02
「何故バレたし」
「アーン? なんだと?」

 私は今、部活終了後にレギュラー部員が着替えている中で、景吾から説教を受けている。ジローと一緒に正座をしながら。他の部員はチラチラとこっちを見て気にしており、岳人に助けを求めるも目を逸らされた。説教を聞き流し、何故昼寝がバレたのかをひたすら考えていると、目の前の部長様のお怒りが頂点に達してしまったようである。いつもなら腹立たしいほど整っているお顔が、ヒクついている。

「てめぇら何故あんな場所で寝てた! しかも部活中に!」
「ジロー見つけたら私も寝てた」
「なまえは悪くないC…俺が勝手に抱き枕にしちゃったんだC……」
「じゃあなまえが持っていたアイスの棒は何だ」
「「それは知らない(C〜)」」

 これが最大の謎である。洗濯物は佐倉が畳んでくれていた事は、景吾から聞いて分かった。一応佐倉にお礼も言った。だが、ジローも私もアイスを食べた記憶だけは無い。でも、私が棒を握らされていた。

「景吾」
「あ?」
「これは事件だ」
「黙れ」

 頭を鷲掴みにされ、ぐりぐりと回される。横目にジローを見てみたら、同じように頭をぐりぐりされていた。一通り景吾の気が済むまで頭を回された後、「今回は許してやる、次は無ぇ」と言われた。この台詞はもう何百回聞いただろうか。結局は許してくれるんだよねー、とジローと笑い合えば、景吾様からまた拳骨を食らった。

「痛ぁ!」
「……余計な事言ってないでさっさと着替えろ。鍵を閉めるぞ」

 周りを見ると、私とジロー以外は全員着替え終わっていた。

「なまえ、頭痛くないのか?」
「え、痛いよ」
「…だよな、スゲー赤いわ」
「え! また!?」
「また?」
「さっきはたんこぶが出来たの」
「は? 一体何したんだよ…」

 急いで着替えていると、亮から声がかかる。今度は額のあたりが赤くなっているらしい。キングの拳骨の威力を思い知った。ちなみに私が部室で普通に着替えるのは1年生の時からで、今更他で着替えろなんて言うメンバーはいない。私が制服に着替え終わったのを確認して、岳人が近寄ってきた。

「ちょっと見せてミソ?」
「んー?」
「うあ…マジで赤い! 痛そー」
「……間違っても触らないでよね」

 言った直後は触りたそうにしていたけれど、私が本気で痛い事を目で訴えると、ぐっと留まってくれたらしく、両手で頭を撫でられた。

「そんな目すんなって! 俺が泣かしたみたいになんだろー!」
「わ、岳人やめて! 髪がぁあ!」
「着替えたならさっさと出やがれ、アーン!?」

 またもや拳骨をするような素振りを見せられたので、私と岳人は焦って外に出る。部室の前では、佐倉がアイスを食べながら私を待っていた。……見覚えのある棒。じっと見ていると、佐倉がヤベッと小声で呟いたので確信する。

「景吾!」
「何だ」
「アイス、佐倉だった」
「……」
「えへ。バレた?」

 佐倉は景吾の容赦無い拳を食らった。しかし、自分が仕えるお嬢様に罪をなすりつける教育係がいていいのか。罪といっても、部活中にアイスを食べただけなのだが。



「佐倉今日ご飯抜き」
「なんで!」
「今日は景吾の家にでも泊まろう」
「何勝手に俺様の家を予定に組み込んでやがる」
「いいじゃない」
「…まあ、構わねぇが」

 樺地に鞄を持たせたまま歩く景吾が、面倒そうにこちらを見る。いかにも面倒そうだね、と言うと、ああ面倒だと鼻で笑われた。クソクソ景吾め…いつか必ずホクロを毟る。

「なんだその顔は…早く乗れ」
「え?」
「はぁ? うちに来んのか来ねえのか、ハッキリしやがれ」
「あ、行く」

 凶悪な顔で物騒な事を考えているうちに気付いたら校門に着いていて、景吾のお迎えが来ていた。


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