07 - 宴
 仕置きどころか逆におあずけを食らって不貞寝したおれが目を覚ますと、とっくに辺りは暗くなっていて、腕の中に居たはずのなまえも消えていた。どこ行った。

「騒がしいな…」

 ルフィ達の船のほうが騒がしい。部屋を出てサニー号の甲板を見ると、すでにクマ鍋パーティーとやらが始まっていた。おいおいおれが来るまで食うのは待つんじゃなかったのか弟よ。まだスッキリしない頭をゆるく振りながら甲板へ上がると、女同士丸くなっている固まりと、男共に混じって飲んでいるハックが目に入った。おれに気付いたなまえが駆け寄ってくる。

「…なまえ、お前。先に起きてたのか」
「疲れてると思ってそのまま寝かせてたんだけど…」
「起きるなら起こせ」
「んん、サボの髪くすぐったいからそれやめて」

 なまえの首筋にキスをしていると突き刺さる視線。ハックだ。…だからこれくらい許してくれって。

「おいサボ遅ェぞ!もう先に食ってた!」
「見りゃ分かる」
「食うだろ?分けといたぜ」
「おお、助かる。…いただきます」
「ああ」
「サンジ!おれの分は!」
「おめェは充分食ったろ!」

 ルフィが足蹴にされているが特に気にしない。おれ達兄弟の間でだってかつて日常だった光景だ、弟が食いモン絡みでケンカするのは見慣れている。それにしてもこのクマ鍋美味ェな、ルフィは良いコックを連れてるようだ。

「あ」
「あ?」
「おめェ、なまえに変な事教えてねェだろうな」
「何も教えてねェぞ。森には連れてったけど」
「森…?」
「探検だ!」
「ほう…探検ねェ…」
「いででででサボ!なんで抓るんだ!顔こえーぞ!いでーいでー!!」
「もしなまえに擦り傷1つでも付いてりゃこんなもんじゃ済まなかったぞ。これで済んでよかったな」
「ごべんだざい」

 謝罪があったのでとりあえず良しとする。真っ赤になった頬を擦りながらもガツガツとメシの続きを食べるルフィは、怒られた意味を理解して反省しているのだろうか。まあおれもガキじゃねェ。広い心をもって許そう。

「サボ…」
「ん?なん『ゴンッ』…………っ」

 名前を呼ばれて顔をあげたら、なまえの頭が降ってきた。どうやらナミ達に次から次へと強い酒を注がれて調子に乗って飲んだらしい。ナミやロビンはけろっとしているが。なまえはおれに思い切り頭突きを食らわせておいて、倒れ込んだ先のおれの膝を枕にすやすや眠っている。こいつ本当に後でどうにかしてやろうか。

「だっはっはっは!!サボたんこぶ出来てる!ププーーッ!」
「うるせェよルフィ…しかし効いたぞ今の……いってェ…」
「あの“サボ”にたんこぶなんか作れるの、なまえくらいだろ…」
「レディからの頭突きなら、あれくらい笑顔で何発でも受けてみせるぜ。おれは」
「黙れアホコック」

 おれを指さして笑い続けるルフィには拳骨を落として頭を摩る。げ、たんこぶ結構でかい。が、膝で幸せそうに眠る彼女は額がほんのり赤くなった程度で無傷だ。

「この石頭め…」
「……ふむぅ…」

 ほっぺたを抓ってやると、情けない声を出して身を捩る。髪をわしゃわしゃ撫でながら話しかけてみる。また気の抜けた声が出るんだろうか。

「おいこら」
「んぐ」
「たんこぶ出来たぞ、どうしてくれる」
「……むむ」
「……」
「!」

 睡眠の邪魔だと言わんばかりに眉を寄せて手を振られたので、白い首筋に舌を這わせて強めに噛み付いてやると、びくりと震えて飛び起きた。何が起きたか分からない様子で、首筋を押さえてきょろきょろしている。

 少し離れた2カ所からガシャン、ゴトッと音が聞こえて見渡すと、視界左側ではハックが、右側に見える女子スペースではコアラが、手にしていたグラスを落としていた。瞬間移動並みの速さで駆け寄ったコアラは、いまだに自分の状況が分かっていないなまえを庇うように抱えて「サボくんの変態!」と叫んで女子スペースへ戻っていった。

「変態って」
「今夜はサボくん一人で寝てね」
「は?」
「なまえは危ないからロビンさん達と一緒に女子部屋で寝かせてもらうから」
「ちょ」
「ここは本部の自室じゃないんだから弁えて」
「待っ」
「おやすみ」
「おいコアラ」

 なまえを姫抱きにして抱えているコアラを見て笑っていたロビン達も、グラスを片手におもむろに立ち上がった。

「コアラ達が部屋に行くなら私達もそろそろシャワーでも浴びようかしら」
「そうね。その後部屋で飲み直しましょ!女子部屋の夜はこれからよ」
「なまえは寝てしまっているけど?」
「みんなで話してればそのうち起きるわよ。あの革命軍参謀総長が恋人の前ではどんな人なのか、根掘り葉掘りじっくりと聞いてあげましょう」
「あら怖い。あんまりいじめちゃダメよ」
「なまえが起きるまでは私がお相手を!」
「ええ、コアラの話も久しぶりにゆっくり聞きたいわ」

 ロビン達と一緒に船内に入っていったコアラは、一度おれを振り返ってにっこりと笑顔を作った。唖然としているおれの目の前で、ドアがバタンと閉まった。いつの間にかおれの隣に座っていたハックが、首を振って呟いた。

「自業自得だ」
「……」
「コアラが正しい」
「……」
「本部の自室に戻るまでの辛抱だろう、それならコアラも咎めない」
「……」
「…それよりもまず、女子部屋でなまえとコアラが口を滑らせないように祈るんだな」
「口?」
「“根掘り葉掘り”と言っていたが?」
「…………」
「…顔色が悪いぞ(言われて困る事でもあるのか)」

 諦めてハックから受け取った酒をちびちび飲みながら、あいつら(特にコアラ)がおれとなまえについて余計な事を話さないよう祈った。



「…あら、こっちもまだ飲んでたのね」
「ロビン!おめェも飲むか?」
「女子部屋でもまだ飲んでるから遠慮するわ」
「……」
「…どうかした?サボ」
「……いや、何も…」
「………ふふ…あなた意外と……」
「……」
「ごめんなさい、何でもないわ…ただの思い出し笑いよ。私戻るわね…ふふ」

 …………あいつら何を話した。くそ…。


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