「たーかーやー!」

 昼休み。教室の戸が思い切り開かれた直後に聞こえてきた、あからさまな怒声。こっちはメシ食ってるっつーのに何なんだ。イラッとしながら戸の方を睨むと、どすどすと効果音が付きそうなほどの迫力で歩いてくる女が1人。

「……お前か」
「そーだよ私よ!」

 明らかに怯えた目で「この子ダレ?」と訴えてくる水谷と、次の授業の小テスト範囲に目を通してたのに驚いてこっちを向く花井。窓際からは、女子と喋っていた篠岡からの視線。溜息を吐いてなまえを睨み上げると、微塵も怯むことなく俺を睨み返してくる。

「何だよ」
「お弁当! よく見てよ!」
「はあ?」

 手元の弁当を見ても、別にいつもと大して変わらない弁当だ。一体何だっつーんだよ、弁当がどうした。

「よく見て! 中身!」
「はあ? ………あー…」
「隆也のは、こっち!」

 なまえが突き出した弁当箱は、確かに俺の物だ。道理でいつもと比べて肉と野菜の割合が逆転してるわけだ。コイツいつもこんなに野菜ばっか食ってんのか。……ダイエットなんかする必要ねーのに。肉食え肉。

「そんなに肉食うの? って友達に言われちゃったじゃん、隆也のばか! あほ!」
「この前お前が俺のと全く同じ弁当箱と箸と袋買ったからだろ! 並べて置いてあったら間違うっつの!」
「だからってフツー間違う!? ちょっとどう思う、野球部の水谷くん!」
「え、え、俺!?」

 バン!と机を叩きつけたなまえの真横にいたばっかりに話を振られた水谷は、涙目で花井に助けを求める。花井は困ったように冷や汗を流すだけで、俺はもう呆れて言葉も出ない。なんで弁当食ってるときに、こんな話で揉めなきゃならないんだ。

「ああもう俺が悪かったよ! 次から確認する、これで満足だろ。教室戻れよ」

 そう言うと、怒りを散々ぶちまけてスッキリしたのか、なまえは予想以上に素直に弁当箱をしまって戻る準備を始めた。この感情の移り変わりの早いこと。怒り出したら手付けられないくせに、まったく誰に似たんだか。一息ついて席につき直そうとすると、水谷から恐る恐る声がかかる。

「あの、阿部」
「何」
「ど…どちら、様?」
「は? あー…コイツ?」

 こくこく頷く水谷を見ながら、椅子に腰を下ろして昼メシの続きを口に運ぶ。その一口を飲み込んでから、一言。

「双子の妹」

 ぶほ!と飲んでいたお茶を吹き出す花井と、驚いてムセている水谷。汚ぇな、とティッシュを渡して背中を擦ってやる。はあ、と深い息を吐いて水谷が言った言葉に、俺となまえは同時に反論した。

「似すぎじゃん!」
「「こいつと!? どこが!」」
「ほら!」
「「真似すんな!」」
「…………」


 阿部家の双子


「隆也バーカバーカ!」
「黙れ、バカはお前だ」

「双子って本当に似るんだな」
「どうしよ、阿部が2人いる…」
「……どういう意味だクソレフト」
「ひい!」


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