05 - 森の探検
 森へ入って僅か15秒の地点で、頭上から降ってきた大きなクモにより私の心は折れた。ウソップさんは猛獣は苦手なくせに虫は平気なようで、クモを手に乗せて、こっちが何もしなけりゃ攻撃してこないさと笑う。頼むから、それを持ったまま近寄らないでほしい。ロビンさんはあのクモを前にして普段と変わらない顔をしている(これまでの冒険でタランチュラや大きな生物達とも遭遇しているせいで慣れているようだ)。

 あれから3時間程だろうか、私はロビンさんの腕にしがみついて森を歩いている。拝啓、初めての森にワクワクしていた私へ、森はとても恐ろしい場所でした。なぜナミさんと一緒に船でお茶を飲む事を選ばなかったの。

「そういえばルフィが居ないわ」
「本当だ…」
「ルフィなら何か音がするって右に飛んでったぞ」
「戻ってくるかしら」

 ルフィくんが居なくなったが特に心配はしていない。チョッパーくんが用意してきていた大きな袋は、彼が摘んだ薬草や食べられそうな木の実や茸でいっぱいになっていた。これだけあればサンジさんも喜びそうだ。特におかしな事もなく、いたって普通の森だと判断したロビンさんは、そろそろ戻りましょうかと提案した。私はぶんぶんと首を縦に振り、満足したらしいウソップさん達も頷いた。

「ルフィを探さねェと…ん?なんだアレ」
「……なんかバキバキいってるぞ」
「随分大きな……クマかしら、あれ」
「待って、なんかクマが叫んでる」
「………クマじゃねェ、叫んでんのはルフィだな」
「おーーーーい!!今日はクマ鍋しようぜーーー!!!」
「………」

 ルフィくんが聞いた音はクマが立てた物音だったらしい。大きなクマを背負った彼は、肉もとれたし帰ろうぜ!と嬉しそうに言った。また随分でかいの仕留めたな…と感心するウソップさんもクマを引き摺るのを手伝い、ロビンさんの先導のおかげで来た道の通りに戻り、森から出る事が出来た。

「クマ鍋クマ鍋〜!」
「ルフィくんご機嫌だね」
「しばらくクマ肉料理かしらね」

 買い出しから戻ってきたサンジさんにルフィくんがクマを見せ、これでクマ鍋にしてくれ!と騒いだおかげで今夜のクマ鍋パーティーが決定した。


ーーーーー


「まだか」
「数時間前に出発したばかりだよ、サボくん」
「あと何分だ」
「何分じゃ着かないかな」
「………」
「そこで座り込まないで」

 船で仮眠を取るとか言ってたのはどこの誰だったか。さっきからうろうろと私の周りを歩き回る。言っておくけれど、私はなまえをまったく心配していない訳ではない。それはハックや皆も同じだ。電伝虫に連絡が来るまでは本部の周りや、彼女が好んで行きそうな店の並びを手分けして探していたのだから。それでも目の前の彼ほど落ち着かなくなる事はない。無事は確認出来ているし居場所も分かっているのだから。

「落ち着かないのはよく分かったけど、船の上で火を出したりしないでね」
「なまえは無事なんだ、せめて島に着くまで寝ていろ」
「………寝つけりゃそうしてる」
「「……」」

 膝を抱えて座るこの男は本当に上司なのか。ハックと顔を見合わせて首を横に振る。頼れる革命軍ナンバー2のサボはどこへ。背中を丸めてぼんやりしている姿を眺めて、二人で遠い目をする。

「…重症だね」
「重症だな」
「なまえに連絡してみよう」
「番号が分かるのか?」
「ロビンさんに聞いておいたの」

 反応したサボくんが素早くこちらへ顔を向けた。それを無視してロビンさん側の電伝虫へ連絡を入れる。ちょうど受話器を取ったのはロビンさんだった。

「もしもし、ロビンさん?」
『コアラ?…待って、今ちょうどなまえがここに』
『も……もしもし…』
「なまえ?もう、心配したんだから」
『すみませんすみませんもうしません』
『なまえ、電伝虫に向かって土下座しなくても』
「今そっちに向かってるから。元気なのね?」
『今夜はクマ鍋です』
『ええ。クマ鍋よ』
『クマ鍋パーティーだ!!サボも来いよ!』
『こらルフィ!通話の邪魔しないの!』
『いで!!』
「元気だね」

 あまり会話は噛み合っていないが、仲良くやっているらしい。いつの間にか隣に来ていたサボくんが、私から受話器を奪う。

「あ」
「…ルフィ」
『!!サボか?』
「おれが着くまでなまえを頼む」
『おう。クマ鍋食うか?』
「食う」
『じゃあ食って待ってるから早く来いよな!全部食っちまうぞ!』
「ああ」

 それだけ話すと、サボくんは元の位置に戻ってまた座り込んだ。

「…そういう事なのでよろしくね」
『おう!なまえは元気だから心配すんな!』

 元気よく通話を切られたので受話器を置く。サボくんのそわそわ具合は、彼女の声を聞いてさっきよりはマシになったようだ。…でも。

「キミもなまえがそばに居ないと寝つけないのね」
「………」
「酷いクマ」
「……なまえに言うなよ」
「はいはい」


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