『サボくんが戻り次第すぐ迎えに行くって言ってあるから、それまでは島に居てくれるって』
「明日戻る」
『え?そんなすぐ片付く案件じゃなかったはず…』
「明日戻る」
『そんな無茶な』
「明日の朝には戻る」
『ちょっ、サボくん』
電伝虫の通話を切った。コアラの慌てた顔を再現していた電伝虫は、すでに静かに眠っている。今頃本部ではコアラが頭を抱えている事だろう。そしておれも頭を抱えている。もともとなまえを探すため、この案件にチンタラ時間をかけるつもりはなかったが、彼女が見つかって場所も分かっているのであれば話は早い。さっさと済ませて本部へ戻る。今考えるのはそれだけだ。
「……さっさと済ますぞ」
「さっきまでの頭痛はもういいのか」
「…頭痛どころじゃなくなったんだよ」
顔を合わせたらまず何て言ってやろうか。
…とりあえず思い切り頬をつねってやろう。
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