夜中に通った嵐もおさまり、今日は雲ひとつないほどの快晴だ。ナミさんとロビンちゃんは女部屋でティータイム、その他大勢は甲板で何かうるさく騒いでいやがる。
 そんな賑やかな船上で天使のような可愛らしい顔で眠るのは、なまえ。おれの自慢の恋人で、俺が知る中で一番の女性だ。……ナミさんたちももちろん好きだが。

「まったく、無防備な顔だな」

 吸いかけの煙草を灰皿へ押し付け、椅子に座ったまま気持ち良さそうに眠るなまえの髪を優しく梳く。その瞬間、長い睫毛が微かに震え、ゆっくりと目が開かれた。

「サンジ…?」
「目が覚めたかい、お姫様」
「もう。またそんな呼び方…」
「少し遅めのモーニングコーヒーはいかがですか?」
「ふふ…いただきます」
「かしこまりました」

 少し気取って話すと、なまえも調子を合わせて振る舞う。軽く微笑んでキッチンへ向かい、すぐにコーヒーを用意して戻ると、なまえはチョッパーと仲良く話していた。他の野郎なら蹴り飛ばすところだが、なまえはチョッパーを特に気に入っていて、チョッパーに対しては何もできねェ。

「あ、サンジ!」
「おう。お前もコーヒーいるか?」
「いや、おれは薬を調合しに戻るからいいんだ。ありがとう」
「頑張ってね、チョッパー」

 なまえが笑顔でチョッパーを見送った後、おれはなまえの隣へ座る。

「何話してたんだ?」
「医学書の整理をしていたら、花の図鑑が見つかったんだって」
「花?」
「うん。植物図鑑みたいなものかな? あとでロビンたちと一緒に見ようと思うの」
「……そうか」

 多少妬いちまったが、チョッパーはただなまえに図鑑を渡しに来ただけらしい。それを聞いて安心した。ぺらぺらと図鑑を捲っては、この花は綺麗だ、この花は可愛らしいと指さしながら呟くなまえに頬が緩む。

「……なまえの方が綺麗だ」
「お世辞なんていらないわ。褒めても何も出ないのよ?」
「本心を言ったまでだ。……ちょっと日差しが強くなってきたな。キッチンに入らねェか? 涼しいぜ」
「ん、行く」
「お手をどうぞ」
「ありがと」

 なまえの手を取り、立ち上がった彼女の頬へキスをする。

「キザね、本当に」
「君がそうさせるのさ」
「……もう」

 おれはくすくすとおかしそうに笑うなまえの肩を抱き、途中で通路を塞いで寝ていたマリモを蹴飛ばしながらキッチンへと入った。



「サンジ、コーヒーもう1杯」
「かしこまりました、お姫様」
「もう。恥ずかしいからやめて」

「ナミ! なまえはお姫様なのか?」
「そうよ、チョッパー。サンジ君だけのお姫様よ」
「なら…サンジは王子なのか?」
「そ……そうなるかしらね、一応…」
「2人ともすげェんだなー!」


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