「おーい、なまえ!ミニメリー2号の点検済んだぞ!乗ってみるか!?」
「本当?乗ってみたい!」
あの後、船の修繕のための資材の買い出しに一人で街へ出ていたフランキーさんが帰ってきた。ロビンさんが事情を正しく説明してくれたのだが、初めての旅で恋人とはぐれて知らない島で一人ぼっちだなんてウウゥウ…と大声で泣きながら背中をばしんばしんと叩かれた(彼なりに慰めてくれていたらしい)。何やら少し勘違いされているようだが大体合っているのでスルーした。何より私もロビンさんも、訂正が面倒だった。そして一夜明けた今日、早朝からかなづちの小気味好い音を響かせながら小船の点検をしていたフランキーさんは、私が特に興味を示したミニメリー2号に乗せてくれるという。同乗者は目を輝かせたルフィくんだ。
「フランキー!早く!早く!」
「コラ!暴れんな、ひっくり返るぞ!」
「どっか行こう!探検!」
「バカ!この辺でちょっと動かすだけだ」
フランキーさんは自慢の小船の説明を、ルフィくんは、ミニメリーの元になった船であり以前乗っていた船・ゴーイングメリー号の説明をしてくれた。尽きる事なく語られるエピソードに夢中になっていると、サニー号の甲板から顔を出したウソップさんとチョッパーくんも、メリー号はそれはそれは素晴らしい船であったと涙ながらに語ってくれた(壮絶なラストの部分は嗚咽でよく分からなかったが、彼らの横に居たロビンさんが補足してくれた)。
「さあ、ご飯が出来上がったよ。なまえちゃん」
「ありがとう、サンジさん!」
「メシ!!おいフランキー、おれ先に行くぞ!」
甲板の方からサンジさんの声がすると、ルフィくんはミニメリーがドックに戻るまで待てずに腕を伸ばして先に戻って行った。毎度の事だが自由な船長で困ったもんだとぼやきながらも、フランキーさんは笑っていた。
「急がねェとルフィにメシ全部食われちまうな」
「ルフィくんたくさん食べるもんね…」
「安心しろ、おめェやナミ達の分はサンジが必ず確保してる。おれ達男は昨夜見た通り、食事のたびにルフィの腕との戦いだけどな」
そう。昨夜見たルフィくんの食いっぷりといったら凄かった。皆さんよく食べる人ばかりなのに、彼に比べたら普通に感じる。
「そういやおめェも結構食う方だったなァ」
「うっ」
「褒めてんだ、おめェが美味そうにいっぱい食えばサンジが喜ぶ」
フランキーさんとキッチンへ向かうと、すでにそこは戦場だった。サンジさんに怒鳴られながらも、瞬く間に皿を空にしていくルフィくん達。フランキーさんも自分の食事を確保するために急いで席についた。サンジさんは私に気が付くと、待ってたよと笑って料理を出してくれた。ナミさんとロビンさんが間に座らせてくれて、両手に花の状態で幸せいっぱいの朝食を済ませた。
「今日は島の探検しようぜ!あと釣り!」
「まだやんのか!?昨日もボウズだったろ!」
「いいや!今日こそ海王類釣る!絶対釣れる!」
「なんだその自信」
「お前も参加するよな!なまえ!」
いまだに口をもぐもぐと動かしながら今日の計画を立てるルフィくんに、またしても誘われた。昨日海王類を釣れなかった事が悔しくて仕方ないようだ。私が首を縦に振ると、ルフィくんは満足そうにサンジさんに海賊弁当なるものを注文した。島の探検のための必需品、お肉たっぷりの美味しいお弁当だそうだ。私の分も注文されていたので、釣りだけでなく探検の頭数にも数えられているらしい。
「探検って、どこに行くの?街なら大体歩いてきてしまったんだけど」
「ん?森の方だ!街とは反対側、あっちに歩いていけば森に入るぞ」
見た事ないすげェ生き物とか居ねェかな!とワクワクしている彼には、後ろで震えているウソップさん達が見えていない。森の探検なんて初めてな私は、どちらかというとルフィくん側なのでそわそわしている。着替えて部屋から出てきたロビンさんも散歩がてらついてきてくれるという、心強い。サンジさんがお弁当を持って出てきて、レディが森へ入るなんてと涙を流してくれたが、ルフィくん達やロビンさんが居るから大丈夫だと言えば渋々頷いた。
「ロビンちゃんとなまえちゃんにもしもの事があったらおめェら全員オロすからそのつもりで行け」
「「ギャ〜〜〜〜!!!」」
「任せろ!おれが居る!」
「頼りにしてるわ、キャプテン」
「なまえちゃんはロビンちゃんから離れないと約束してくれ」
「はい!ロビンさんが手を繋いでくださるそうなので大丈夫です!」
悲鳴を上げたのはウソップさんとチョッパーくんだが、ルフィくんの返事の頼もしいこと。ちなみに「ヒマだからおれも行く」と言い出したゾロさんは、ナミさんに「アンタは森で迷子になると厄介だから船番」と命じられ、ぶつぶつ文句を言いながら昼寝をしに引き返した。サンジさんはブルックさんを連れて食料の買い出しに街へ行くので、船から降りた所で分かれた。
「森の探検なんて初めて…!」
「そうなの?じゃあ楽しみね」
「ロビン!なまえ!置いてくぞー!」
「ルフィが走り出しちゃったわ、急ぎましょうか」
ロビンさんの手は温かい。
ーーーーー
ただいま。そう言って、疲れきった顔の部下を連れて戻ってきた我が上司に、軽く目眩がした。この人本当に宣言通り帰ってきた。昨日も電伝虫で彼に言ったけれど、そんなにすぐ片付けられる案件ではなかったはず。無表情で自室へ戻る参謀総長殿の頭は今、島に落っことしてきた恋人の事でいっぱいだろう。
「ほ、ほんとに終わったの…?」
「おれ達死ぬかと思いました」
「笑顔で凄い無茶言うんだぞサボの奴」
「何としても朝には本部に戻るってきかねェから」
「本気出して終わらせたのね…」
相当あっちへこっちへ連れ回されたのであろう仲間の話を聞き、部屋でゆっくり休んで…と肩を叩く。よろよろと歩いていった仲間達と入れ違いで自室から出てきたサボくんはピンピンしていて、行くぞ、と言って手袋をはめた。
「…休まなくていいの?」
「船で寝りゃ充分だ」
嘘言え。どうせ船に乗ったら乗ったで、そわそわうろうろと落ち着かずに島まで一睡も出来ないくせに。
…しかし、彼が自ら宣言したのだから朝には必ず戻ってくるのだろうと、いつでも出られるよう準備を済ませておいた私も私だ。まったくこの年下二人には手を焼かされてばっかりだ。
「こっちもバタバタしたんだから、島に着いたら何か奢って」
「……お好きな物を何なりと」
まるで紳士のようにして恭しく下げられたサボくんの頭に、やれやれと息を吐いて帽子を被せた。
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