「榛名ー、なんか小さい子が!」
「は? 小さい子?」
なんじゃそりゃ。眉間に皺を寄せながら、先輩に呼ばれた方へと顔を向ける。ああ、確かにちっさいのがいるな。
「なんだなまえか」
「なんだ元希か」
「は? 何しに来たの」
俺より20センチ以上低いと思われる頭を、ガシッと掴みながら言う。思ったより頭ちっさいな。ちょっと力入れればこのまま持ち上げられそうだ。コイツからわざわざグラウンドまで来ておいて、何の用だ? なんだ元希かって何だよ。
「いや、元希を見に」
「試合でもねーのに?」
「ちゃんとやってんのかなって」
「失礼なやつだなお前」
なまえの頭にタオルを被せると、湿っぽい! と苦情が出た。だってさっき汗拭いたヤツだもんよ。そう言ったら投げ返された。
「なんだよ、日陰代わりじゃん」
「汗拭いたヤツかけるな!」
「おま、人の厚意に文句言うなよ!」
アンダーの裾で汗を拭き、ふとなまえの後ろに視線を移すと、控えめに覗き込んでいる先輩たち。やべ、バレた! って焦り顔で引っ込んだけどもう遅い。彼女だとか勘違いしてんじゃないだろうな。
「なんすか先輩。皆してコソコソと」
「え、あ……いやー」
「榛名のカノジョかなー、なんて」
「はあ、やっぱり」
「えへへ。バレました?」
悪乗りして腕を絡めてくるなまえを振り解き、あほ!と拳骨を落とす。びっくりしている先輩たち。なまえの首根っこを掴んで、自分の顔の位置まで持ち上げた。
「ん! もっとよく見てくださいよ!」
「え?」
「双子っす、彼女じゃないっすよ!」
何故かコイツは背伸びなくてちっこいけど、それ以外は似てるっしょ!――怒鳴るように言えば、俺となまえをじっと見比べながら信じてなさそうな顔をする。
なんでだよ。小さい頃はよく、あらあら双子の女の子? なんて言われるほど似てたってのに。中学入ったあたりから誰も信じなくなったな。
「いや…だって…」
「何すか!」
「なあ、カグヤン」
「あ…ああ」
「お前の双子がそんな可愛いワケないだろう!」
意を決したように先輩が言った言葉に、一瞬固まる。どういう意味だ。なまえをカワイーっつったか今。嘘だろ。このチンチクリンなヤツが?
自分の顔の高さまで持ち上げたなまえの顔をじっと見てみるけど、カワイー……とは思えない。やっぱり、全っ然。
「……コレが可愛いんすか」
「コレって何よ元希!」
こくこくと頷く先輩たち。宮下先輩なんか、妹にしたいとか言い出す始末。は? コレを妹に? マジで?
「先輩大好き!」
「おいでー」
「やったー!」
「あ、こら!」
俺の腕をするりと抜けて宮下先輩の胸に飛び込んだなまえは、ニヤリと勝ち誇ったようにこっちを見た。……色んな意味で羨まし――いやいやいや違う! ムカつく! やっぱなまえがカワイーとか有り得ねえ!
……まあ、ブスではない…とは思ってっけど。でも、よりによって先輩たちからそういう目でなまえを見られんのは何かイヤだ!
「帰れ、なまえ! あほ!」
「な、なんで!? 元希の方があほ!」
「別にいーじゃん榛名! なまえちゃん可愛いから、マネジ業手伝ってもらっちゃおっかな〜!」
「涼音、後半が本音だろ」
……くそ、面倒なことになった!
榛名家の双子
「おいなまえ、マジで最後までいんのかよ」
「うん。涼音先輩が帰してくれないし」
「………」
「私もマネジやろっかな!」
「あ、そしたら俺らも助かるかも」
「先輩! なまえをノせないでくださいよ!」
「なまえちゃんマネジ決定ね」
「宮下先輩まで!」
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